【KAC20246】居酒屋トリ和え酢
ジャック(JTW)
油淋鶏
ここは居酒屋トリ和え酢。文字通り、鶏肉料理が評判の店だ。無愛想だが腕のいい大将と、愛嬌のある奥さんが二人で営業している店だ。
今日も仕事終わりに訪れた俺は、最近ハマっているメニューを注文した。
「大将、
無口な大将はこくりと頷き、冷蔵庫から鶏肉を取り出すと、一口サイズに切り始めた。この居酒屋のいい所は、調理過程が全部カウンターから見えることだ。
綺麗に磨かれたボウルに鶏肉が入り、下味をつけるために醤油と料理酒を入れてよく揉み込む。
ここの大将は、竹串で鶏肉に穴を開けて、味が染み込みやすいようにしているらしい。この段階でもう美味そうだ。
大将は、手早く鶏肉に片栗粉をまぶす。
中華鍋の中にたっぷりの油を入れて加熱し、ちょうどいい温度になった頃合に下味をつけた鶏肉を鍋に入れた。
ジュワジュワ、ぱちぱちと、心地の良い音が店内に響く。これだけで食欲が増してくる。
店内に、揚げ物の良い香りが充満する。
鶏肉は、ゆっくりと中華鍋の中で踊り、じっくりとこんがり綺麗なきつね色に仕上がる。
トレイに揚げられた揚げ鶏肉は、ツヤツヤてらてらとしていて、食感も素晴らしいだろうことが見てわかる。
これだけでも美味そうな唐揚げだが、今日注文したのは、油淋鶏なのだ。ここからが味の決め手となる。
この店の油淋鶏のタレは、絶品である。
おろし金でおろした生姜に、醤油、酢、隠し味の砂糖、香り高いごま油を混ぜて作られたそれは、絶妙なバランスで油淋鶏の美味さを引き立てる。
そのタレを惜しげも無く使い、揚げ鶏肉に和える。
揚げ鶏肉は、ジュウジュウといい音を立てている。
もうよだれが出そうなほど待ちきれない心地で、俺は料理の完成を待った。
愛想の良い奥さんの手によって、盛り付けが始まる。細切りキャベツとレタスが美しく添えられ、華麗な器に盛られている。
そして、待ちに待った油淋鶏がカウンターに運ばれてきた。
「おまたせしました。油淋鶏とビールです」
奥さんが持ってきてくれた皿には、こんがり綺麗な色をした油淋鶏が、所狭しと並べられている。
揚げ物の王者、至高の鶏肉料理、俺が今日ずっとずっと楽しみに待ちわびた油淋鶏様の御成りだ。
俺は割り箸を取り、パキッと割る。
そうして、待ってましたと言わんばかりに一つ油淋鶏を箸でつまみあげる。そして、口に運ぶ前によくよく観察する。料理は目でも楽しむものだ。こんがりきつね色の油淋鶏に、生姜がたっぷり使われたタレがよく絡んでいる。鶏肉も新鮮なものが使われているのだろう。期待通りの弾力が箸から伝わり、ごくりと唾を飲み込む。
──俺は、油淋鶏にかぶりついた。
噛んだ瞬間、揚げ物の良さであるサクサク感がまず伝わる。皿に肉汁と酸味のバッチリ効いたタレが舌に絡み、俺は最高のマリアージュを味わうべく、目を閉じて味覚に集中する。
柔らかい鶏肉の歯ごたえと、鼻に抜ける生姜の香り。酸味と甘みと醤油の味わいのバランスが絶妙なタレが鶏肉の美味さを引き立てる。噛めば噛むほど、じわりと旨味が染み出してくる。味が濃いめに作られている油淋鶏は、最高の酒のアテでもある。
俺は、キンキンに冷えたビールをごくごくと喉に流し込んだ。喉越しやキレが最高で、少しの苦味が口の中に染み渡り、仕事の疲れが癒えていくのを感じる。
「ぷはー!」
俺はビールを半分くらい飲んだ後、油淋鶏に再びかぶりついた。キンキンに冷えた酒の後に、熱いくらいの出来たての油淋鶏を頬張るのは至高の贅沢と言っても過言では無い。
居酒屋トリ和え酢のいい所は、お手後な価格帯でありながら、ケチ臭くないところだ。まるで食べ盛りの学生に食べさせてやるみたいに、油淋鶏を山盛り提供してくれる。ありがたすぎる。
力一杯食べても目減りしない幸せを噛み締めながら、生姜のよく効いた油淋鶏を頬張る。食べても食べても飽きのこない、酸味と揚げ鶏の最高のコラボレーション。
俺の食べっぷりを見ていた他の客も油淋鶏の気分になったらしく、「大将、こっちにも油淋鶏」「こっちにもくれ」という声がじわじわと広がる。
今日も、居酒屋トリ和え酢は大盛況。
【KAC20246】居酒屋トリ和え酢 ジャック(JTW) @JackTheWriter
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