【KAC2024】トリ、会えず【KAC20246】

御影イズミ

とりあえず。

「ん~~むむむ……」

「おや、メルさんどうしました?」

「おう、エミさん。いや、トリ会えずって感じでなあ」


 食堂にて頭悩ませるメルヒオールと、食事を持ってきたエーミール。

 2人はある仕事のために合流したのだが、その仕事というのがまた面倒なもの。自力の情報収集はかなり難しいということで、セクレト機関の情報収集の鬼・通称『トリ』に会いに行こうとしていた。

 だが『トリ』が何処の誰なのかわかっていない。本当に鳥だとか、鳥の入れ墨をしている人だとか、トリが名前に入ってる人だ、等々いろいろな話が飛び交っていて真に『トリ』に辿り着くのが難しい。


「せやから今回の仕事、親父に言うて取りやめてもらおうかなって」

「ああ、確かに。私達だけではどうしても無理ですもんね……」


 いただきます、と割り箸を割り、蕎麦をすすったエーミール。上に乗った天ぷらをぎゅっと箸で押し付けて、つゆを染み渡らせていく。

 対するメルヒオールもドスドスと天ぷらに箸を突き刺し、つゆを染み渡らせる。食べ方に明確な違いが出るのがこの兄弟というものだ。


「ここ、いいか?」


 そうしてやってきたのは、同じ調査人のライアー・シェルシェール。彼も昼食休憩だったようで、首から休憩の札を下げてうどんを持ち込んでいた。


「ああ、ライアーさん。お疲れ様です、いいですよ」

「悪いな。……はー……」

「どしたん。なんかあった?」

「や、例の『トリ』ってのが俺じゃないかって言ってくるヤツがいて……」


 ライアーはかなり消耗しきっていた。『トリ』がライアーじゃないかと言い出した調査人がいて、それに感化された者達への対応をし続けていたと。

 彼の名前は鷺を意味する名前。鳥科の名前がついてる、イコール『トリ』じゃないかというのがその調査人の言い分らしい。


 だがライアーは一端の研究者だ。調査人として動くこともあるが、彼には制約があるため外に出ることはままならない。故に『トリ』はないだろうというのがエーミールの結論だ。


「……ホンマにおるんかねえ、トリって」

「どうなんだろうなぁ。でも実際に、会ったっていうやつもいるし……」

「セクレト機関の七不思議みたいなものですね、これ……」


 謎が謎を呼ぶ『トリ』。

 そのうち機関の中では、至るところでこの言葉が飛び交うのだ。


 『トリ、会えず』と。

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