からあげ
くにすらのに
からあげ
「とりあえずからあげ」
この一言の積み重ねがトリを怒らせてしまった。その結果、この世からからあげが消えた。レシピから、記憶から、全てから。
人間は鶏肉を食べる時に煮たり焼いたりすることはあっても粉を付けて揚げることはなくなった。からあげのついでにフライドチキンもなくなってしまった。
軽い気持ちでからあげを注文し続けた人間への罰だ。からあげを知っているのはトリだけ。トリが人間にからあげの知識を授けなければ復活することはない。
だけど人間たちはおいしそうに鶏肉を食べている。あれだけ大好きと言っていたからあげがなくなったのに幸せそうに生きていることがトリは不満だった。
からあげに近い料理を教えてみよう。なんかモヤモヤするはずだ。トリはフライドチキンの記憶を人間に返した。
衣に味を付けて揚げる。カリカリでスパイスの効いた衣と大きな肉は人間をさらに笑顔にした。だけどモヤモヤする気配は全くない。からあげは本当に「とりあえず」程度の存在だったのか?
専門店や1位を決める大会まで開いておいてこの仕打ち。やはり人間にからあげは分不相応だ。人間がなにか違和感を覚えて反省すればからあげを返してやろうと考えていたのに、トリはもう絶対にからあげを人間に食べさせないと決めた。
決めたが、トリの口はからあげを欲していた。共食いではない。トリは鶏だが人間が食べる鶏とは違う神様的な存在だ。鶏の命をいただくことでトリはさらに鶏として上位の存在になれる。
トリは自分で揚げ物を作れなかった。だけど一羽でこっそり練習しているところを人間に見られたらからあげのヒントを与えてしまう。それに食べるなら美味しいからあげを食べたい。
人間の反省と自分のからあげ欲を天秤にかけた。からあげは命そのもの。それはそれは重いものだ。
外はカリッと中はジューシー。人間たちの頭の中はある料理でいっぱいになった。
「絶対にからあげがいい!」
人間たちの中に蘇ったからあげは、各地の食卓で取り合いになるくらいだった。それは怒りや憎しみによる争いではなく、鶏愛に満ちた幸せなものだった。
からあげ くにすらのに @knsrnn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。