トリあえず検査しましょうか

ゆる弥

ど、どうしよう?

「トリあえず、検査しましょうか?」


 目の前の白衣を着た先生から言われた一言で俺の不安は爆発した。


 事の発端は、毎年恒例の健康診断だった。

 まぁ、いつもと同じように肥満だなんだと言われて脂肪肝になりつつあるとか。

 そんなことを言われるのだろうと思っていた。


 特に体に異常はないが、38歳の体は内部が異常をきたしていたらしい。

 健康診断を受け、その後、のほほんと仕事をしていた。

 そんな中、一本の電話がかかってきた。


「エコー検査で異常が見つかりました。再検査してください」


 その電話口の人は冷淡にそう話す。

 こういう仕事の人だから感情はないのだろうけど。


 俺はその指示に従い、大きな病院へと行った。

 そして、冒頭へ戻る。


「この検査の所見をみてみたところ、ガンの疑いもあるようです。まず、血液検査でガン細胞があるかどうかを検査します。エコー検査ももう一度並行して行いましょう」


「ガン!? ってあのガンですか!?」


「はい。不安を取り除くためです。可能性は低いですが、やっておきましょう」


 その日から笑えなくなった。


 俺には付き合っている彼女がいる。名前はミク。

 交際三年目だ。

 最近様子のおかしい俺を心配してくれている。


「最近おかしいよ? どうしたの?」


「じつは、健康診断で再検査になって、この前検査を受けてきた」


「あぁーあ。やっぱりお酒控えた方が良いんじゃない?」


「そうかもな……」


「なに? そんなに良くなさそうなの?」


「もしかしたら……ガン……かも」


「えっ?……うそ……」


「ど、どうしよう? 可能性はあるらしいんだけど」


 彼女の顔はみるみる曇っていく。

 それはそうだ。

 こんなときに笑っていられないよな。


 すると、予想外の一言が飛び出した。


「トリあえず……結婚しよっか」


「おい! 何言ってんだよ! 俺がこんな状態なのに結婚なんかしたらミクが大変だろう!?」


 ミクは持ち前の太陽の様な笑顔で答えた。


「大変な時だから。だからこそ、私が一緒にいたいんだよ。たとえリョウちゃんがガンだったとしても、一緒に闘いたいんだよ。辛いときには隣にいたいんだ」


「でも、死ぬかもしれないぞ?」


「最後まで一緒にいる」


「抗がん剤で髪の毛抜けるかもしれないぞ?」


「帽子編んであげるね」


「子供、できないかもしれないぞ?」


「できるかもしれないじゃん」


「ミク……ホントにいいのか?」


「うん。トリあえず婚姻届、明日取ってくる!」


「急だな!」


「早い方がいいじゃん!」


 次の日、婚姻届をとると記入し届け出を出した。


 これではれて結婚したことになる。

 両親にもガンかもしれないと話し、結婚したことを伝えた。


 そして、検査結果を聞きにミクと来ている。


「あぁ。どうですか? 体調は?」


 なんだその会話の入りは?

 結果が悪かったから気を使っているのか?


「結果が気になり寝られていません」


「はっはっはっ! そういう方たまにいますねぇ」


「そうですか……」


「それで、結果なんですが……」


 ゴクリと唾をのむ音が響く。

 ミクも前のめりで話を聞いている。


「特に異常は見当たりませんでした。何かの影が映ったようですね」


 頭が真っ白になった。

 えっ?

 なんともないの?


 呆然と先生を見つめる。


「では、また何かありましたらきてください。健康ですが、お酒は控えた方がいいでしょう。はい。いいですよ」


 はぁぁ。なんだよぉぉ。

 なんでもないってなんだよぉぉ。


 俺の表情を見ていたミクは笑顔で横を歩いていた。


「ふふふっ。トリあえずさ、よかったじゃん! 楽しい結婚生活が送れるね!」


「ミク……ありがとな。こんな俺と結婚してくれて」


「うん! 今日は飲もう! お祝いだぁぁ!」

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