取り合わず

「どうしたんですか、霜降さん」


 重役らしい広々としたデスクと、長時間座っていても疲れないと評判のイス。いつ見ても余裕たっぷりの微笑みを浮かべている〝組織〟こと『風車かざぐるま宗治そうじを讃える会』の最高責任者、作倉さくらすぐるのセリフだ。


 対峙するのはポニーテールの美女、霜降伊代いよ


「暇なんですか?」


 金曜日に全員が退勤してからの翌日までが準備時間。指定された時間よりも早く到着する者もいただろうに、ずいぶんな嫌がらせである。


「見ての通り、忙しくて忙しくて目が回りそうですよ」


 見ての通りと言えども、作倉の瞳は色の濃いサングラスにさえぎられていて見えない。


「では、受け取るべきものを受け取ったらすぐにおいとまさせていただきます。のでしょう?」


 芦花と千夏が動き出してからすぐに、伊代はこちらの部屋に移動してきた。作倉は悪びれずに「空っぽではさみしいので、みなさんが喜びそうなものは入れましたよ?」と言い返す。


「……そんなことだろうと思っていました」

「あなたとも付き合いは長いですしねぇ」


 作倉は引き出しから正しい金額が入った封筒を取り出す。デスクの上に出して「ああ、こちらの部屋にある封筒は、他の人のを見つけても渡せませんよ」と付け加えた。


「それは、私ではなく、これから来るであろう人たちに言うべきではないかと」

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