取り合え! ボーナスの金!
秋乃晃
夏期手当ステークス
「ボーナス! ボーナス!」
たーちゃん(※
組織のトップが直々に誘ってくれたんだから、わたしにも受け取る権利があるってコト!
「秋月さん?」
「ちなっちゃん、どしたん?」
「ふっふっふ。今日はみなさんが楽しみにしている『ボーナス』が渡される日だって、作倉さんから聞いたの!」
「せやけど、ちなっちゃんはもらえんとちゃうかな?」
天平パイセンもたーちゃんと同じことを言ってる。この超弩級の新人が仲間はずれにされるなんて許されないの。わたしだって、四月から今月までガツガツ! 働いてきたワケだし!
「いいものがもらえるって教えておいて、渡さないってのに、わざわざ休みの日にわたしみたいな究極美少女を呼び出すような人じゃないと思うの!」
「いや……どうでしょうか……」
霜降パイセンが苦笑いしている。むぅ。ボーナスがもらえないんなら、来た意味がないの。今すぐ帰って二度寝するの。
「というか、パイセンたち、なんでスーツじゃないの?」
周りの人たちもみんな、動きやすそうな格好をしていて、わたしだけスーツ。なんだか場違いなの。ポニーテールがトレードマークな霜降パイセンは某スポーツメーカーのウィンドブレーカーをおしゃれに着こなしていて、なんだかモデルさんみたい。一方の天平パイセンは蛍光ピンクのジャージの上下セット。今日はお団子頭でカワイイ系にまとまっている。ふたりともおそろいのスニーカーなのは、いっしょに買いに行ったのかも。お二人は同期で仲良しだし。
「各自、動きやすい格好でってお達しがあったんやで。ちなっちゃんはそこまでは聞いてなかったん?」
「ボーナスを受け取るだけなのに?」
これじゃ、まるでマラソン大会が始まるみたい。と言おうとした矢先、オフィス内に『みなさん、お休みのところお集まりいただきありがとうございます』と作倉さんの声が響き渡った。スピーカーからの音声で、ご本人の姿は見えない。
『今日はみなさんにちょっと殺し合いを――ではなく、探り合いをしていただきましょうかねぇ』
殺し合いという不穏な単語にざわつく。探り合いにランクダウンはしたケド。探り合いって何なの?
『みなさんのボーナスは隠しておきました。封筒のおもてに、宛名が記載されています。このフロア内で見つけた封筒に関しては拾った人に所有権を認めますよ。宛名が違っていてもです』
ざわめきが大きくなる。
違う人のを見つけても、自分のものにしていいってコト!?
『もちろん、受け取るべき人に渡してもいいですし、そのまま自らの懐にしまってもかまいません。お任せしますよ』
そんなの……。
そんなの、渡すワケないの!
誰よりも早く、全部の封筒を見つけ出して、臨時収入で豪遊するの!
「――聞いた? ちなっちゃん」
今の天平パイセンと、わたしは同じ目をしている。金だ。世の中は金。金はあったほうがいいし。ないよりはありすぎたほうがいいの!
「ありったけの金をかきあつめるの!」
「話聞いとる場合とちゃうな?」
わたしと天平パイセンは拳を突き合わせた。言葉にするのは野暮ってものなの。
「わたしは右から!」
「ほな、左から行くで!」
わたしと天平パイセンが二手に分かれて動き出す。慌てて周りの人たちも「おれも!」「待って!」と他人のデスクに飛びつき始めた。遅いの!
「あった!」
さっそく一個目!
名前は、――秋月でも天平でもない。よし!
「おりゃっ!」
勢いよくビリビリと封筒を破る。
分厚いから、諭吉が十枚ぐらい?
「ぬ?」
中から出てきたのは、ねこちゃん用のおやつ……あの、耳に残るCMソングの……。
「にゃっ!?」
近くで他の人が封筒を見つけ出して、わたしと同じように開けている。そっちにもねこちゃん用のおやつが入っていたみたいで、思わず「にゃっ!?」と言ってしまっていた。色違いなのは、たぶん、味の違い……。
「作倉さん、わたしたちのことねこちゃんだと思ってるの……?」
いろんな人たちが封筒からねこちゃん用のおやつを見つけて、首を傾げたり床に叩きつけたりしている。がっくりと肩を落としている人もいれば、回転イスでくるくる回っている人もいる。
ポニーテールの――あれ? 霜降パイセン、どこ行ったの?
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