第81話 ね、〇〇くん
夏休みが終わり、始業式だけでその日の学校は終わり、放課後になって俺とふーちゃんは、付き合うことになったとみんなに報告した。
「付き合ってるとか付き合ってないとか、あんまり関係ないことなのかなぁって二人を見てると思うようになったよ。いやもちろん、僕は有紗の彼氏だし、そういう契約というか約束をすることはいいことだと思うよ? でもさ、勇進も新田さんも、お互いにお互いのことしか興味ないって感じだからさ。とりあえず、おめでとう」
「ねー、本当にいままでなんで付き合ってなかったのか不思議。おめでとう勇進ふっかちゃん!」
まず和斗と有紗の反応がこんな感じ。改めてお祝いの言葉を言われるとなんだか照れてしまうな……俺ですら照れるのだから、照れ屋なふーちゃんはもっとである。
うつむいて「ありがと」とか細い声で口にしながら、俺の制服の裾を掴んでいる。その姿がさらに相手をニヤニヤさせてしまうことに果たして彼女は気付いているのかいないのか……抱きしめたい気持ちでいっぱいだったが、まだ教室にはたくさんのクラスメイトがいるので自重しておいた。
その後、誠二、千田、雪花からもお礼の言葉をもらい、報告は完了。
だがそれだけでは終わらなかった。まだ帰宅していなかった教室にいるクラスメイトたちが、ぞろぞろと俺たちのもとによってきて『おめでとう』という言葉を掛けてくる。
特に隠すつもりはなかったから普通の声で喋っていたから、どうやらその声が聞こえていたらしい。素直に嬉しい。
「いやー、正直ずっともやもやしてたんだよな。『お前らはよくっつけや!』ってずっと思ってたからさ」
「わかるわー。俺は『世の中のカップルのハードルが上げられてね?』って思ってた。あれで付き合ってないっておかしいじゃん。新田さんが放課後になって『一緒に帰ろ!』って邁原に言ってるところとか、もう完全に好きな人と一緒にいたいって気持ち丸わかりだし」
「私としてはこれからどんな進化をするのか楽しみ」
クラスメイトたちが、次々にそんな感想を口にする。
そして『気持ちが丸わかり』と言った山田、ふーちゃんが恥ずかしがってるからそれ以上はやめなさい。照れてるふーちゃんは可愛いけど、あんまりいじわるしたら彼氏の俺が怒ります。
そしてそのお祝いの波は、クラスという境界をあっさり超えた。
一年の時に同じクラスだったやつ、選択授業で一緒になるやつ、元舞宮中のサッカー部の先輩後輩――知り合いに会うたびに『おめでとう』と声を掛けられた。
時には俺もふーちゃんも話したことがないような人から「おめでとう!」と声を掛けられたりしたし、いったいいつの間に俺とふーちゃんの関係はそんなに広まってしまったのか。
あぁでも、体育祭でお姫様抱っことかしたから、そういう感じである程度認知されていたのかもしれないな。
何はともあれ、俺とふーちゃんの関係を祝福してくれるのは嬉しいことだ、ふーちゃんも終始顔を真っ赤にしていたが、時々俺を見上げては『えへへ』と嬉しそうにはにかんでいるし、昇降口から俺たちは自然に手を繋いでいた。
「信号よーし! 右よーし! 左よーし! ふーちゃんよーし!」
「邁原くんよーし!」
横断歩道ではそんなやりとりもする。今日はふーちゃんのテンションがかなり高い模様。付き合ったという事実をみんなに報告できて嬉しいのか、お祝いされて嬉しいのか、ともかく幸せな雰囲気が表情や行動に現れているような気がする。
嬉しそうだね――と声を掛けてみると、ふーちゃんは繋いでいた手をほどき、俺の腕を抱きしめるように持つ。
「だって邁原くん、かっこいいから他の人からアプローチとかされないか不安だったんだもん」
至近距離で俺を見上げ、顔を赤らめながらも柔らかな表情で彼女は言った。
「ふーちゃんのために頑張ってきたからね――そういえば、俺がふーちゃんに告白しようとしたきっかけもそんな感じなんだよ、実は」
そう、きっかけは彼女が『万人受けするようになってきた』ことが行動の理由だった。
もちろん、それまでもずっと俺は彼女のことが好きだったし可愛いと思っていたけれど、他の人が彼女の良さに気付いてしまわないか不安だったのだ。
そのことを正直にふーちゃんに話すと、彼女はクスクスと笑う。
「邁原くんも不安だったんだ」
「そりゃふーちゃんは世界一可愛いからね。むしろふーちゃんがフリーでいることが奇跡だと気付くのが遅すぎた」
「わ、私別にモテないよ――でも、もしそうだとしたらきっと、おばあちゃんが気付かせてくれたんだね」
本当にその通りである。
彼女が積極的に人と関わるようになり始めたのは、あの予知夢が原因だ。だから俺は焦ることができたし、彼女の遺書に気付くことができたし、ふーちゃんと過ごす時間を一気に何倍何十倍にも引き上げることができた。
「また近いうちに、美代子さんにはお礼を言いに行きたいな。ふーちゃんも一緒に行こう」
「もちろんだよ! あっ、『お孫さんをください』って言うつもりなの?」
ふふふっ、と楽しそうに笑いながらふーちゃんが言う。
「そうだねぇ……風斗さんや香織さんにはちゃんと仕事を始めてから言うとして、美代子さんには宣誓的なつもりで言っておくのもアリだな」
はたして会話がまだ可能なのかはわからないけど――付き合い始めることになりました、将来は結婚するつもりです――ぐらいは一方的に伝えておいていいのかもしれない。
「ずっと一緒なんだから、慌てなくてもいいんだよ」
「……それもそうだな」
いつプロポーズしようと、いつ婚姻届けを出そうと、俺がふーちゃんのことを世界で一番好きであることには変わりはない。
それが変わるとしたら、俺たちの間に新たな命が生まれた時――これはいくらなんでも先を見すぎだな。今はまだ、俺たちは高校生なのである。
難しいことは考えず、この高校生という時間をふーちゃんと一緒に最大限楽しむことにしようじゃないか。
「今度は、私を邁原くんのご家族に紹介してね」
母さんにはお盆の時に会っているけど、父さんと夕夏にはまだ会ってないもんなぁ。
そんなことを考えていると、ふーちゃんはさらに言葉を付け足す。
「――ね、ゆーくん」
言い終えた彼女は、顔を隠すように俺の腕に顔をぎゅっと押し付けた。顔のほてりが、手の熱さが、じんわりと俺に伝わってくる。
……いくらなんでも、これは可愛すぎじゃないだろうか。
世界で一番好きな子の遺書を拾った
~~完~~
~~~作者あとがき~~~
これにて完結となります!!
たくさんのコメントありがとうございました!
作者としても楽しくふーちゃんたちを描かせてもらい、みなさんの反応もとても面白く見させていただいておりました!楽しかったです!
これからも執筆活動頑張ります!!
★作者からのお願い★
面白かった!と思っていただけましたら、お星様ポチポチ☆☆☆、いいね、応援コメント等どうぞよろしくお願いいたします。
世界で一番好きな子の遺書を拾った 心音ゆるり @cocone_yururi
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