先延ばしヒーロー・トリアエザー!

砂漠の使徒

第1話 やって来た正義のヒーロー 🈡

 ある晴れた日の昼下がり。

 気持ちのいい天気にも関わらず、顔を曇らせている青年が一人。

 彼の名前はたかし君。

 今はパソコンとにらめっこをしている。


「う~ん、どうしようか迷うな。ここはとりあえず一番近い……」


「ちょっと待ったー!!!」


 突然大きな声が部屋に響いた。

 一瞬あたりが激しい光に包まれる。


 [テレレテーン♪ テレレテーン♪ テレレテーテテーテー♪]

 (どこからともなく流れるBGM)


「うわ、なんだお前!?」


 目を開けると、そこには見知らぬ人がいた。

 青い全身タイツに身を包み、頭には変なマスクを被っている。

 そいつは、こちらのことなどお構いなしに謎のポーズを決めながら話し始めた。


「あのときこうすればよかったな」

「みんなの後悔の念が私を呼んでいる」

「誰かが選択に迷ったとき、私はきっと現れる」

「私の名前は……先延ばしヒーロー・トリアエザーだ!!!」


「は?」


 まったく状況が呑み込めず、ただただ困惑するたかし君。

 すると、ヒーローが歩み寄ってきた。


「たかし君、君は今進路で迷っていたね?」


「な、なぜ俺の名前を……。それに、どうして進路で……」


「迷っていたね……!?」


「は、はい……」


 無駄に圧が強いので、反射的に返事をしてしまう。

 ヒーローはそれを聞き、満足げに頷く。


「そうだろうそうだろう」


「あ、あんた何も……」


「しかーーーーーし!!! 私が来たからには安心したまえ!」


「うるさ……。大声出すなよ」


 勝手にどんどん話を進める謎の人物に、振り回されるたかし君。

 いったい彼の目的とは?


「よーく聞くのだよ、たかし君。どこの大学に行くかを考える前に、君がなにをしたいかを今一度考えてみることだ」


「なにをしたいか……」


 たかし君は、なにか気づいたようにはっとする。

 それを見て、トリアエザーはまたしても満足げに頷いた。


「とりあえずで大学を決めたら、きっと後悔することになるからね!」


「そう、なの……?」


「ま、それは未来のことなので教えられないけどね」


「え、未来って?」


 ピピーピピーピピー!


 突如として、全身タイツ野郎の胸のバッジが鳴り始めた。

 なにかの通信機のようだ。


「おっと、仲間からの通信だ。しばし待たれよ」

「もしもし?」


「たかしっ!!! バカなことやってないで仕事探しな! 早く戻ってこないと夕飯抜きだよ!」


「え、そんな~! わかった、すぐ帰るから!」

「じゃ、急用が入ったからまたね! しっかり考えるんだよ!」


 通信機の向こうからは、たかし君にとってものすごく聞き覚えのある声がした。

 しかし、それについて尋ねる前にトリアエザーは消えてしまった。

 後に残されたたかし君は、ヒーローの言葉を少しだけ信じて、ちゃんと考えてから進路を決めたとさ。


(めでたしめでたし?)

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