支配者たるもの

惟風

全員全裸

 とりあえず・シャークだ!

 自分達サメが現れてとりあえず暴れていればトンチキなサメの世界ということで場の空気を支配できると思っている浅慮なサメだ!

 渋谷のスクランブル交差点は一瞬にして大パニックだ!


「なあにがサメじゃ! こちとらブサメンじゃ!」


 コンクリートジャングルを泳ぎ回り傍若無人の限りを尽くすサメに向かって、鋭く吐かれた一つの罵声。サメも人間も振り返って唖然とする、そこに立つのはトレンチコートを纏った中年男性。男は徐ろにコートを脱ぎ捨てると、声高らかに謳い上げる。


「何の“暴”も奮わずとも! ワシがこの場で叫ぶだけで! 世界はこんなに阿鼻叫喚!」


 肉樽のごとき豊満な腹を揺さぶり、寒風吹きすさぶ中汗を振り撒き、全裸の男は尚も叫ぶ。


「さあ! もうここはワシの“領域”じゃあ!」


 宣言は成された、男を中心として群衆は驚き叫び逃げ惑う、その目に既にサメは映っていない。

「脂ぎっててなんかヤダ!」

「加齢臭エグい!」

「萎びたしめじが丸見えだぜ!」

 悲鳴と罵倒を口々に、行き交う人は走り出す。


 サメは男に向き直る、真の益荒男ますらお見つけたり、この場の掌握争うに、不足のいらぬおとこなり!


「フッ……ワシとお主、どちらがこの世界を支配するか……決めようじゃあないか」


 サメは恐れていた。力で言えば圧倒的に自分に利がある。だが、この男は言葉を発するだけで存在感を示して見せた。ひと噛みで男を殺して、果たしてそれで”勝ち“と言えるのか?

 否。

 ただ“在る”だけで人々を恐慌に陥らせてこそ、真の支配者と言えよう。サメは薄く口を開いた。サメなりの笑顔であった。

 対峙する二人を見守り固唾を呑む野次馬達。

 今、雌雄を決する時。

 だが。


 ぶおんぶおんぶおんぶふおおおん!


 突然の轟音と共に飛び出して来たのは、全てを破壊するバッファローの群れであった!ヒトもサメもビルもなぎ倒しあまねくを塵芥と化していく!


 何と、すんでのところで世界の覇者の地位はに終わったのであった。



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支配者たるもの 惟風 @ifuw

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