三十九 熾火こそ熱く その一
腹の毛皮は背中の其れよりも柔らかく、十兵衛の体温が伝わる。少しだけ指先で被毛をかき分け地肌に触れると、十兵衛は篤実を膝に抱いたままビクリと身体を震わせた。
「く…口に、入り切らんじゃろう、若君」
「むぅ…それはそうかもしれない。でも、その…」
十兵衛が背を丸め、鼠径部を撫でた指先を褌の下へ潜り込ませる。今度は篤実の身体がぴくっと跳ねた。
篤実は首筋に十兵衛の吐息を感じ、息を呑む。鼻先が流れる髪を掻き分けて首筋に埋まり、擽ったい。そして褌の中に入る手に、小振りな陽物が捕らえられる。
「今日はまだ、何も出てねえのか」
「なにも…って」
「――言うたらゆきが怒るから言わん」
「何を…んっ、くっ…ぁ…じゅうべえ…」
後ろから篤実を抱き締める十兵衛の手がいよいよ露骨に動く。ふにふにと手の中の果実のようなそれを柔らかく揉んだ後、蟻の門渡りを探って双丘のあわいへと指が進んだ。
もう片手は襟から胸へ忍び込み、親指と中指を開いて肉を大きく掻き寄せるように摘まんだ後に人差し指で薄皮の尖りを探すように撫で始める。
その温度に、十兵衛が呟いた。
「熱いな」
「く、ふっ――… はっ、 じゅうべ…ッ……こえ……ッ」
「ああ……」
耳の裏に鼻先を押し付けた十兵衛にすんすんとにおいを嗅がれている。身体中の恥ずかしいところを五感で味わわれ、篤実も同時に十兵衛の昂ぶる熱気を肌で浴びていた。
「は、くっ」
「ゆきは乳首まで悦いのか」
「し……しら、ぬ……今のは、く、ぁ――ふっ」
花に触れるかの様な柔らかさで十兵衛に乳輪ごと乳首を摘ままれて、先端がぷっくり膨らんだ。その小さな頂点を指の腹ですりすりと撫で擦られる。
「ッ〰〰!」
篤実は喉を反らして声を殺し、ビクビク身体を痙攣させた。つま先まで力が勝手に入りピンと伸びて突っ張らせる。その頬も喉も足も、内側から赤く火照って十兵衛の腕の中で感じる快楽に染め上げられていた。
「――ゆき」
十兵衛が舌を出し、篤実の火照った首筋を舐め上げる。一筋の髪ごと首を甘噛みしながら主の身体を弄るも指先は後孔の周囲ばかりを撫でた。
「んっ…くっ……ふぁっ… じゅう…べ……」
「無礼を承知で言うが――……連れ合いのようだと言われて儂は……その、嬉しくて……だな」
子供のように小振りでふにふにと柔らかい篤実の性器を大きな手の中に握り、もう片手では微かに膨らんで柔らかな胸を掌に収め、閉じ込める。ぐる……と喉を鳴らし、尻に熱を擦り付けるように身体を揺すった。
「はっ……あっ! ぁ、めっ…んぅ」
篤実の理性が融けるのを耳で、肌で、においで感じながら、十兵衛は主君の身体を己の上に抱きかかえ、床に身体を横たえた。そうして、散々煽った手を止めて、緩く抱き締める。
「ゆき。その…口で、と言うのなら。――竜比古兄にしていた、二つ巴を頼んでも良いか」
十兵衛の身体の上で、ふるふると快楽の燠火に震えていた篤実が、返事をするように十兵衛の手をぎゅう、と握り締めた。
その手が緩むと、篤実の身体は分厚く固い十兵衛の上から降りて頭を向こう側にして四つん這いになる。
「見える…か? 十兵衛……」
「見える。目の代わりに儂の鼻が、舌が…指が」
どこか心細いような弱い声を溢す篤実に、十兵衛はきっぱりと言い切った。
そう言われると、どこか、本当に見られている気がして仕方が無い。じんじんと全身が火照り、鳥肌が立つ。
篤実は眉根を寄せながら大きく吐息を溢し、十兵衛の腰を逆向きに跨いだ。十兵衛も膝を立て脚を開き、古びた着物の裾がぱっくりと割れる。
「はぁ……あ……あ♡」
気が付けば十兵衛の太腿に頬ずりしていた。唇のすぐ傍にはむわりと蒸れた褌。頬を十兵衛の足に擦り付けたまま、幾度も褌越しに既にいきり立って布地を突き破りそうな雄へ唇を押し当てる。
「ん、ふ――――ふぅ はぶっ……んぅ」
ぢぅ……♡
いつしか篤実は、十兵衛の褌に己の唾液を染み込ませ、布地ごとしゃぶり上げようとしていた。濡れた木綿の褌が十兵衛の雄にぴったりと張り付いて、その形を際立たせる。
「ッ――は……ゆき」
「ふ、んうぅ んう♡」
じゅっ ずずっ ぢうぅ……ちゅばっ♡
篤実の唇から漏れ出す水音は、天目屋と同じ事をした時とは比べものにならなかった。
十兵衛の獣は褌の中に収まりきらぬ程に張り詰め、ドクドクと脈打つ熱の塊となる。そこから滲み出す雄のにおいに夢中になって、篤実はぐっしょりと濡れた褌を引き剥がした。
べちん。
「ゆ、きっ」
「ふあ……あ……じゅう、べえの……これ――す、ごい……」
真っ赤なそれは、熱した鉄の塊のようでもあり、古びて色の変わった仏像のようでもあった。
けれども、それはびくりと揺れる度に先端から先走りを滲ませ、体毛の繁る根元に行くほどに汗と雄のにおいをさせる、生命力と淫欲の塊でもある。
そんな十兵衛の雄楔に頬ずりをする篤実の太腿が、がしりと大きな手に鷲掴みされた。
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