二十 働かざる者食うべからず 其の二



 そんな思いをして過ごした翌日、決まって十兵衛はそれとなく篤実の傍から離れない。


「……じゅう、べ…」


 そうして持て余した欲の熱が、彼を呼ぶ小さな声となって篤実の赤く潤んだ唇から漏れ出すと、太い腕の中に隠すように抱き寄せられた。


 十兵衛のにおいを吸い込むと、篤実の身体は内側に赤く光る炭をくべられたかのように火照る。頬や太腿、足の先まで欲に温められた血が通い、耳や頭の後ろが焚き火に当てられたかのように熱くなる。外はまだ肌寒く、何もしていないのに、篤実の丸くつるりとした額や着物に隠れた胸元にじわりと汗が滲んだ。


「……ゆき」


 十兵衛が篤実の名を呼び、喉をぐる……と鳴らす。碌に雨戸も無い庵の中だというのに、その声は籠の中に居るかのように篤実の鼓膜を擽る。


「ぁ……は……」


 篤実は背を反らし伸び上がって十兵衛に口付けた。


「た……のむ……十兵衛――おれを」


 ここは戦地ではない。本来ならば子を、世継ぎ作るためにおぼえるべき劣情を、全く意味の無い形で他人にはしたなく曝け出し、媚び、子種を強請る。


「見ないで……」


 十兵衛は篤実を抱き締める腕を弛め、熱い頬へ撫でるように口付けた。めくらである十兵衛に見るなと言う篤実の言葉に、大きな手を頭の後ろへ回して目隠しを取る。


「ゆき――少し、いや……かなり見苦しくてすまねえが」

「な、ぁに……」


 藍色の目隠しを取ると、今も尚残る傷が露わになった。十兵衛の手が篤実の横頭を包み、頭蓋の形や顔の作りを探る。手の甲から生える灰銀の毛並みが篤実の鼻梁を擽った。こそばゆさに目を細める篤実の顔に、十兵衛は己の目隠しを宛てがい、結ぶ。


「あ……」

「見るなと言う若君に目隠しというのも、妙かもしれんが……」


 温かな掌が篤実の頬を包み込んで、腕が身体を十兵衛の体温とにおいと、ごわついた毛皮へと抱き寄せる。


「これで、よい…十兵衛」


 手探りで篤実を想う十兵衛の心に触れて、胸が熱くなるのを感じながら肩口に顔を埋めた。


「んっ…はぁ……はっ…あ…」


 掌が背中を伝い降り、着物の上からしりたぶを揉む。密着させた下腹は、十兵衛のいきり立った魔羅に押し返されて、次元の違う質量を示された。


「ゆき…ゆき――ッ」


 十兵衛は時折身体をぶるりと震わせ、抱き潰してしまいそうになる衝動を堪えて篤実の身体を丹念に揉む。凍えぬように、壊れぬように。


「ひゃ…ぁ…はぅ、あ んぁ♡」


 ぞくぞくと背筋を震わせる篤実の耳をしゃぶり、耳殻を舌でなぞる。耳の後ろの当たりは篤実の唯一無二の香りが、なんとも言葉にし難い彼だけのにおいとしか言えないものがして、十兵衛の理性を焼く。


「ふ…はあっ」

「あ、あ はぁ…じゅうべ… もっと しゃ…しゃわって」


 ぐいっと着物の裾をたくし上げられ、布地が擦れる音が聞こえた。褌の中では先走りの露でとろとろに濡れた男雌核のような陰茎の先端が濡れた音と共に擦れ、糸を引く。


「ゆきは…どこもかしこも、そそって仕方ねえ」

「ひぁ…じゅうべえ…」

「儂の子種を…頭から腹の裏まで、くまなく塗りつけちまいてえんじゃ」


 十兵衛の両腕ががっしりと篤実の身体を捕らえ、まぐわいを真似るように下から揺さぶった。


「あっ はっ、ほ…ぉ♡」


 其れだけなのに、まるで魔羅で貫かれたときのように篤実の身体の深いところが喜んでしまう。


「少しでも長く、お前を満足させるには…儂はどうすりゃあいい」


 尋ねながら帯を解き、褌を解き、温まった肢体を手でなぞり、首筋を舐めあげる。篤実の反応に耳を澄ませ声や身体の震えを感じ取る。篤実も密着する十兵衛の気配に淫欲の昂ぶりと守られているような心地よさを肌で感じ始めていた。


「い…っばい…ほしい」

「子種を…か」

「あ…あッ」


 耳元で囁き合い、頬を擦り寄せ、舌を伸ばして舐めあげる。

 白い毛皮を纏う厚い胸板に、しなやかな肌色の身体を擦り付けて、二人同じにおいを纏う。


「は…ぁ」


 十兵衛はゴクリと喉を鳴らし繰り返し息を飲み込んだ。


「……ゆ、き…」


 二の腕や肩甲骨の周り、しりたぶや太腿。そこかしこが篤実の意志に関係なくひくひくと反応してしまう。何よりも、腹の奥が。


「十兵衛、じゅうべえ…」


 篤実は闇の中で十兵衛の毛皮と衣の境目を探り、砂浜に指を埋めるように肩を撫でた。


 温かい吐息が漏れ出し、次に濡れた熱い軟体がべろりと肌を舐める。首を捩りその舌を追いかけて、顎を舐め、舌を絡ませ合う。


「は、んぁ はぁ――あ」

「ふ…ぅ、ふー…」


 ちゅくっ、ぴちゅ…じゅっ、ぢぅ。


 まるで舌がはじめからそのために作られた器官であるかのように何時までも絡み合った。


 いつの間にか互いに衣は床に落ちて、内側から溢れる熱で肌はじっとりと蒸れる。十兵衛の毛並みを乱すように手を埋め、滑らせながら篤実はうっとりと身体を寄せた。


「じゅうべえ…じら、す…なッ」

「…すまん、そんな…つもりじゃ、なかったんだが」


 視覚を塞ぎ、互いに肌や耳で感じ合う。篤実は十兵衛の背へ手を伸ばし、雑に伸びた髪を掴んだ。


「痛ッ」

「じゅうべ…♡」


 掴んだ髪を強く引っ張り、篤実は十兵衛の鼻先を噛んだ。そして先端をれろりと舐めながら、もう片方の手で十兵衛の褌をずらしてしまう。


「んあっ」


 ぶるんと飛び出した雄獣臭の肉棒に手を叩かれて、そうとは思えぬ声を溢し、篤実は心臓が止まるかと思った。陰茎の表面は口の中のような粘膜よりは乾いていて、だが吸い付くような湿度がある。

 十兵衛の腰を跨いだ篤実がその雄茎を握ると、皮の柔らかさの下にがっちりと槍の柄が如き固さがあった。


「寒くねえか…ゆき」


 篤実の桃色に染まった頬を確かめるように十兵衛の手が包んだ。


「ん……問題もんらいない」


 その手の指先を探して、口に含む。指の節を唇を窄めて吸い、そして口から出して指の股へと舌を這わせる。疎かになってしまう十兵衛の雄杭がピクリと揺れて、篤実は唇を緩めた。


「そなたも、随分我慢を――して」


 肉茎の皮はよく伸びて、内側の剛直を寸分の隙無く守る鞘のようであった。しかし手を先端へと滑らせると、包皮は終わり、そこから覗くのは皺のないつるりとした切っ先。指の腹で表面を撫で、既に滲み溢れる先走りを掬い取り肉茎に塗り伸ばした。 


「は…ん――ぁ…はぁ…」

「ゆき」 


 十兵衛が低く喉を鳴らし、篤実の太腿から腰を掴み、やがて尻の丸みに指を食い込ませる。そそり立ち、篤実の尻の谷間を狙うように上向く自らの雄杭の位置へ、掴んだ身体を導いた。


「ん、ふ…んぁ――…」


 ――にちゅ…ぬぷぷぷ……くぷっ。


「は♡ あぇ はっ♡」


 口で指を咥えたときと変わらないぐらい、篤実の菊座は鮮明に魔羅の形を感じ取る。先走りのぬめり、亀頭の肌質、太くなっていく雁首を越えてキュン♡と肉壺を締めつけただけで、氷に触れた赤児あかごのように身体が跳ねた。


「っ♡ あ♡ ああっ♡ じゅうべ♡」

「あ、あ…ゆき」


 互いに視界は封じたまま。胡座を掻く十兵衛に縋りながら魔羅を飲み込む篤実が腰を抜かさぬように、尻肉をがっしりと掴んだ手が支えている。


「あふ、んぁっ はあ♡」


 唇の端から涎が垂れて、顎から首に伝い、擦れ合う肌の間で汗と混ざりひとつになる。異なる肌の質感の二人だが、互いの体温とにおいが溶け合っていた。


「奥…じゃろう、ゆき」

「は…ぁ ッ!」


 とちゅっ、とちゅっと中で淫液と肉襞が捏ねられて音を立てる。


「は…」

「じゅう、べ…え…」


 今すぐ組み敷きたい衝動に駆られる雄の吐息を感じた篤実が、喉を震わせ言葉を紡いだ。


「痛く、ないか…それ、とも…己の…尻孔が――ゆ、る…すぎる…か?」

「は――何を仰有いますか、若君」


 十兵衛は口角が上がるのを抑えられなかった。そうして一思いに、腰を叩きつけ篤実の尻を引き寄せた。


「ひ♡♡ お♡ あつい、の♡ きたぁ♡」

「ッ――クソッ ああ…」


 ぼぎゅっ、と肉管の反抗を押さえ付けるように十兵衛が犯した瞬間、篤実の媚肉管はわななき雌幼陰核のような皮被りの先端から喜びの薄種汁が噴き出した。しかし十兵衛の魔羅は未だ果てていない。


「こんなに喜んでると、思っても…一週間と持たねえのは…」


 片手を尻肉から脇腹を伝い、胸へ撫で上げながら乳首を探す。肋からやがて僅かに乳腺のまろい膨らみをおぼえかけた胸を揉み、一際ふにふにとやわらかい乳輪を探り当て、その真ん中でぷりっと存在感を示す肉粒をつまみあげた。


「いっそお前を――孕ませちまえば…ゆき」

「ふぇ、あ♡ ひゃ♡ ぁ♡」


 腰を突き上げ、雌男子宮をぎゅぽぎゅぽと雄杭拡張し、篤実が、ゆきが淫欲の底で望む雌の快楽を身体に与える。媚肉管は狼雄根の径まで引き伸びて、吸い付いた。


「は…ら、まひぇ…?」

「ああ…」


 結局もどかしさに堪えきれない雄の本能に押され、十兵衛は篤実を床に転がし、覆い被さるようにして己の身体の下に敷いてしまった。 


「孕んじまえば、魔羅を漁る気……も、無く……」


 そんなことを言いかけて十兵衛は急に動きを止めた。

 ブンブンと首を横に振り、握り締めた拳で床を殴る。


「ひゃ、ひっ」


 尻孔で十兵衛を飲み込んだままの篤実が、小さく声を上げた。


「儂は莫迦じゃ。ゆき……ゆきよ」 


 己を責めるように呻くが、十兵衛は再び篤実の雌男子宮をぎゅぽっ♡と犯すと腰を震わせた。


「ぁ♡ は♡ じゅうべえの、ものが♡ は♡ びくびくと♡ お♡」

「ああ、儂もイく。……若君も、気を遣ってかまわねえ。粗相をしても、何をしても」

「ひっ!ぁ、しゅき じゅーべ…すき、ぁ、あ♡」

「――ッは……ッ」


 篤実の片足を掴み、身体を丸めさせより尻を上向きに掲げると、十兵衛はまた最奥を突き上げる。ぼこりと肉管の抵抗を感じるが、若君の身体を慮る忠義と雄の本能にまるで脳髄が万力で締め上げられるかのようだった。眉間に力が入り、奥歯を噛みしめながら種汁の前触れ液で雌を躾ける。


「じゅうべ ぁ あ♡ 己の 腹が、ぁ♡」

「わかる……か……ゆき」


 熱い息を吐き、十兵衛が腰を揺さぶる。しかしひくつく肉壺に打ち込んだ雄楔はビクともせず深々と埋まったままであった。


「これ、からが……じゅうべえの……ほんと、の…こだね…」

「ああ」


 二人の身体から、薄く湯気が立ち上る。

 筵の上には篤実の髪が散らばっていた。


「はら……あつくて、せつないのが……きもちよくて」

「おう」


 釉薬うわぐすりが塗られた白い花瓶のような滑らかな足が伸び、十兵衛の腰に絡んだ。篤実が粗相した小水が、十兵衛の太腿から膝を伝っていくが不快感はない。


 十兵衛の手が篤実の頬から目元を撫で、汗と涙に涎で濡れた目隠しを取り、また顔を寄せる。まず鼻先と鼻先が触れあうと舌を伸ばして唇を重ね合った。


 そうして、熱い口付けがまた始まった。

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