十五 融雪は遠く

「う……ごい、て。十兵衞…じゅうべえ♡」


 喘ぐあまりに舐め回されるばかりだった篤実が十兵衞の黒い鼻先に唇を押し当て、舌を伸ばし舐めて返す。十兵衞も応えるように口を開き、篤実の細い顎から首筋、喉を舐め、控えめに尖る喉仏を甘噛みした。


「あっ♡ は♡ は…」

「う゛る…う」


 纏わり付く寂しがりな肉孔から、ぐぷん、と一段だけ雄楔を引き抜き、再び腰を叩きつけた。


 どちゅんっ!


「ひっ ぉ ごっ♡」

「はあっ ぐっ」


 口を開きしなやかな弾力と抗い難いにおいを放つ首筋を解放し、代わりに下から肉壺を貪るように突き上げる。


「あ゙ッ! ひっ――いッ」

「ッ―― ゆき ッ」


 絡み付く媚肉を引き摺り、返す動きで奥を突き拡げる。四肢をぶるりと戦慄かせ、腰を叩きつければ体液が泡となって溢れ出した。


 肉筒の中で雄の凶器はぶるりと震え、一度目の開放が迫り上がる。


「あい、ん あっ じゅ べえっ へうっ♡ ひっ♡」


 十兵衞も篤実も、熱い。篤実が十兵衞の白い毛皮を握りしめる痛みに顔を顰めながら誘われるまま腰を叩きつけ続けた。


「気持ちいい…こんな、月並みな、事を…言いたくねぇのに ッく…あああっ!」


 爆ぜる熱が、先端より噴き出す。腕の中に捕まえた者をメスに見立てて、中をより泥濘んだ肉壺にするために奔流する。


「ッ――! ひ ぉあっ♡ あ♡ ひあ♡」


 十兵衞の肉茎から叩きつけられる熱液が篤実の腹奥を濡らすと同時に、根元が膨らんでいく。


「ゆき …爪牙の――儂の逸物は人のとは違う」


 篤実の頬を撫でながら、根元の膨らみで菊座から抜きたくても抜けなくなったことを感じ十兵衞はまた首筋や肩を甘噛みした。


「ち…がう? なに じゅうべ ぇ ぁ、あ♡」


 空いている手で、篤実の陽物を探り、にちにちと捏ねて男の熱を呼び起こそうと試みる。すると篤実はビクンと身体を震わせ、足を突っ張らせた。


「抜かぬし、抜けん。…ここから、もっと…熱く、濃い子種を出す」


 十兵衞の手の中では、柔らかいままの熱い陽物が僅かな量の薄い体液を漏らした。


「嗚呼…ゆき、お主はこんな物しか吐けねぇのか」

「ひうっ あっ しょれ…は…」

「責めてねぇ――哀れんでもおらん」


 固く反り返ったままの雄肉楔で子袋を突き緩めながら、篤実の無様なほどにふにゃふにゃとした陽物を手で刺激し続ける。


「可愛すぎて、喰っちまいてえ…ゆきの、どこも、かしこも」

「ふ、あ あ♡」


 ひとりでにうねる肉壁が、十兵衞の先走りと篤実の蜜で濡れ泡立った音を立てる。声色と体温、においはますます獣じみてゆく。


「ゆき…ゆき、嗚呼。此れからは儂以外に泣かされることが無いよう、儂が」


 言葉とは裏腹に、熟れた肉壺に包まれた十兵衞の雄杭を揺さぶって、腹を押し上げる。他の臓物が押し潰されそうなほどに。


「じゅ、うべっ え ひっ おあっ あ゙♡」

「しあわせにす、る…ッうあああああっ!」


 頸椎から背骨がカッと燃えるような昂ぶりと共に、再び十兵衞の分身から熱いものが迸る。それは先刻のものよりも粘つき、重く、十兵衞の中から溢れ出し、噴き出した。


「はっ、はへ…ぇ…は♡ あー…♡」


 痙攣する篤実の四肢を閉じ込めるように抱き潰し、半固形の子種を肉壺の内側に浴びせかける。それだけに飽き足らず、また尻ごと身体を揺さぶって、張り出した雁首や亀頭の丸みで肉襞へ熱を塗り込める。


「馴染む…か……ゆき。儂の子種は」


 男の腹で子は孕まない。されど、女よりも深く、この執着を刻み込むことは出来るはずだ。


「ひゃ、ぅ、あっ♡ こだね いっぱ い♡」

「ああ」


 十兵衞の射精はまだ終わらない。断続的にびゅるっと噴き出しては、篤実の腹を満たしていく。


「はら あ あつい♡ じゅーべ え♡ あひゅい熱い…」


 菊座の輪がにゅ、にゅっと瘤の根元を食んでくる。十兵衞が腰を揺らすと、重たい子種が詰まった袋が篤実の尻をべちっと叩いた。


「は……」


 ぎゅう……と身体を丸め、太い手足と大きな胸の下に篤実を隠す。


「ゆき」

「ん♡ ふ♡ うぅ♡」


 篤実の吐息に毛皮が擽られ、溢す涙や唾液、潮でぐちゃぐちゃになりながら抱き締めた。


「幸せに、する」

「じゅう……べ……」


 分身が肉壺の中で揺れ、篤実の肉襞が健気に絡んでしゃぶりつく。


 時間の経過も忘れ、体力が尽きるまで二人のまぐわいは続いた。








 ぐるるる、と喉鈴を低い音で鳴らしながら眠る十兵衞。篤実は熱い腕の中で心地良いその音を聞きながらうつらうつらとしていた。


 未だに十兵衞に植え付けられたこってりとした子種汁で、腹は膨らむほどに満たされている。

 その代わり、身体を焼くような酷い淫欲から解放され、心は穏やかであった。


 庵の窓に立てかけた戸板の隙間から、森の空気を通した日の光が差し込んで十兵衞の灰銀の毛皮を照らした。夜の間は青みがかかって見えた毛並みが、今は花薄はなすすきのような温かい白に見える。


「……十兵衞……」


 狼のような十兵衞の口吻へ、篤実は唇をそっとよせた。その途中から目元は、肉ごとえぐれた茶色い傷痕となっており痛々しい。


「しあわせ、に……」


 胸の中に、蛇に絡み付かれたような苦しさと、陽だまりの中に居るような優しい暖かさが同居する。盛りの花を踏み潰しながら立っている様な、罪の意識。


おれは…弱い――十兵衞……」


 その十兵衞から向けられた獣欲を腹に抱えながら、篤実は声を殺し、一雫だけ涙を零した。

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