七 十兵衛、再び夢に若君を見る

 その日の夜、十兵衛は再び夢の中で篤実の声を聞いた。


 絡み付くように、火照りと湿り気を帯びた吐息が唇から漏れる。かつて馬の手綱を握っていた手が、若君の解けた帯を握っている。


「はぁ…ん、あ」


 白い手は緋色の帯を絡めたまま、十兵衛の腹筋の上で体を支える。俯く若君の黒い髪が垂衣たれぎぬのように揺れた。前髪の奥から暗緑の瞳に熱と涙を滲ませて、上目遣いに十兵衛を見上げる。


「たすけて、じゅうべえ……」


 口を開いても声が出ない。拳を振り上げたいのに、指一本動かない。


「じゅうべえ もう 堪えられない、おれは…」


 はだけられた襦袢が流水のように若君の身体の表を流れ床まで広がり、呼吸と共にゆっくりと肩が上下する。腰に跨がる若君の身体そのものが、十兵衛の深い呼吸と共に波間の小舟のように揺れる。


「あっ んあっ――」


 柳眉をひそめ、胸を反らし、なんとも悩ましげな声を漏らす。その体つきは、武士にはほど遠い柔らかさで、火照った掌に撫でられるのはまるで敷き詰めたがまの穂に擽られるかのよう。


「やっぱり お、おきい……じゅうべえの」


 お止め下され。誰か今すぐ儂の頭をかち割って、この夢を終わらせてくれ。


「おれは そなたが ほ、しい ぁ、あ♡ んはぁ――」


 真珠のように艶めく頬に涙が伝う。目元や首筋や、太腿をはしたなく桃色に染めて踊る。


「たすけて この おれのはら、は……」


 熱く、ぬめり、柔らかいものに包まれている。しかし根元に近いその壺のくちは、女のものよりもきつく吸い付いてくる。

 それが雄に齎す快楽を思うと、其処はそのために有るとしか思えない程にそそられ、十兵衛の脊髄をまるで炉から上げたばかりの玉鋼のように熱する。


「全部……みて? のう…おれの、じゅうべえ」


 掠れた声で囁かれ、ゾクゾクッと背筋を寒気にも似た強い快楽が走る。此れが夢でなければ十兵衛は危うく吼えていた。


 弓なりに反らされた若君の身体から衣が落ちて、薄闇に白く肢体が浮き上がる。鎖骨はくぼみがはっきり見て取れるほど肉が薄いのに、肋には筋肉の名残のような柔らかそうな胸の淡い膨らみに影がかかり、二つ赤い粒が獣を誘うようにふっくりと膨らんでいる。そこから、凹凸の無くなった腹筋が兎の腹のように伸びて、慎ましやかな臍の窪みからまた白くてまろい下腹へ続く。


「おなごの様だと……嗤ってかまわぬ、だが……おれは、もぉ、お゙ッ♡」


 若君が身体をくねらせ、十兵衛の腰に尻を擦り付けようとするが、腰を落としきれないでいる。十兵衛の逸物は篤実の肉壺の中で狭い括れにつっかえていた。


「やだ、やだ ぁ あっ じゅうべ ほしい、もっとぉ」


 薄い腹が幾度も内側から叩かれて、歪な膨らみを帯びる。篤実はゆっくりと腹の中にその大きさを馴染ませるように、手で腹を撫でながら、石臼で粉を挽くかの如き動きでゆらゆらと揺れた。


「おれの……もう、ひとつ 奥」


 だめだ、そんな。儂のような者を相手に。


「あ、う んあっ」


 ぐぷっ♡


 若君の腰がズンッと落ちた。


「あ あッ♡ ひ――ん! あッ またおんなのっ」


 喉を反らし震える若君の中で、十兵衛の分身も戦慄き、遂に粘ついたものが腰の奥から駆け上がり、爆ぜる。


「んひっ、ひあっ! 熱いのがぁ… はら、の、なかで 孕ませようと、して♡ これすき、これ これぇ♡」


 若君の顔で、そのような言葉を吐くこの者は一体何者なのか。儂を誑かして何が楽しいというのか。水飴のように粘つく快楽に囚われながら、十兵衛は夢の篤実の中で果て続けた。

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