鳥トリ鶏

和扇

第1話

「あー、あー、こちらアルスラ。聞こえますか、どうぞ」


 私は船の通信装置を起動させて呼びかける。


「感度良好、聞こえます」

「良かった、大丈夫そうね」


 僚機から返事があった。このやり取り、いつもの通りである。


「しっかし今回の依頼、随分報酬高いわねぇ」

「それだけ面倒って事ですよ、気を付けていきましょう」

「ういうい~」


 戦闘機にも似た一人乗りの宇宙船。大型船に比べれば航続距離は短いが、小回りが利くのが便利だ。私達の商売道具、果ての無い宇宙を泳ぐ魚である。


「傭兵団も、警備隊も受けない依頼。いやー、何が起きるやら、ね」

「全宇宙組合ギルドの受付AI、詳細を教えてくれませんでした。ただコレを探すように、とだけ」


 プンと小さく電子起動音がして、空中に画面が生じる。そこに表示されたのは、何とも愛らしい青い鳥であった。


「この辺りで地球鳥類なんて珍しいし、高報酬で探せってのも理解できるわね」


 宇宙開拓の始まりから億年経っている。母なる惑星である地球はまだまだ健在だが、私達がいるのは遠く離れた恒星系。そんな場所では地球に住む鳥など、滅多にお目に掛かれない珍獣の類だ。


「でもこの鳥、どこにいるのかしら?」

「さあ……?小惑星の影とかにいるのでしょうか?」


 私達の知るトリは、乗っている宇宙船の様な大きさで宇宙空間を飛び回るもの。多分この青い鳥もそんな感じで飛んでいるのだろう。


「あー、先にデータベースで検索しておいた方が良かったかしら」

「報酬につられて飛び出したせいですよ、まったく。ここまで来て青い鳥に会えずに帰るなんて嫌ですからね」


 くどくどと説教が始まった。こうなると彼女は話が長い。


「はいはい、トリあえずがんばりまーす」

「とりあえずじゃなく、仕事を受けた以上は責任をちゃんと理解して下さい」


 いい加減な返事をしたら釘を刺された、痛い。彼女は私の宇宙船を中心にしてぐるりと一回転する、これは怒っているな。


「……ん?ちゃんと理解して?」

「そうですよ。受けた仕事はしっかりやる、それを理解してですね―――」

「ちゃん『トリ』かいして?」


 ブチッ。

 何かがキレる音がした。


ダダダダッ

「うわぁ!?ちょ、やめなさいっ!」

「喧しいですよ!トリあえず、一回撃ち落とされて下さい!」

「それ、死ねって言っているのと同じよ!?」


 真っ赤な顔をする彼女と青い顔をする私。静かな宇宙空間で大騒ぎ。


 青い鳥が見つからなかった事は、トリ上げる鶏揚げる意味もない話である。

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鳥トリ鶏 和扇 @wasen

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