動物園でトリあえず鳥を見る人

金澤流都

この鳥たちはフィクションです。

 わたしは毎週末動物園に行くのだが、動物園に行ったら、真っ先に鳥の展示を見に行く。居酒屋でいうところの「トリあえずビール」的に、「トリあえず鳥」なのである。

 この動物園は地方の小さな動物園だが、大きな温室があり、温室では架空の鳥が何種類も飼われている。そこは妄想動物園なので架空の鳥なのだ。

 きょうもイカついカメラを担いで、温室である「バードパレス」に向かう。外からでも賑やかなさえずりが聞こえる。期待を膨らませて、係員さんにドアを開けてもらう。


 まず聞こえてくるのはカルテルズクの「ドッキンホー、ドッキンホー」という特徴的な鳴き声である。これはオスがメスを呼ばわる、繁殖期のさえずりだ。カルテルズクのオスとメスはつがいになるとべったりの関係になり、ヒマさえあれば互いに羽繕いしたり食べ物を分け合っている。

 おっと、カルテルズクのもとに、別の鳥が乱入してきた。こいつはケラレテシンジマエ山脈に生息するバクハツスズメという鳥だ。他の種類の鳥が繁殖期のさえずりをしているのを聞きつけると飛んできて邪魔するという生態を持つ。

 しかし自分たちの繁殖はとにかくヘタクソな奥手の鳥なので、野性では数が少なく、たいへん貴重な鳥である。こうして動物園で飼われている個体も繁殖が苦手で、ヒナが孵ればたいへんなニュースになる。


 カルテルズクとバクハツスズメの盛大な歓迎を受けたところで、水の張られたプールを見ると、熱帯の水鳥がプールに植えられたハスの葉の上を歩いている。

 このハスの葉の上を歩いているのはオシャカガンという。蜘蛛の巣を集めて水中に垂らし、魚に引っ掛けて食べるというたいへん賢い鳥なのだが、生息地にいるカンダタグモという特殊な蜘蛛の糸でないとうまく釣りができないらしく、見ているいまも飼育員さんに魚をもらっている。

 このオシャカガンの飼育はとてつもない苦労があった上で、人間が手から魚を食べさせているのだそうだ。

 オシャカガンも生息地では激減している。農薬の汚染でカンダタグモが絶滅に瀕しているからだという。生態系というのは難しい。


 さて、バードパレス最大のお目当てにして我が最推しであるキメラデブネコフクロウのところに来た。この鳥は体重が5キロにもなる大きな鳥で、重たいわりに体が大きくないので飛ぶのはヘタクソである。

 しかしなにより特徴的なのはその面立ちだ。フクロウとネコの中間の顔をしている。クチバシがマズルだとかそういうことでなく、フクロウとネコの中間の顔なのである。そこは文章だから表現できるところである。

 さっそくリュックからカメラを取り出し、キメラデブネコフクロウの写真を撮りまくる。すでに外付けハードディスク3台がキメラデブネコフクロウの写真で埋まっているのだが、それでも来るたび新しい発見があるので撮らないわけにいかないのだ。


 イカついカメラでカシャカシャやって、満足したのでカメラを仕舞う。帰ってパソコンで現像するのが楽しみだ。ついでに動物園の出口近くにあるフードコートで、いつも通りおいしいクラフトビールで「トリあえず生」をして、「バードパレスおつまみセット」を発注した。ナッツや焼き魚、フルーツ味の焼肉など、バードパレスをモチーフにしたおつまみのセットだ。

 きょうも昼間からビールが飲めて幸せだ。これで平日の仕事も頑張れるというものである。

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