言葉にすれば、届かないものがある。
けれど、言葉にしなければ、伝わらないものもある。
この物語には、和歌が息づいています。
源頼政が詠んだ歌、その一首一首が、ただの装飾ではなく、彼の心そのものとして響いてきます。
夜の静寂に溶け込むような余韻のある表現、風や月の情景に託された思いが、物語とともに流れていきます。
和歌とは、わずか三十一文字に感情を込めるもの。
その短さゆえに、言葉を削ぎ落とし、選び抜かれた一語がどれほどの重みを持つのかがわかります。
この作品では、頼政の詠む一首が、場面ごとの空気を変え、言葉を交わすよりも深く、心の奥に入り込んでくるのを感じます。
ただ語られるだけの歴史ではなく、詠まれた歌から広がる物語。
限られた言葉だからこそ、そこに宿る情緒は濃く、鮮やかです。
頼政が見た景色、その心の揺らぎを、和歌とともに感じるひとときがここにあります。