国王陛下は鳥に会いたい

国城 花

国王陛下は鳥に会いたい


さらさらと心地の良い風が、開けた窓から室内へ流れている。

窓の外はどこまでも見渡せるような青空が広がっている。


「陛下。お仕事です」


そんな天気もお構いなしに仕事を持ってくる宰相に、国王は不満げな顔をする。


「せっかく良い天気なのだから、もう少し休んでいても良いだろう」

「10分前にもそう仰っていました」

「じゃあ、あともう少しだけ」


そう言って、国王は窓の外を眺める。

宰相はそんな国王にため息をつく。


「では報告がてら近況の整理をいたしますので、耳だけはお貸しください」

「仕方ないな」

「まず最近我が国で起きた問題を並べますと、第三王子が婚約者である公爵令嬢に対して人前で婚約破棄を宣言されました」

「受理されなくて良かったなぁ」


国王はしみじみと呟く。


「陛下が決めた婚約ですから、陛下が許可されなければ破棄などはできません」

「そこが頭からすっぽりと抜けてしまっているのがあの子第三王子らしさではあるな。昔からそういうところがあるから、しっかりした女の子を結婚相手にと思って公爵令嬢に婚約を打診したのだが…私、先見の明あったな」

「えぇ。ただ、父親である公爵からは抗議文が届いております」

「後で見る」


宰相が机に置いた抗議文らしきものをちらりと見ると、すぐに視線を窓の外に移す。


「そして、第一王子を王太子に任命されました」

「まぁ、順当だな」

「遅かったくらいです」

「仕方ないだろう。あの子第一王子は慎重派で、なかなか決断ができなかったようだから」

「だからと言って、差出人不明の箱を送り付けるのもいかがなものかと思いますが」

「あれで受ける気になったのだから、終わり良ければ全て良しだろう」

「国王陛下からの任命ですので、そもそも誰も断れません。そのことに関して、王妃様から抗議文が届いております」

「…あ、後で見る」


机に置かれた2つ目の書類に、少しびくびくしている。


「姫様は外出が制限されたことで少々荒れていたようですが、王城に友人を招いたことで落ち着いたようです」

「仲が良い友人がいるのは良いことだ」

「お相手は男爵家の令嬢ということですが」

「王城に招き入れたということは、身元の調査に怪しい点がなかったのだろう?」

「そうですね。ただ、男爵から娘が姫様の友人になったのだから爵位を上げてくれないかという嘆願書は届いております」

「それは後で見なくても良さそうだな」


国王がため息をつきつつそう言うと、宰相は嘆願書を国王の執務机に置かずに破棄する書類の場所に置く。


「第二王子は隣国でのパーティー中に王女にプロポーズし、そのまま婚約いたしました」

「視察に行かせただけなのに、何故そうなったかな…」

「ダンス中に王女を抱きしめ、怒り狂った隣国の国王が責任を取らせようとしたところ、『責任をとって結婚する』と言いかけたところを付き人が軌道修正して婚約で落ち着いたようです」

「付き人はあの家の長男か。優秀で助かったな」


一国の王子が「結婚する」と言ってしまったら、本当にそうなりかねない。

まだ婚約の方がましである。


あの子第二王子は普段は要領が良いのに、恋愛方面については鈍感だからなぁ」

「王女との関係は良好なようですので、問題はないでしょう。ただ、隣国の国王から抗議文が届いております」

「…後で見よう」


宰相は時計を確認する。


「陛下。そろそろ時間です」

「そうか」


国王は最後に青空を見上げ、ため息をついて窓を閉めた。


「鳥には会えず、か」

「では…」

「あちらは、こちらが出した条件をのむつもりはないようだ」


平和的に進めるつもりがないのならば、仕方がない。

国王は椅子に腰かけ、目の前の執務机を見る。


「”猟犬”に緊急招集をかけろ」

「かしこまりました」


宰相は深々と礼をする。


「とりあえず…」


国王は何もいない窓の外を見る。


「隣国の新興ギルドを我が国の敵として、排除する」


抗議文たちに目を通すのは、その後でも良いだろう。



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