第7話

目的のビルは静かにそこにそびえ立っていたが外壁は経年の劣化が見て取れ今にも崩れそうだった。

「廃墟だね」

見たままの感想をつくもが言っている隣で乗って来た乗り物が自動で何処かに向かっていくのをシアンは見送ってから振り返り上側を見てそれから視線を下に向ける。

今立っている場所は恐らく正面だと思うが見える範囲では中に入れそうになかった。

「行こう」

それを気にした様子もなくつくもが迷いなく建物に向けて歩き出す。

「・・・中にどうやって入るつもり」

少し遅れて後を追いかけるがそう都合よく入れる場所なんてあるのだろうか。

「それをこれから探すんだろ」

つくもは荷物を肩に掛けているがその中に何か役に立つアイテムを入れてきているのかもしれないがそれがちゃんと役に立つのかはまだ分からないはずである。

そんな事を考えながらビルの目の前に立ったがやはり入口は侵入防止のバリケードで塞がれていた。

それを二人でどかす事もできそうではある。

「これどかします」

適当な場所に手をかけて動きそうか軽く引っ張ったりしてみたがどかした先が進めるのかどうかも怪しい。

「他を見てから決めよう」

じっとバリケードを見ていたつくもが暫くしてそう言って先ずはビルの周辺を一周する事にして左右に分かれそれぞれビルの周りを歩いて裏側で落ち合う事になった。

建物の周辺は何時頃なのか分からない不法投棄されたゴミで道が塞がりかけていて歩きにくそうだったがつくもは気にした様子もなくゴミを踏みしめて奥に進んでいった。

それをみてシアンも仕方なく反対側に行くとやはり同じような状況が確認できた。

それでもここで待つわけにもいかないので決意を込めてゴミがぐらつかないかを確認して一歩を 踏み出した。

何度か足場が悪く崩れ落ちながらも中に入れそうな場所も確認しつつ裏に回ると既につくもは到着しいた。

「どうだった」

たどり着くなりこちらの無事よりも先に現状の確認が優先された。

「崩れたりして中に入れそうな所はなかったですかね」

所々ヒビは入っていたが崩れて崩壊している所は見つからなかったのでそう答える。

「そうか、こっち側にもそれらしい場所は見当たらなかった」

やはりつくも側も同じだったようだ。

「どうしましょう」

先ほどからずっと上の方に視線を向けているつくもに聞く。

「上だな」

その視線の先はどうやら窓が割れて開いている空洞に向けられていたらしい。

「上って・・」

どうやってと言う前に袋からかぎ爪付のロープを取り出していた。

「上手く引っかかるといいが」

手早く用意を済ませるとロープを軽く回転させてそれを上空に向けて放り投げる。

放物線を描いてフックの先が窓の中に吸い込まれて見えなくなる。

「え・・うそ」

一回で成功させるとは思ってなかったシアンが思わず呟くがその向こうでは淡々と爪がちゃんと何処かに引っかかっているのか確認するためにロープを引っ張っていた。

「よし。問題なさそうだ」

言うが早くロープの確認を終えるとシアンに向けて片手の手袋を投げてよこした。

「それ使っても使わなくてもいいぞ。先に行くから後から来いよ」

軽やかにそれだけ言い残すとロープと壁を上手に使って素早く上の方に消えて行った。

「はや・・」

流れ作業にあっけにとられていたが次は自分が同じことをしないといけないらしい。

「えっと・・・」

取りあえず受け取った手袋をはめてつくもと同じようにロープを確認する。

確かに何かに引っかかって止まってはいる。

それにつくもだって今さっき上ったので耐荷重も恐らくはダイジョブなはず。

「出来るのか・・・いや、やらないとダメか・・」

一人ぼそぼそそと呟いて覚悟を決めるとロープを握る手に力を込めた。

軽やかに上って行ったつくもとは対照的にえっちらおっちらなんとかロープを上り切るが最後の最後で乗せる足場を間違えてバランスをくずして落ちる様に床に転がった。

「後ろにひっくり返らなかっただけ上出来・・・か」

思わずそんな事を呟きながら立ち上がると建物の中はがらんとしていて何も残っていないようだった。

それに転がった先が大きく砕けて穴が開いている事も無かった。

なにより以外にもモノは何故かほとんど残っていないようでフロアはがらんとしている様子。

それでも埃だけは床に溜まっていたのか転がったシアンのせいで辺りに埃が舞い上がっていた。

転がって自分に着いた埃を払うと少し気管に入ったのか咳きこむことになったがそれでもようやく立ち上がる。

「何をやってるんだ」

それを見ていたのか呆れたようにつくもがフロアの入り口付近から声をかけてきた。

そっちをみると持って来ていたフルフェイスを装着したらしく少し驚いた。

まだ微かに舞っている埃を避ける様にこちらと距離を取ながら窓の方に向かってそのままになっていたロープを手早く回収すると「こっちだ」と言って入口に戻って手招きされる。

言われるままつくもの後に続くと暫く行った先で上と下に続く階段にたどり着く。

そこに向かうまでの通路も特に大きく朽ちた様子もなく淡々と進む事が出来た。

「何と言うかそこまで崩壊してないモノなんですかね」

それは建物をここまで進みながら感じた感想だった。

「どうだろうな・・それはこの先に進めば分かるだろ」

そう言って階段を上り始める。

「上に向かうんですか」

てっきり下に向かうと思って下に行きかけていたシアンが慌てて後を追いかける。

「確かめたいことがある」

その返答を聞いても何をするのかよく分からないがつくもには何か明確な目的が在りそうである。

それからワンフロアごとに軽くチェックをしては上に上がる作業が続くがやはり建物が大きく損傷している箇所は少なく床も崩れて崩壊している様子は見受けられなかった。

ただそうやってチェックしていく間に気になった事もある。

「ここって本当に使用されていたんですかね・・・」

外とは違い建物の中には何故か何も残っていないようで何処を見回ってもがらんとした空洞が広がっていた。

「それは分からないが少なくとも直近での侵入とかここで誰かが生活しているとかはなさそうだな」

淡々と作業をこなしながらつくもは答える。

そうやって進んでいき同じようなフロアを何度も行きすぎた頃。

「ここだ」

まだ階段を上がっただけで何もしていなのに何か確証があるかのようにつくもがたどり着くなりそう言って走り出した。

慌てて後を追うとその先に何かの機材が残されていた。

よくよく耳を澄ますと機械のノイズみたいのもしていたのでもしかするとつくもはいち早くその音を聞いたのかもしれないと思った。

「これって・・・」

それを見てもシアンには何の機材なのかは分からなかったが、


ようこそ。


不意に二人向けてそんな電子音が聞こえてきた。

「人工知能・・か」

つくもが直ぐにそう言ったのでシアンもどうやら目の前に鎮座したあの機械が話しかけてきたと理解した。


何か御用がありますでしょうか。


「お前はここで今何をしているんだ」

少し落ち着いたらしいつくもが咳払いをしてかそう問いかける。


以前はここの建物全般を管理していましたが今現在はシステムの不具合もあり一部のメンテナンスのみ実行中です。


淡々と聞かれた事に答えているだけなのでこれが本当に人工知能なのかただのプログラムなのかは判断できない。

ただ建物が既に放棄されいるのだからこの機械もいずれかこの建物と同様に何時かは朽ちていくのだろう。

ただあれだけ他に何も残していないのに コレ はこの場所に放棄されているのかシアンにはその理由は思いつかない。

「この建物に最近出入りがあったのかは分かるか」

つくもはそれよりも自分の目的を優先させたらしき質問を続けている。


現在下層のカメラ、センサーが機能していなのでそれは分かりません


「それじゃあ、ここに最近我々を抜かして誰か会いに来たか」

その聞き方が少しだけ気になったがシアンはまだ黙っておくことにして様子を見据える。


いません。


「そう・・・ありがとう」

つくもは最後にお礼を言うと機械に背を向けた。

「もういいのか」

どうやら目的の場所ではなかったらしいと思いシアンも後を追う。

離れればまた沈黙するだろうと思っていたがそんな二人にまたが話しかける。


私を廃棄しに来たのではないのですか。


そう言われて先を歩いていたつくもの足がピタリと止まる。

手にしている荷物にはあの時使っていたレーザーが付けれらていてそれがゆっくりと揺れていた。

「死にたいのか」

聞かれたことに対してあえてそうつくもは聞き返した。

そんな気がしてシアンは振り向かない後ろ姿をただ見つめる。

どの道顔はフルフェイスで見えないので振り返ったところでその表情は見えないのだけれどその背中からは何となく悲しんでいるような気配を感じていた。


私の使命は最早とうに終わっていると推定されます。

電力は今も外部から問題なく供給されていますが、

老朽化は確実に進んでいます。


「だったらその時をこれまで通り待てばいい」

つくもの答えは確かにその通りでこれまでもそうだったのならこれかもそれでいいはず。

それともゆっくりと終わっていくのはやはり機械でも 恐ろしい ものなのだろうか。


そうですか。


機械はそれだけ囁くように言うと辺りはまた小さなノイズだけが響き始める。

つくもはそのまま階段まで戻ると今度は下に向けて来た時よりも早く降り始めた。

「あ、ちょっと・・」

慌ててシアンも追いかけようとするが少しだけ後ろ髪を引かれて振り返る。

ただ自分ではどうする事も出来ないししようとも思わないのだけれどプログラムでも死にたいと願うのだろうかとそんな思いがよぎった。

だがそれよりも確実に遠ざかっていく足音を追いかけるべくシアンも階段を勢いに任せて下っていく。


残された機械は先ほどと変わらず静かに残された時を刻んでいるようだった。

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デッドエンドサバイバル 影月 @kage-tsuki

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