季節の靴と軽鎧

「こちらはそれぞれの生地で作ったブーツになります。サイズは少し合わないかもしれませんが、まずは履いてみて気に入られました生地をお願いします」


「分かったぜ」


 俺は順番にブーツを履いていく。


「ん、これは固いな。こっちはちょっと重すぎる。でも、歩く感覚はいいな。こっちは…あっ駄目だ。柔らかすぎて、足をくじきそうだわ」


「ふむ。ロウは結構足回りは気を付けているんだな」


「まあな。俺のいたところも靴はいっぱいあったからな。庶民でも20クロムぐらいから300クロムぐらいのもあったんだぞ」


「300クロムともなるとかなりのものですね」


「ちなみにこの店だと売れ行きはどれぐらいのだ?」


「まあ、そこそこ買い換えますから120クロム前後が多いですね」


「ん?結構高いな」


「そこまで大量に作れませんので…」


「ああ、そういえばそうか」


 魔石を利用した機械のようなものもあるものの、基本的に魔力の低い平民では使いこなせない上に高価だ。必然的に手作りになるためこういうものも高くなる。食料価格だけ見ると痛い目を見るって、勉強してても思ったんだよな。


「それにしても20クロムとは…本当にその靴は履けるのか?」


「ああ、まあ、大量に作る方法があってな。職人が作ってるわけじゃないからそこまでいいものでもないけど」


 ちょっと口の端を濁しながら答える。嘘は言ってないよな。


「本当に謎な国から来たんだな、ロウは」


「俺からしたらこっちが謎だけどな」


「本当に仲がよろしいですね。やはり、ご婚約されたのですか?」


「なっ!?やはりとはなんだ!ロウは同僚だ」


「そうでしたか。ですが、リタ様がこちらに男性をお連れになったこともございませんでしたので。申し訳ございません」


「謝らなくてもいい。それに今まで連れてこなかったのは必要なかったからだ」


「そうですか。おっと、お気に入りのものはありましたか?」


「ああ、こっちのちょっと焦げ茶色のやつだ。重さを少しだけ感じるけど、形がいい」


「かしこまりました。少しだけ周りを削って軽量化いたしますね」


「削っても大丈夫なのか?」


「はい。と言いますか、軍用のブーツでしたらここに軽く金属を当てますので、そのままだとさらに重くなってしまうのです」


「それはきついな。頼む」


「かしこまりました。とりあえず2足お作りいたしますが、冬用は必要ですか?」


「ああ。そっちも頼む」


「冬用?まだ春先だろ?」


 リタの返答に疑問を持ったので聞いてみる。


「護衛で行く地域によっては必要になるかもしれないだろう?まさか、慌てて用意した既製品を履くつもりか?」


「そういうことか。なら、一緒に頼む」


「はいっ!」


 笑顔で店員は返事をすると奥に引っ込んでいった。


「では、足型を取りますね。…このサイズですと、割と早く1足はできそうですね。4日ほどお待ちください」


「結構早いんだな」


「リタ様にはお世話になっておりますから、職人にも急がせます。護衛騎士様のご依頼自体、名誉でありますから」


「無理はしなくていいからな」


「承知しました。この後のご予定は?」


「ああ、鎧を見に行こうかと思っている」


「でしたら、こちらもお持ちくださいませ」


「これは革の切れ端?」


「はい。こちらでブーツに使ったものになります。軽鎧でしたら、内側に革を使うことも多いですから参考になるかと」


「悪いな」


 先に前払い分の800クロムを支払って俺たちは店を出る。


「しっかし、あれだな。せっかく金持ちになったと思ったら、一気に金が飛んでいくな」


「しょうがないだろう。装備を整えるのは重要だからな。それに後で申請すれば6割ぐらいは戻ってくるはずだ」


「本当か?」


「ああ。親衛隊所属で…そういえば、ロウは親衛隊扱いではなかったな」


「あっ!?そういや、俺も思い出した。軽鎧は陛下が作ってくれるんだった」


「何っ!?絶対にその話はするなよ」


「面倒ごとになるか?」


「なる!正直、私も羨ましい」


 やっぱり名誉なことなのか?リタの食いつきもだいぶ大きいな…。


「でも、リタだって陛下と食事ぐらいするだろ?そこまで違うのか?」


「それももちろん名誉だが、騎士として身に付けるものを下賜されるなど、名誉の極みだぞ!それに鎧だろう?」


「た、多分な…」


「剣は規格が決まっていて、ある程度支給の履歴から判断してこれというものが作りやすい。しかし、防具や身に付けるものとなると、専用の設計になるからな。ロウの任務を考えれば、騎士団長クラスの誂えるものになるだろう」


 思わずぽつりといいなぁと漏らす、リタ。俺にはそこまで実感話わかないけど大事にしよう。


「よしっ!私もこの剣と盾に付与する術師に伝えておかねばな」


「ん?どうしてだ?」


「そんなすごい鎧と一緒に身に付けるのだ。適当な付与では笑われてしまうからな」


「そういうもんか。でも、どうしようか?次の行き先がなくなったぞ?」


「ふむ。そうだな…アクセサリーを見に行くか」


「アクセサリーか。リタもやっぱり女なんだな!」


「なっ!?失礼だぞ!それに、アクセサリーと言っても護符のようなものだ。相手に悟られることなく効果を得られる有用なものなんだぞ!」


「結局そっちかよ。まあ、せっかくだし案内してくれ」


「うむ」


 こうして俺たちはなんだかんだ言いながら、アクセサリーショップに向かった。

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全てを貫く銃を片手に異世界に行った俺、姫を助ける 弓立歩 @Ross-ARIA

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