武器とブーツ
「んで、剣と盾か。まあオーソドックスなやつだからものもいっぱいあるぜ」
「やや長めの片手剣で頼む。持ち手は両手にも対応しているやつでな」
「分かった。盾は騎士向けの小型か?」
「ああ、デザインシールドのできれば腕固定タイプだ」
「腕固定?手に持たないのか?」
「手に持つものだと確かに思った通りの角度で受けられるメリットがあるが、ロウのように扱いに慣れていないとすぐに落とすぞ」
「落とす?ちゃんと持ってるのにか?」
「ああ。どうしても最初は逃げ腰になると意識が四肢の先端まで行かなくなる。特に手は力が抜けやすいんだ。銃と言ったか?ああいう小型の物ならともかく、それなりに重量もある盾とかは特に落としやすい。盾で反撃しようとは思わないだろう?」
「ん?まあ、身を守るものだからな」
「そう本能的に解釈しているから余計に手放したくなるんだ。逃げるのに邪魔だとな」
「ああ!それなら分かるぜ。確かに、剣を振り回してなんとか追い払うことはあっても、盾でそれをしてるイメージは沸かないな」
「初心者は特にな。だから、腕に着けている方が結果的にはいいんだ。逃げる時にわざわざ外す手間を意識しないからな」
「へぇ~、色々考えられてるんだなぁ」
「騎士は戦場で生き残る術を覚えていなければならないからな。勝利であれ敗北であれ結果を伝えるのも仕事だ」
「剣と礼儀だけでいいのかと思ってたぜ」
「まあ、ロウは今それだけしてればいいさ。それより武器も決まったんだからどれを買うか決めないと」
「おっとそうだな。それじゃあ、リタが選んでくれ」
「私が選んでもいいのか?」
「ああ。俺が選んでも騎士にふさわしくない!っていちゃもん付けられるかもしれないからな。何か言われたら、『リタの感性に文句言ってんのか?』って言ってやるよ」
「人をだしに使うな。まあ、その方がお前にとってもいいか。では、ちょっと待っていろ」
そういうとリタはどんどん剣を手に取って数回ずつ振っていく。
「これは軽すぎるな。こっちは長い、これは…」
「リタ~、まだかかるのか?」
「うるさい。真剣に悩んでいるから声をかけるな」
「へ~い」
この辺は騎士のこだわりなのかリタは自分の世界に入っていった。
「にしても剣を振るの楽しそうだよな。リタが剣好きなだけだと思うけど」
あんなに真剣に打ち込めるなんて俺も少しは練習しないと、という気にさせられる。まあ、放っておいてもこれからやらされるだろうがな。
「剣はこれだな。後は盾か。必要になるか分からないが、一応刺突可能なものにしておくか」
「デザインシールドも色々あるのか?」
「ああ、装飾を施してあるのは勿論だが、丸盾としての基本機能だけの物から、私が選んでいる刺突機能付きのものもある。こっちはいざとなればナイフのように刺すこともできるぞ。しかも、腕の動きだけで攻撃できるメリットもある」
「デメリットは?」
「…最初からそういう装備だと相手にもわかる」
「あ~、まあそりゃそうだよな。でも、機能としてあった方がいいってことか?」
「剣の腕は正直構えで大体わかるが、こういったからめ手の練度は中々分からないからな。あえて剣の腕を磨かず、不意打ちに特化した暗殺者もいるからな」
「実際に腕をあげないことで相手の油断を誘う訳か。おっかねぇなぁ」
「それが自分の身を守ることにつながるのだ。見切られなければだが」
その後、無事にシールドも見て貰い会計に入る。
「こちら合計で8000クロムになります」
「8000ってことは80枚か。思ったより安いんだな」
結構いい店なのに内訳を聞くと剣一本が6000クロム。盾の方は2000クロムだそうだ。日本だと剣一本でも100万円は超えるだろう。多分な。
「ん?まあ、付与前だしな」
「付与?」
「ああ。武器は買って終わりではないぞ。ここから魔法を付与するんだ。もちろん、付与付きのものもあるが。そっちの方が少し割安だな」
「なら、なんでそっちにしなかったんだ?」
「付与付きはできるだけ売れるように平均的なサイズの物ばかりだ。ロウの欲しい条件には合わない。それに忘れたか?お前は護衛騎士だ。城の方でやればいい」
「やればいいっていっても、頼んだらやってくれるもんなのか?」
「ああ、知り合いに腕のいい付与術師がいる」
「王城勤めなんだろ?俺にやってくれるもんなのか?自慢じゃないが貴族でもないし…」
「私が話をしておいた。興味もあると言っていたな」
「それならいいんだけどよ」
何にせよ。ここから追加料金がかからないのは助かる。後で付与にかかる費用を教えて貰ったら、内容にもよるけど一つ2000クロム。小型の盾でも1000クロムはかかるらしい。高ぇよ。
「後は具足とかだが、それは別の店にしよう」
「どうしてだ?」
「いい革職人がいてな。ロウだとここに鉄の装備は重いだろう?心配するな。胸当てなんかもできるだけ軽いものを見てやるから」
「気を使ってくれたんだな。悪い」
「同じ、殿下を守る仲間だからな!」
やや照れたようにリタが答える。う~む、素直じゃないやつ。
「さあ、ここだ」
「いらっしゃいま…リタ様!お久しぶりです」
「ああ、久しいな。今日はこの男の騎士用ブーツを見に来た」
「こちらの男性の?まぁまぁ、でしたら当店の最高級のものをご用意させますわ」
「頼む」
「おいおい、最高級だなんていいのかよ。俺、さっき買い物したばかりだぞ?」
「そう心配するな。大体安いブーツなどすぐに駄目になるぞ?戦場で足は一番大事だと言ってもいい。攻めにも逃げにも有利になるんだ」
「まあ確かに」
正直、装備に関しては俺の知識なんて知れているのでここも大人しくリタに従うことにした。それにしても面倒見いいよなぁ。
「どうした?」
「いや」
「お待たせしました!こちらへどうぞ」
「うむ」
小部屋の方に案内されると、多くの生地とすでに出来上がっているブーツがいくつか並べられていた。
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