~虻蜂取らず~ マグロ編

チャーハン@カクヨムコン参加モード

虻蜂取らず

 とある寒い海の中。一匹のマグロが海の中を泳いでいました。奴の名はマグまぐろといいます。本マグロの一種で、雑食です。知能がそこまでよくないためか、彼はなんでも口にします。ごみであれ氷であれなんでも口にしてしまうようです。


(今日もこの海を泳いで飯を食うぞ!!)


 マグまぐろはそう意気込みながら海を回遊します。そうしていると、彼はとある物体を目にします。それは、イワシの渦でした。何万匹もの個体が集まり構成された渦は彼の方へ向かってきます。まずいと思った彼は踵を返そうとしますが、上手くいきません。


 なぜなら、彼はマグロなのです。マグロであるがゆえに、突っ込むしか能がないのです。彼は渦の中に突っ込みます。直後、イワシの渦が少し崩れました。食べられると想像した個体たちが逃げたことで崩れたようです。


 その光景を見ていた彼は面白いことを思い浮かんだようです。急旋回し、何度も何度も彼はいたずらに突進を続けました。するとどうでしょう。彼が通った周りに、何匹かぷかりと浮かんでいるイワシがいるではないですか。


(作戦成功!)


 そう、彼の狙いはいたって単純。イワシに突進して気絶させることで新鮮な状態で丸呑みする事だったのです。なんともまぁ、恐ろしいことを考えるのでしょうか。


 イワシの群れが完全崩壊したとき、数百匹の個体が気絶状態になっていました。最終的にマグロが食べたのは三十数匹だったので、それ以上は海の藻屑となるのです。


 優しさの欠片もありません。中々ひどいですね。

 おや? マグまぐろが何かを見つけたようです。


(ゆらゆら揺れてる……初めて見る物体! 気になる!! たべてみよう!!!)


 マグロが見つけた物体に突進し、嚙みつきます!!


 絶対に獲物を逃さない歯で嚙まれた獲物はひとたまりもありません。一瞬で絶命してしまいます。マグまぐろは獲物を飲み込むために口を開きません。


(絶対に離さないぞ!)

 

 食いしん坊の彼にとって水に入ったものは全て餌なのです。彼が初めて見た物体を逃すわけがありませんでした。その結果――発生したのは少し悲しい現実です。


(えっ!?)


 彼は勢い良く船の甲板に叩きつけられました。強打した左半身にしびれが生じた後、苦しさを覚えながらびちびち跳ね上がります。しかし、海に戻ることはできませんでした。


「活きが良いな。新鮮そうだしくっちまうべ」

「だべな」


 なぜなら――彼の人生はそこで終わってしまったのですから。


~虻蜂取らず~


 狙いすぎて、どれも得られないこと。欲張りすぎて失敗すること。

 今回は後者。

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