第3話 反撃ト悲劇ヲ

「それがぁ何か知らねえが、本気マジになってくれんなら大歓迎だぜ。ビビんなよ。」


 奴の本気マジがすごいのは雰囲気からでも察することができる。だからこそなのだ。―――だからこそ。


「覚悟、決まったから。十分に楽しくやろうぜ。お前も本気マジっぽいしさ。俺も楽しくなったし。生み出された絶望は全部喰ってやるし、お前も。」


「そうかぁ。楽しくさせてもらっちゃってるなぁ。でもよぉ。手加減できねぇししねぇからな。最期の忠告だ。」


 あいつの眼は本気に染まっている。生み出され続ける絶望。―――俺にとってのアドバンテージ。活かすしかない。


「ちょっとちょっと予想通りすぎるぜぇ。もっともっと全力で、かかてこいよぉ。」


「うるせぇな。ごちゃごちゃよ。くたばれよ。」


「口が急に荒れてきたな。アッハハハハハ。おもしれぇー。楽しすぎるぜぇ。」


 張り詰める空気感。お構いなしに攻撃の手を止めない奴。俺もスフィアで防戦一方だが隙をひたすら考え待つのみだった。


―――その瞬間。俺は逃さない。一瞬に見えたその間をすかさずに突く。


「くそっ。でもまだまだだなぁ。うぇっ。」


「うぐぁっ。」


 互いに壁に衝突する。ぽたぽたと頭から流れる赤いどろどろとした液体を見て俺は舐める。立ち上がった血を少しだけ流す奴は今までにないほどにになる。


「もう。ここまで来たらやるしかねーな。」


「アハハハハハ。アッハハハハハ。楽しぃいぜぇ。終わりにしちゃおうぜぇ。」


 冷静にいくしかない。それを脳内に入れて俺はスフィアに手を突っ込み纏った。拳で戦う。


――――それが今の最高の決断。そして一番戦いやすくなる。


「おもしれーな。お前。やろうぜ。」


 俺と奴は走りあってすれ違う。互いに頬を掠めて。この科学技術とやらにはとてもじゃないが驚きを隠せない。だけれどもと感じだ。


「ソードを拳で止めるなんてなんてやつだぜレクイエム。」


 俺は喰った絶望を開放すように纏う。そんな禍々しくもなった拳をぶっぱなし奴の頬を掠めた。―――それだけじゃいられない。対するようにやつの渾身と思われるソードの一撃が頬を掠める。互いに血を流す。動いた形跡が血で分かるようになっているその場所で対し睨み合う。正直なところ互角、といったところだろうか。悔しいが。でもそれでも抜け道はあるはずだろう―――と。


「血が、血が、アハハハハ。ハハハハハハハハハハ。」


 流れる血を見て俺は次第に笑うことしかできなくなっていく。そして。エナジードリンクを飲んだ直後みたいに...


「どうしたんだい。レクイエムゥ―。もう勘弁てところかよ。」


「なわけねーだろ。雑魚が。」


「言ってくれんなあ。これでもくらっちまえよ。」


 奴のソードから放たれた一閃の突き。今までにもなきスピードで襲う―――。


「うっ。」


 その声を出したのは奴だった。ギリギリで避けることもできなかった。だからこそ反撃の一手を繰り出し。この固く握られた、拳で。その絶望で。


「砕いてみせる。」


 こっちの流れを絶望の力で引き寄せる。のみだ。だからこそだ。


罪過クライム禍」


 そう言い俺の拳の周りは円状に何かに覆われる―――。そして。拳を放った。


 その瞬間何かが。


***


 俺はコードネーム:ラック。本名桐坂秀明。現年齢17歳。俺の人生のすぐ横には生野東御とZETAがいた。


 ―――10年前。


 目の前で殴られて壁に衝突した母とその前にこぶしを握り立ち尽くす男、父がそこにはいた。今でも鮮明に覚えているほどに衝撃だった。父のこぶしを握る右手の反対には包丁と思われるものがあった。そしてその男は突っ走り突き刺す。その団地にあるアパートの狭い一室で。母は悲鳴を上げることもなく既にこの世を去っていたのだろう。近隣住民の通報によりその男、父は逮捕され母は病院到着後まもなくして亡くなられた。そう連絡が来た。その時俺は車に乗っていた。パトカーと救急車が来た直後だろうか一人の男が来て、父よりも若干老けている。そしてこっち側に来いそう言われ俺はこの車の中でこっち側を象徴する場所へ向かっていた。フェンスに囲まれたその場所は五つの施設が真ん中のタワーに向かって繋げられ建っている。そして車から降ろされ明らかに最先端ともされる場所で一人の男が語り始めた。


「ここの所長の生野東御。研究者だ。最先端科学技術を生み出す組織ZETA。君も今日からここの一員だ。そして今日から君の名は、生野長佐。わかったかい。そして君の部屋はここだ。今日は食事をこの部屋に運ぶから食べてから寝たまえ。」


 何が何か分からない7歳の俺は生野長佐になった。その日から―――。


 ここでの暮らしは正直悪くなくむしろ、良すぎた。それから半年後。


「ごめんな長佐。今日はお前の体にこれ、エッジを入れる。成功すれば晴れてお前もエージェントになる権利を持つ。やるか?」


 ―――エッジ。それはエージェントになるための必須のものであり戦いの補助を役目としサイバーと連携をとるために必須である。


「うん。僕やるよ。東御さんのために。」


 ―――おい、お前やめろよ。そう今の俺が言っても食い止めることはできず。俺はエッジを入れられエージェントになる道を選択してしまった。


 それからまもなく2週間後だったろう。俺は東御さんに呼び出され謎の部屋にいた。


「長佐。お前は今日からエージェントになるために試練をするまずはこれ、武器となるサイバーの使い方だ。」


「けん...?」


「ああそうだ。これはソード。お前のエッジをもとに最適合はこれであったんだ。ソード第三型。これで今日から頑張るんだぞ。」


「ありがとう。僕頑張るよ。今日から。」


 毎日やることはソードを使った時の動きとエッジがどれだけ反応、連携ができるのかだった。適応手段であるスタイルもこなす。毎日のようにひたすらと動きを叩き込んでいた。日に日に動きがよくなっていると東御さんに褒められからは更に更に曽於の一心だった。次第に死んだ母と捕まった父は忘れ、


 ―――1年後。


「今日で長佐、お前がエージェントになるか決まる日だ。戦闘用兵器ロボット300体をすべて倒すことができればお前はエージェントになる。がんばれ。」


「俺、頑張る。立派なエージェントになるって伊吹さんとも約束したの。」


 伊吹さん。その人は料理を作ったり俺らの世話をする人。俺のほかここには年齢関係なく子供が1000人ほどおりエージェントは僅かにも25人だ。だからこそこの時はやる気になっていた―――。


 俺は東御さんについていきその部屋に入る。殺風景な部屋の扉が閉まったと同時にピーと音が響き渡り戦闘用兵器ロボットがこちらへと来た。


 いつも通りを心掛けて戦うただそれだけだった。ロボットにはソード、ガンなど種類があり全てランダムで段々とレベルがあがってゆく。最初のほうは難なくこなしていた100を超えてきた当たりでその想定していたレベルとは異なる強さが現れ苦戦する。


「スタイル<D>」


 初めてスタイルを指定した。戦う中では動きだけではない頭脳を駆使する。空間的にとらえ見ることがとても大事だと教えてもらっていた。―――だからこそ。しっかりと教わった通りにする。それだけでもない。それを8歳にして実行していた。俺は負けないその一心で砕かれることなく一心不乱に迎え撃ってくるロボットを薙ぎ倒すしかなく。299体を倒していた。最期の300体目までこれたのは過去2000人中150人。そしてエージェントになったのは25人。そして過去挑戦者のデータやその挑戦者のデータに基づいてその最後のロボットは適応していく。猶更そのロボットはほぼロボットじゃないという。唯一名前がついておりその名は<ラスト>。


「こ、こいつがラスト。明らかに強そうだ。」


 つい言葉が漏れた。そしてラストは唯一言語を発する。


「殺すネ。君。挑戦者。」


 ラストは狂暴なのかとかは分からないが予測できないだけじゃない計算しつくされた手数をそのままというほどに行使してくる。反撃の一手を探すことはできずあっという間に負けるかもしれないと頭に少しなからず過った。それでも俺は8歳ながらも頭をフル回転させていた。


「君、防戦一方。すぐ落とされるネ。イイノカネ。」


 ―――よくない。僕はここで負けたくなんてないよ。ここまで来たならば。


「お前を打ち破る。」


 ラストの一瞬の隙は今度こそとばかり逃さず一閃のごとく突く。ここから余計に隙が生まれる。―――計算外だからだ。寧ろそれ以外ないと言い切ってもいいほどに。


「うぐぁっ。」


 ラストは声と共に宙を舞い床に衝突すると纏っていた装甲は壊れ外れると人間がいた。すると―――。


「ハッハハハ。君の勝ちだよ。長佐。ラスト、いや劉。お前はもう用なしだ。かつての最強の傭兵よ。こいつを殺しやしない。ここから追い出せ。」


 東御さんは覇気を持ち言い放つ。一種の攻撃だと俺は感じていた。彼、ラストの本名は劉迅(リュー・ジン)韓国籍で黎六会所属魔術師でありながらも最強の傭兵。フィクサーを確固たる約束にしていた。しかしながらもフィクサーへの進歩は見られずその中でラストになる決意だった。しかし装甲がこわされた。2001人目の一突きで夢は途絶えた――――。


「そしてラスト、劉迅は本日付でZETA追放とする。」


 東御さんが彼に見せた表情はとても引くものだった。でもそれでも俺は東御さんを嫌いになることなんてなくそのままエージェントになり様々な任務をこなし二級までに上がっていた。俺の人生はあの暑苦しい血の部屋から一変していた―――。


***


「介された記憶か。お前、意識がないだな、ここまでだったみたいだ、ありがとうな。」


 そう言い俺はこのビルをそそくさと去り右手に出る薄っすらとした青い一つの線を見て首をかしげる。


 そしてこいつも大変だったんだなと最後に他人事として締めくくった。俺の右手にはさっきの反動がいまだに残っており多少痛む。明後日だというのに。どうしてくれるんだろうか。でも情報は幾分かと得た。


「ああ、なんて死だよ。レクイエムの本気マジなめちゃいかねえよ。」


***


「レクイエムを先に処理したほうがいいじゃないんでしょうか十核立式<サザンクロス>よりも先にやったほうが。フィクサー刻まれるんじゃないでしょうか。だって―――」


「愚策だぞ。ルイロス。フィクサーが現れようと彼は私が呼ばなくてもそこに来るおバカさんだから。」


「そうですか総帥。総帥が言うならば従うまでです。」


「それにしても、レクイエム、君は何て美しいんだ。ギルティの完全適合者であるディザイア。そしてその力。美しさが漏れ続けている。そしてフィクサーか。<黎の烙印>までなんてね。つくづく驚かされているよ。いつか戦いたい。」


***

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罪人ノレクイエム 吉。 @yopiti

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