はなさないで
大道寺司
第1話
「離さないで!」
とある勇者パーティの旅の最後を飾る魔王討伐戦。
懸命に魔王ゼンザと戦う戦士マッソウと僧侶シスタ。その傍らで吹き飛ばされて魔王城最上階から落ちそうになっている魔法使いスぺと彼女を引き戻そうと腕を掴む勇者センパンがいた。
「だけど! このままじゃマッソウとシスタもやられる! 俺が加勢すれば魔王に勝てるかもしれない。ここは一人の命よりも世界の平和を優先するべきじゃないのか?」
「私一人を救えないで世界を救えるわけないでしょうが!」
「でも......」
「でもでもうるさい! もう話さないで。黙って引き上げて」
勇者は深くため息をつく。
「吹き飛ばされたのがシスタならよかったのに。彼女の方が可愛いし良い子だし......」
「は? 何言ってんの? 浮気? 私とは遊びだったって言うの?」
「この戦いが終わったら俺、シスタにプロポーズしようと思う」
「シスタならマッソウとデキてるわよ」
「なん......だと!?」
衝撃のあまり勇者は手を離した。
「だから離さないで~~~」
魔法使いは真っ逆さまに落ちていく。
その悲鳴もすぐに聞こえなくなった。
「シスタがマッソウとデキてて......スぺが落ちて......気持ちの整理がつかない」
勇者が混乱しながらも後ろを向くと魔王が倒されていた。
「なんだか意外とあっさり倒せたな」
「そうですね......でも、これで世界が平和になります」
マッソウとシスタがお互いに抱き合っている。
勇者がボーっと眺めていると胸の奥から憎悪が湧いてきてたちまち勇者の心を支配してしまう。
理性は働かず、身体は無意識に動き出していた。
「ぐわぁぁぁ!!!」
「センパンさん! なぜこんなことを!」
勇者は戦士を斬りつけ、戦士は倒れた。
僧侶は涙ながらに勇者に叱責するも虚ろな目の勇者にその言葉は届かない。
「彼は悪くないわ。シスタ」
「え、スぺ......さん?」
僧侶の前にはかつて魔法使いであった人型の魔物が姿を現した。
「命がけの状況では限界以上の力が出るものね。私の融合魔術で私自身と魔王をゼンザを融合したの。今の私は言うなれば魔王スぺ」
「魔王ゼンザが急にあっさり倒れたのはスぺさんが取り込んだから......?」
「ま、そうね。弱っていたから私の自我を完全に残すことができたわ。魔王の力を手に入れたから彼の理性を消して、負の感情を暴走させたの。そしたらこうなっちゃった。ま、こうなるって分かっててやったんだけどね」
「でもどうして? スぺさんはそんな人ではなかったのに!」
魔王スぺは楽しそうな顔から不機嫌な顔になる。
「どうして? 私の男があんたに気があるっていうからムカつくのよ!」
魔王スぺが魔力を込めると禍々しい門が出現する。
「何を......」
「あんたにはこの中で極上の苦痛と恥辱を与えてあげる!」
禍々しい門が開き、僧侶は吸い込まれた。
「さて」
魔王スぺは未だ虚ろな目の勇者の方を向いて微笑む。
「私は一生離さないから」
魔王スぺは融合魔術で勇者と取り込んだ。
勇者の力を得て更に力を増した彼女は大魔王スぺとして長らく世界の頂点に君臨した。
はなさないで 大道寺司 @kzr_
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