HA-西高東低
俺をあげた分だけ、君をくれると言うのなら。
君に貰った分だけ、俺を渡せば足りるのだろうか。
***
電気を落とした部屋は静けさに満ちている。響くのは時計の針の音だけ。滝山つつじは23時前を示す時計を見上げて、ふわりとあくびをした。
リビングにキッチン、そして家主の私室。どこにも人の気配は無く、家にいるのはつつじ一人。彼女はスマホのチャットアプリを立ち上げて、家主とのトークルームを開いた。最後に送ったメッセージに既読はついていない。
致し方ない上にどうしようも無いので、彼女はベッドに寝そべった。薄いものではとても越せない冷えた夜は、厳しい季節を物語っている。体温が移るまで間がかかってしまうかたい布団を憂いながら、きつくくるまった。
家主はまだ帰らない。
目を閉じた暗闇。秒針の音の中に突然、違う音がした。
つつじは程なくしてそれが玄関が開いた音だと分かった。そのままゆるく瞼を開く。布団は幾分かあたたまっていたが、恐らく寝入ってからそれほど時間が経っていないだろう。玄関にいる人の気配は、論ずるまでもなく家主のもの。
つつじは時計を盗み見る。針が示すのは日付をぎりぎり跨ぐ前。
彼女は起き抜けのぼんやりした頭で起き上がった。せっかく温まった布団を置き去りに立ってしまう。
(おかえりって言っとこう)
直後に、別にわざわざ起き上がらなくても良かったなとも思ったが、結局つつじは己の部屋のドアを開けた。扉の先にはすぐ廊下があり、左手を覗き込めば玄関が目と鼻の先である。
口を開いたつつじは、しかしすぐに戦慄した。すっかり馴染み深くなった家主が靴を脱いでいる光景があるだけなのだけれども、ただ、空気がピリピリとささくれ立っている。
(……殺気って)
玄関で立ち上がった彼、家主である乃森鴬。
(多分こういうときに使うんだろうな……)
平時に纏う柔和さとは程遠い、こちらの身を竦ませる不倶戴天とも取れる気配。張り付きそうな唇を湿らせて、つつじは声を発した。
「……………お、かえりなさい」
鴬は応答しなかった。
彼は傍に置いていた鞄を伴うと、目も合わせずつつじの前を通り過ぎて、リビングへ入る。入口で一度立ち止まって、逡巡の後に小さく「ただいま」とだけ呟いた。
月光だけが差す薄暗いリビングを通って、鴬は自室へと入っていった。引戸の閉まる音がやけに大きく響いた。
「……」
つつじはいつの間にか入れていた肩の力をゆるめた。機嫌が悪いなぁと、口には出さないものの眉を下げた。
(基本的に、自分の気分を気取らせない人なんだけどな)
何か嫌なことがあったのだろう。帰りが遅くなっていりから、ではなく。
(遅く帰った日は、何にも食べずに寝ちゃうって前に言ってたけど……)
伝聞調なのは、深夜の帰宅時は大抵、つつじは寝入っていて気づいていないからだ。曰く、深夜の帰宅は食欲が湧かないらしい。聞いていた話の通りならば、彼はこのまま寝て、起きてシャワーを浴びて、朝食をとったらまた仕事へ行くのだろう。
「……んー……」
覚醒しきらない頭で、どうしようかなと彼女は考えていた。色々なことを思いつきはしたが、『自分の部屋に戻って寝直す』という選択肢は、その中に無かった。
***
乃森鴬の部屋には窓が無い。
リビングとキッチンの間にある、要らない物を隅に追いやったような間取りの、本来は物置として使うべき狭い部屋を自室に設定しているからだ。立て付け悪く妙に閉まり切らない引き戸を開ければ、ベッドと机と椅子と、肩を竦めたハンガーラックがあるだけ。
しかし何も、鴬はこの部屋を嫌っているわけではない。好き好んでこの部屋で寝起きしているのだ。狭さと暗さは、自分以外は部屋に誰もいないという安心感をもたらしてくれる。
スマホの画面は、日を跨いですぐの時刻を示している。通知欄にあった、居候の少女からの『了解です!』というメッセージに既読だけ付けてすぐにスリープ状態にした。
鴬はベッドへ雪崩れ込む。肩掛けの鞄が重い音を立てて落ちた。大事なものが入っていたかなと考えて、特に無かったなと思い直す。
「……あー、……」
呻きながら溜息を吐く。うつ伏せのまま目を瞑り、じっと眠りに落ちるのを待った。懇々ととめどなく思考が巡り、今日一日の出来事を無意識にリフレインする。嫌な記憶が蘇ってきたところで舌打ちが漏れた。頭の整理を無理矢理打ち切る。寝返りを打って、仰向けになって、どうやら眠れなさそうだと悟る。
「……?」
やけくその意地で目を瞑り続けていた鴬は、ふと漂う香りに気づいた。
(何だこれ……)
異臭か確認して、すぐに違うと分かった。それよりももっと胃の底に訴えかけてくるような匂いだ。
「出汁」と鴬は思いがけず呟いた。
より正確には、醤油やら酒やらみりんなどを合わせたようなものだろう。何かしらを煮炊きするのに相応しく芳しい香り。
「出汁て……」
どこから、誰が、何故。疑問が沸いて止まらないが、どれもすぐに結論は出た。迷うことは無い。こんな匂いがする場所はひとつであるし、誰なのかというのも明白である。あとは何故なのか、だが――。鴬は瞼を開いて起き上がり、着っぱなしのジャケットを脱いで放った。――理由は当人に訊けば良いのだ。
鴬はまだ冷たいベッドを抜け出して、部屋をあとにした。
鴬の狭い部屋から真隣へ行けば、キッチンがある。
「……」
足先の冷える室温の中。キッチンにはおおよそ鴬が想像した通りの光景が広がっていた。そこには部屋で寝ているはずのつつじがいて、入口に背を向け鍋をあたためていた。
「何してんの」
忍び寄ったつもりは無かったが足音を立てずに近づいたせいか、彼女は身体を跳ねさせてこちらを振り返った。
つつじはややバツの悪そうな顔で口元に片手を添えている。手には竹串があって、膨らんだ頬が萎み喉を上下させた。
「つまみ食いです」
部屋にいたときよりも数段匂いが濃い。ここまで来れば、鴬からも鍋の中身が見えた。大根と豚肉の煮物だ。薄茶の出汁にひたされた大根は浅く染まり、鍋上空には湯気がたなびいている。
「いや、見れば分かるんだけどさ」
「鴬さんもつまみ食いますか?」
「話を遮らないの」
「共犯になってください」
「魅力的な誘い文句だね……」
「主犯は鴬さんで」
「なすりつけるねぇ」
おざなりな受け答えをしながら、彼女は持っていた竹串を鴬へ差し出した。少し潤んだ瞳からはまだ眠気が読み取れた。
鴬は差し出された竹串をとった。いま食欲があるのか無いのかというのは考えなかった。筋の浮かんだ大根を突き刺して引き揚げる。それはちょうど一口サイズで、頬張った鴬は熱さで少しむせた。口の中で転がしてやや冷めた頃合いに噛みほぐし、飲み込んだ。喉元を過ぎてもあたたかい。
「……おいしいね」
そう彼が言えば、眠たげな少女は口端を柔らかく持ち上げ、「でしょ」という相槌に続けて「しょっぱいものを食べると、甘いものが欲しくなりますねぇ」などと宣った。鴬は何も言わないに止め、竹串をまた鍋へ向けた。豚バラ肉を突き刺して引き上げる。今度は二回に分けて食べた。
肉を飲み込んで、鴬は竹串を鍋の大根へ適当に刺して置いた。おもむろに腕を持ち上げて、掌をつつじの方へ向けた。彼女が怖がっていないことを確認すると、頭へ手を置いた。ぽんぽんと軽く叩く。
突然撫でられて、つつじは大層困惑した。鴬はニコリともせず、今度ははしゃぐ犬にするように、つつじの頭を両手で挟んでわしゃわしゃかき混ぜた。
「な、なんなんですかぁ」
彼女がやっと抗議の声をあげると、鴬は乱れた髪を整えて手を離した。かと思えば、つつじの両頬をきゅっとつまんだ。左右に引っ張って明らかに遊びだしたので、つつじは鋭く眉を上げて言った。「……ひとはらこいひいんでうか」
「何て?」鴬が指を離す。
「人肌恋しいんですか?」
問われた鴬は小さく唸って「そうだよ、って言ったら何してくれる?」と質問に質問で返した。
「………………明日の晩ごはん、楽しみにしてくださいね」
「嗚呼嫌だなぁ、俺の嫌いなものでフルコースを振舞われそうな予感がするよ」
「鴬さんたら、未来予知が出来るなんて素敵です」
「俺がエスパーじゃないってことを証明するためにも、ここは『人肌恋しいわけではない』と答えておくね」
「それは……残念ですね」
つつじがため息をついても、鴬は依然として彼女の髪で遊んでいる。束を3つに分けて、順番に編んでいく。
「………………寝ないんですか」
「ん?うん……そうだね……、あと10分だけ」
「……はぁ、もう……5分にしてください」
呆れ顔な彼女を見下ろしながら、
(主犯ね)
苦笑を漏らした。
つつじが『主犯は鴬さんで』と言ったのが、ふと脳裏に過ぎった。彼女が何故こんなことを――深夜帯に起きてまでつまみ食いなんて彼女らしくないことを――しているのかは定かではないが。きっと尋ねても理解に苦しむ理由ではあろうが。小腹がすいているのも本当ではあろうが。恐らくは己のための行動ではあるのだろうことを、鴬は肌で感じ取った。
(主犯というのもあながち間違っていないのかもしれない。……ということにしておこう)
鴬は編んだみつあみをほどいて、また彼女の頭を両手で挟み、髪を梳いた。彼女は心地よさそうに目を細めて、今にも船をこぎ出しかねない。
「……さっきのさぁ」
「……ん」
「あと『15分だけ』って言ってたらさ、10分になってた?」
つつじは聞いているのか聞いていないのか、曖昧な生返事をした。鴬は構わず独り言を続けた。
「例えばさ、……もし『君の腕が今どうしても欲しい』って言ったら、それが火急の用だったらさ、君は指一本くらいなら渋々くれそうだよね」
「……ん……」
「君の身体も命も、まるまる全部欲しいって言ったら、君は……、俺にどこまでくれるんだろうね」
「…………」
つつじはうとうと、懐き始めの猫のように、彼の手に頭をもたげている。聞いているのだろうけれど、何を言っているのかを咀嚼する気力は残っていないのだろう。もう目が開いていない。
(……ベッドまで連れてってやるか)
鴬が彼女を抱き上げようと頬から手を離そうかというところで、遮るように彼女の口が開いた。「いや、ですよ」と。
「……まるまる……とか嫌、です……ので」
不意打ちだったもので、鴬は半拍遅れて「ので?」と促す。
「こうかん、で」
「交換?」
「うぐいすさんが……くれた分だけなら、あげます、よ」
彼は言われたことを一瞬飲み込めず、瞳を瞬かせた。
「全部あげたら、全部くれるの?」
「あげますよ」
呂律の回りきっていない返事だった。
彼はひとつ溜息をついて、彼女を抱き上げる。夢路の狭間ぎりぎりなのであろう、意識の薄い身体は重い。彼女は抗議もせず、大人しく彼の腕にしなだれかかる。
鴬は器用に片腕でつつじを抱いたまま、空いた片手で鍋に蓋をした。湯気と匂いが一気に薄れる。まだあたたかいままの鍋の取っ手を掴み、冷蔵庫へ仕舞った。
キッチンの電気を落とす。リビングの光源はカーテンから差し込む月光のみになった。暗い部屋を抜けて廊下へ出る。左手にあるドアを開けば、つつじの部屋が広がっている。鴬は抱き上げた彼女をちらりと横目に見た。
(よくこんな状態で眠れるな)
腕の中で目を閉じているつつじは、すっかりしっかり寝息を立てている。せっかく訪れた眠気を逃さぬよう慎重に、ベッドへと彼女の身体を横たえる。畳まれていた布団を被せてやり、鴬は傍に腰かけた。
話し相手がいなくなると、すぐに鴬の思考は目の前のつつじから逸れた。逸れたというよりも、フラッシュバックした。横たわる彼女の姿に、今日の依頼人を重ねていた。
──床に広がる赤い色。
『おかあさん!』
──子供の泣き声。仲間の呻き声。暴漢の金切り声。
『こっち来ちゃ、駄目……』
ビルのエントランスで、倒れ伏す母親の喉もとにナイフが宛てがわれていた。暴漢たちは通り魔に近い無差別型で、鴬たちは初段の対応に遅れた。人質に依頼人をとられ、浅慮短慮を煮詰めただけの、聞くに耐えない輩の要求と咆哮を年端もいかぬ子供に聞かせてしまった。
結果的に依頼人らは五体満足だったが、怪我をさせてしまった。捕らえた暴漢らを尋問にかけたものの、どこぞの組織の末端構成員というわけでもなく、軽佻浮薄な御託を並べるだけの、今後に活かせそうもないぽっと出の暴徒だった。そのくせやけに喋りに時間のかかる相手で、お陰で帰宅が遅くなった。ろくに収穫も無く、総合的にマイナス点の日であったために、鴬の腹はぐつぐつ煮えていた。
煮えていたところで、大根を食した。
「んん……」
眠る少女が寝言のように少しばかり喉を鳴らしたのを切っ掛けに、鴬ははたと意識を引き戻した。ふと、幼い声が過った。
『おにいちゃんたち、ありがとう』
依頼人の子供が別れ際に言っていたことだった。『ママをたすけてくれて、ありがとう』と、母親の背から半分顔を見せ、勇気を出した様子で。
鴬は知らず張り詰めていた肩の力を抜いた。電気を落とした部屋は静けさに満ちて、響くのは時計の針の音と、少女の寝息だけ。
「……おやすみ」
彼が囁くと、彼女の唇がかすかに動いた。まるで、おやすみなさいと夢うつつに言っているようだった。
***
乃森鴬の部屋には窓が無い。
窓の無い部屋に朝日は差さない。己のベッドの上で、真っ暗闇の中で鴬は目を覚ました。机と椅子と、肩を竦めたハンガーラックのシルエットだけがぼんやりと浮かんでいる。今が何時か、起きるべき時間なのか、きちんと確かめるには時計を見なければ始まらない。
起き上がるでもなく、携帯を立ち上げるわけでもなく、彼は横向きだった身体を転がして天井を仰いだ。ベッドの中で耳を澄ませる。すると程なくして、壁の向こうから聞こえるものがあった。
ドアの開く音。軽い足音。閉める音。また足音。水の音。また少しして、足音。電気のスイッチを押す音。
鴬は首を動かし、己の部屋の引き戸に目を向けた。毎朝きっかり六時四十分。窓の無い部屋には、閉まり切らない引き戸の隙間から、一筋だけ朝日が差し込む。
その一筋の朝日を見ると鴬はいつも、御釈迦様が地獄へ蜘蛛の糸を垂らしてやる話が脳裏に過ぎる。
体内時計で数分経過した頃、彼を呼ぶ声がした。朝方のために遠慮がちに、けれど真っ直ぐ通る声で。
「お兄さーん、起きてますかー」
次いで、ノックが三つ響いた。遅刻しちゃいますよ、と声が急かす。
鴬は上体だけをやっと起こした。
「……あと15分」
低く呻く。リビングであくせく朝食の用意をしている少女とは大違いな、壁に阻まれて掻き消えるような声量だった。だというのに不思議なもので、返事があった。
「長過ぎますよ!」
思わず、といった調子で鴬は吹き出した。喉の奥に笑い声を押し込めて、鴬は立ち上がった。ぐーっと伸びをして、引き戸の隙間に指をかける。
リビングに足を踏み入れれば、エアコンの温い風が漂っている。パジャマ姿のつつじがキッチンから顔を出した。
「……おはよう」
「はい、おはようございます。珍しくお寝坊さんですね」
「10分にならなかったね」
「はい?」
鴬の台詞に、つつじは怪訝そうに眉をひそめたが、彼が洗面所へ行ってしまったので、追及は叶わなかった。
シャワーを済ませた鴬が戻ると、つつじはキッチンからトーストを乗せた皿を二つ持ってきた。鴬は湯を沸かし、粉末茶を適当に溶かす。
食パン・ミニトマト・お茶が並ぶテーブルに着き、二人とも同じタイミングで「いただきます」と手を合わせる。
「昨日の大根炊いたの、食べますか?」
「今から食パン食べるのに?」
「一応聞いただけですよぅ。いらないなら上げません」
「そんなに拗ねないでよ。……お昼にいただくことにしようかな。今日は午後休の予定だから」
「あら素敵。じゃあ冷蔵庫のもの適当にあっためて食べてください。午前はお仕事ですか」
「そう……昨日の後始末が残ってるの」
「あら残念」
「素敵なのか残念なのか」
「どっちもどっちですね」
「違いないね。プラマイゼロ」
他愛も無い会話をしていると、つつじの方が先に食べ終えた。使い終わった皿をシンクまで持っていき、歯磨きを済ますと、彼女は一旦部屋に引っ込み、鞄とコートを携え制服姿でリビングに戻った。鴬がテレビを付けると、ちょうど天気予報が流れる。昨日よりもさらに冷え込む、というニュースを途中まで聞いて、つつじがさらにマフラーを持ってきた。
「では、先に出ますね」
着込んだつつじが玄関に立つ。リビングから離れると、染みるほどフローリングが冷たい。ドアを開けてすぐ、つつじがわーっと笑った。
「ホントに寒いー!」
気温が低い上、風が出ているらしかった。よく笑えるな、と思う鴬は隙間風だけで怯んでしまう。つつじは何がおかしいのか、呵々としたまま振り向いた。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
マフラーに顔を埋める彼女を見送って、鴬はドアを閉めた。鍵をかけて踵を返す。
話し相手がいなくなって静かになったリビングで、鴬の脳に思考らしい思考は無かった。ただ漫然と壁掛け時計を見上げ、まだ出掛けるまで時間があることを確認する。シンクの洗い物を片し、歯を磨き、リビングのエアコンを消して自室で着替えた。コートを着込み肩掛け鞄を提げて、部屋を出る間際に思いとどまりマフラーを引っ掴んだ。少しの間だけで、リビングから暖気が抜けていた。
「……いってきます」
誰にともなく呟く。
玄関を開いてすぐさま、寒風が襲いかかりコートをはためかせ、鴬は思わず唸った。苦労して玄関の鍵を回し、早足に階段へ向かう。エントランスを抜けてしまえば、木の葉に霜が降りているのが見えた。
鴬は肩を揺らした。
「ホントに寒いな」
朔風は呆れるほど絶え間なく吹き、まるでこちらの衣服を脱がそうと躍起になっているようだった。
「……笑っちゃうくらいだ」
相好を崩し吐いた白い息は、すぐに空気に溶けて消えた。鴬は昨日より軽い足取りで歩き始めた。
自創作短編倉庫 奈保坂恵 @Na0zaka_K10
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