密猟の流儀

山樫 梢

密猟の流儀

 よくぞお集まりいただきました。

 皆様は同好どうこう。隠す必要などございませんね。

 本日は当方主催の「密猟ツアー」にご参加ありがとうございます。

 ――ええ、ええ、分かります。そちらのお客様のご意見もごもっとも。密猟・・だなんて外聞が悪い。

 かつては推奨されていた狩猟が今では禁止されている。いやはや、なんとも変状した世の中になりました。害獣扱いだった相手を保護してやらなければならない時代がこようとは。どうせまた増え過ぎたら持て余すでしょうにねぇ。

 しかしながら、これも平和になった証。心にゆとりができたからこそ他の種を思いやる余地を持てたのでしょう。

 わたくしと致しましては、神にでもなったかのように保護だのなんだののたまうのは慈悲ではなく傲慢ごうまんだと思いますがね。世の流れには逆らえません。


 これから我々が行おうとしていることは、現代においては違法なことです。納得がゆかずとも、これは動かぬ事実。

 よって、ツアーにご参加いただく上で大切なルールがございます。

 法に反そうという立場でルールを守るというのもおかしな話ではありますが、これは我々の身の安全や未来を守るためにも重要なことなのです。


 宜しいですか?


 狩りの獲物はその場で仕留めてしまうのも捕獲して連れ帰るのもご自由に。ただし、バスに収容できる数には限りがあります。生死を問わず獲物は1体までに留めてください。

 繰り返します、生け捕りにして連れ帰らない場合も獲物は1体限りです。放置するわけにはいきませんから、死体も頭数に入ることをお忘れなく。


 見られぬよう知られぬようは鉄則として、一度捕まえた獲物はください。キャッチアンドリリースは厳禁です。

 保護法の施行以降、連中の中には我々に慣れて自ら寄って来るようなのまでいますが、それは狩る者がいなくなったからこそ。襲われたとなると警戒心が高くなり、逃げて騒ぎを起こすかもしれません。


 これは飼育目的のお客様へのお願いなのですが、連れ帰った場合は絶対に外へください。

 新規の飼育が違法であることは勿論もちろん、連中が野生化して増えてしまったら……どうなるかなんて言うまでもありませんよね? 数が増えれば堂々と狩りができるなんて思ってはいけませんよ。


 そして言うまでもないことですが、他の誰かに今宵のツアーについてください。

 我々が行うことは誰にも気付かれてはいけません。


 狩りの対象は成体に限ります。子供を狙ってはいけませんよ。

 連中も我々と同様でね。巣立ってしまえば放任しがちですが、子供に関しては過敏で過保護なんです。子供がいなくなると大きな騒ぎになる。連中が騒げば愛護団体も勘付いて騒ぐかもしれない。

 ――ええ、そうですね。飼育するなら小さい方が手懐てなずけやすいし可愛いですね。分かります。でも駄目です。


 飼育目的のお客様方、連中がどんなになついて従順に見えても、決して油断してはいけませんよ。なんといっても本性は同種同士でも殺し合いをするような野蛮で凶暴な生き物ですからね。

 とはいえ、かつては我々もそうであったことを忘れてはいけません。

 皮肉な話ではありますが、ある意味我々が一丸いちがんとなれたのは共通の強敵がいたからこそだと言えます。現に、外敵が衰退した途端に連中の扱いひとつとっても分断されているわけですから。

 彼らの有り様は教示しているのです。状況次第では我々がああなっていたのかもしれないと。

 どうぞお忘れにならないでください。

 我々が人魔戦争の勝者となったのは、言ってしまえば運です。あの戦いはどちらが勝っていてもおかしくなかった。

 現在連中が数を減らしているのは、繁殖に不向きな不毛の地へ追いやられたからに過ぎません。環境の良い都会に隠れ棲み再び数を増やせばどうなることか。

 平和けして腑抜ふぬけた今の我々に太刀打たちうちができるでしょうか?


 無論、飼いたいという皆様のお気持ちを否定など致しませんよ。器用で賢く、適切に世話すれば懐き、しつれば従い、言葉も覚える。ペットや奴隷としてあれほど優秀な生物は他にいませんからね。最低限必要な要件さえ守っていただければ構わないのです。


 魔族と人族が雌雄しゆうを決したあの戦いから百年も経たぬうちに世相は大きく様変わりしました。負けた直後はしおらしかった連中も、こちらが配慮を見せれば付け上がって図々しくなる一方。

 我々が改めて連中にしかるべき立場というものを教え込んでみせようではありませんか。


 では、おさらい致しましょう。


 捕まえたら「離さない」

 連れ帰ったら「放さない」

 このことを誰にも「話さない」


 まもなく棲息域かりばに到着します。

 それでは皆様、ルールを守って良き狩りをお楽しみください。

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