はなさないで 十年間の秘密
花森遊梨(はなもりゆうり)
第1話
タカトという少年と友人が三名がいました。
ヨウスケ エビス タガワ
彼らは「スープが冷めない距離」に住んでいる友人同士でした。
金曜日までは…
「オレは、裏切ったエビスを殺さなくてはならない!!!」
タカトの叫びが響いた。土曜日の話である。
そんなわけのわからないことを叫ぶタカト(十歳)のほっぺにヨウスケ(今年で十歳)は黙って足を踏み込みながらのグーをくれてやった。
「落ち着いたか?」
「落ち着いた」
子供の突然の激情、そこから一転して誰かを殺すなどと恐いことを言い出すのは、昔のテレビが突然つかなくなるようなものなので「殴って直す」という対処が一番正しい。10代になって間もない友人の精神面が実は昭和の家電と同じ構造と短期間で気づくとはこのヨウスケ、まだ9歳なのに聡明な少年である。
エビスがやらかし、タカトがキレる、そしてタガワがなだめ、ヨウスケは黙っている。お約束だ。
そして約束は守られないこともある。そんな時、ヨウスケは黙っていない。
「エビスをぶち殺したいなんて何があったんだ?いきなり人間退治に打って出る行動力は良いが、オレにワケくらい話してくれてもいいんじゃあないか?」
この四人はスープが冷めない距離に住んでいる。つまりご近所さんだ。
距離が近いというのは良いことばかりではない。距離さえあれば、ぶっ殺すと言って家を飛び出しても近くのマックに寄るとか、赤信号ついたくらいで止まるわけない自転車にぶつかるとか、ハンバーガーにもわがまま自転車にも敗けずにようやく乗るはずの電車のスイカの残高が不足しているとか急病のお客様とお客さまトラブルが出た後に非常停止ボタンが押されるなど冷静になるチャンスがいくらでもある。
だが友人たちは両親共々みんな徒歩圏内だ。つまり何かあって友人とその家族が「隣人をブッ殺したい」と思った時にはすでに「ブッ殺した」という言葉を使っていたというリスクと隣り合わせであるのだ。
だから刑事事件になる前にヨウスケが事態を収拾する必要が出てきたわけだ。
◆
お前は「未成年のうちにできちゃった婚で生まれた子供」だという秘密を、誰にもはなさないでと約束したにもかかわらずエビスに言いふらされた。そして今自己嫌悪のあまり「ここまでダメな人間は俺様ぐらいのものだろう」と、ある意味自分を「特別視」しちまってるんだ。
特別な自分の気持ちなんて誰にもわからない、日頃から頭が空っぽで脊髄反射で生いるエビスにもそれ以外の10代にわかるものか。と孤立感を深めているんだ。
けどな、オンリーワンかつナンバーワンな悩みを持っている人なんて少数派さ。
だからもう一度あいつらにぶつかってみろよ。
何かあったら、オレが感情を失うまでエビスを締めてやるから、さ?
◆
エビスもタガワも
「「未成年のうちにできちゃった婚で生まれた子供なんてどの家にもいるんだからなにを今さら」」と両断。
「おれは両親がハメちゃった婚 お母さんが24歳だしな」
とはエビス。
ぼくはお父さんが25歳だよ。ぼくが今10歳だから…15歳の時に産まれている」
そう語るのはタガワ
この辺りでは全ては珍しいことではなかったようである。
「ヨウスケはどうなんだ?確か『誕生日が出オチ』だとか言ってたけど?
「ああ、オーバーステイの父さんと日本に住み続けるため母さんがコンドームをつけなかったせいで産まれたんだ」
「」
「だから俺が生まれた時点で俺の役目は終了ってワケだったのさ」
そんな重すぎる出オチのヨウスケと彼らはどんな友人関係を紡いでいけば良いのか。
大きな謎が三人の友人の元に残されたのでした。
はなさないで 十年間の秘密 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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