恋をまもるには
かどの かゆた
恋をまもるには
小学生の頃、好きな男の子がいた。
本当に大好きで、授業中はずっと彼のことを盗み見ていた。
でも、ある日、授業の大縄跳びで引っかかっている彼の姿を見て、急激に心が冷めた。それからは別にどうでも良くなってしまって、今は別の中学になってしまったから、何をしているのかも分からない。
この話をしたら、みんな「そんなつまらないことで好きじゃなくなるなんて」って思うだろう。でもこれは私の心の問題で、自分でさえコントロール出来るわけじゃない。
そう、私だってショックだった。
恋って、こんなにもすぐに冷めるんだ。
自分が、薄情な気がした。
あれ以来、中学3年生の今まで、恋はしていない。良いかも、と思う人を遠ざけてきた。
でもこういうものは、遠ざけるほどやってくるものだったりする。
受験が近づき、塾に通い始めた。
そこで見かける男の子がいる。他校の、小柄な子。線が細くて、肌が白くて、吸い込まれそうな瞳をしていた。
自習室で彼はいつも1人で、問題に行き詰まるとシャープペンシルを口元に当てた。仕草の一つ一つが好ましかった。恋になるかもしれない、と思った。
しかし、私は彼の声を聞いたことがない。自習室は私語厳禁で、普段授業を受ける教室も違っているからだ。
他校の生徒だから、名前も知らない。学校ではどんなふうに過ごしているのか、何が好きで、何を望んでいるのか。何も分からなかった。
ただ、顔が好みなだけで。これは全然、本当の恋とかそういうんじゃなくて。ちょっと良いな、って、それだけで。
「話しかけないの?」
恋バナの時、ちょっと彼のことを話したら、そう言われた。
それは当たり前の発想だった。別に何も言い訳なんてする必要がない。ただ顔が好みなら、そこから話しかけて、内面を知っていけばいいだけだ。
怖い、と思った。
彼の声が、思った感じと違ったらどうしよう。彼の話し方が、性格が、好みじゃなかったら。
それで幻滅して、心が冷めて、そうしたら私のこのときめきも、全て嘘になるのだろうか。
自習室で、ぼーっと考えて、ろくに勉強できなかった。
もう帰ろうと思い、リュックを背負う。すると、口が空いていたようで、床に教科書や筆箱をぶちまけてしまった。
なにしてるんだろう、私。
拾おうとしてしゃがむと、視界の端から誰かの手が入ってきた。
顔を上げると、そこには彼の姿があった。
彼は何か口を開こうとする。
やめて。
はなさないで。
そう思ったけれど、もう遅かった。
彼の声を聞いて、私は。
恋をまもるには かどの かゆた @kudamonogayu01
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