聖母

 目を覚ますと、俺は草原らしき場所にいた。

 俺はどうやら新生児らしい。

 まわりから泣き声や寝息がきこえる。

 新生児でも音はきこえるんだな。


 目は少し見える。ただ首が動かない。

 その後いろいろ試してみて、俺は無力なんだと気づいた。


 こんな感覚は初めてだ。魔王との戦いのあと、すべての力を使い切っていたときでさえ、ここまでの不自由は無かった。


 その事実に、俺は表情筋を目一杯動かし微笑んだ。


 すると、どこからともなく女性の声が聞こえた。


「よしよし、いい子ねぇ。」


 誰だ?

 母親?医師?看護師?助産師?姉?祖母?


「あら、あなたも目覚めたのね。

 私が誰かって?

 私はね、聖母よ。

 あなたたちのような時空や世界を越えて移動する魂たちを、世界を越える負荷に耐えられるようになるまで育てるの。」


 あなたたち?俺以外にも同じ世界に転生するやつがいるのか?


「ええ、あなたたちの世界の死者たちは、あなたが今からあなたが行く世界と、もう1つの世界にしか行けないの。

 だから、あなたの世界で亡くなった者たちの約半数が今から行く世界に行くの。

 でも、あなたのように記憶を持って世界を越えられるのは一握りの子たちだけよ。

 他の子達はむこうの世界の子として育つわ。」


 なるほど、こうして生命は循環しているのか。


「あなたも、生命が世界を越えられるようになるまで、少しゆっくりしていきなさい。」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生した勇者と魔王による新しい日常 猫島フィン @nekosima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ