エピローグ 帰りの車中で

 そして翌朝、列車は7時30分に札幌駅に到着した。

 知床号を後にした彼らは、北海道新幹線のプラットホームに移動した。札幌駅からの新幹線には、停車駅の多いしりべし号と速達タイプの北海号がある。

 ホームでは彼らが乗ろうとする電車がすでに待ち受けていた。H5系であるその車体は、上が緑、下は白、その境目には紫のラインが入っている。

 テッペイ達は8時12分発の北海46号に乗り、その終着駅新函館北斗駅から別の新幹線に乗り換えて東京に向かうことにした。最高速度270km/hを誇る特急列車である。車内に入ると意外と広めなスペースだと感じたようだ。ちなみにこの列車にもシートは2列+3列となっている。

 列車は新函館北斗駅に向かって発車した。そして発車してから30分ほどが経過した時、車内アナウンスが流れ始めた。

『ご乗車ありがとうございます。この列車は北海46号、新函館北斗行きです。途中の停車駅は長万部です。』

 程なくアキラがある提案をする。

「あ、そうだ!俺トランプ持ってきたからみんなでやろうぜ」

「賛成!」とエリが答える。

「お、いいなそれ」テッペイも乗り気なようだ。

 3人は席を向かい合わせて座り、そしてカードを配る。カードは赤の8、9、10、JとダイヤのAだ。最初はババ抜きである。このゲームでは2枚のカードを捨てて1枚だけを引くというルールだ。3人は手札を広げつつ勝負を始めたのだが……結果はアキラの一人負けだった。

「おい、お前なんでババ引かねえんだよ!」

 アキラが文句を言う。

エリは「次はアキラ君から引く番ね!」と言いカードを一枚引いた。カードを引いた後エリが次に引いたのはテッペイである。彼はダイヤのAを引いてしまったらしい。

 そして次はアキラの番だ。アキラもカードを一枚引いた後、エリはババを引いたようだ……。

「あーもう!またババ引いちゃった!」とエリは少し悔しそうだ。

 そして3人はトランプを続けることにした。だがエリが突然「ちょっとトイレ行ってくるね」と言って席を外してしまったためにテッペイは一人残されてしまった。

 アキラと二人で残ることになった。

 手持ちぶさたになったので、とりあえずスマホを手にし、SNSを開くテッペイ。ある投稿を目にした途端にアキラに声を掛ける。

「アキラ! これ見て」

アキラはさもめんどくさそうにテッペイのスマホに目をやる。思わずあっ、という声がアキラから漏れた。

「これって珍獣から出た人じゃね?」

「そう、だね……」

 このときスマホの画面にあったのは、昨日おーろら号から見えたメガネをかけた人物と、珍獣と思しき白いものである。

 あのときはその珍獣が早々に去ってしまい、姿形がよく分からなかっのだが……。スマホの画面に映ったその白いものとメガネの人物は、確かに昨日見た人物達に違いなかった。「こいつが珍獣を……。本当に!?」

 アキラも少し信じられないといった表情である。

 テッペイはそこからスマホの画面を少しスクロールした。

「アキラ!これ見て!!」

 その文章を読んだ2人は思わず声を上げた。

「えっ……!?」

 それを見る限りでは、メガネの人物は潜水艦に乗っており、昨日オホーツク海上に浮上した潜水艦に乗り移り、その後北海道に上陸したようである。

「まさかの、潜水艦……?」

「そんな……」と2人が驚いていると、エリがトイレから戻ってきた。

「あ、2人共なにやってるの?」

「いや……ちょっとSNS見てただけ……」

 2人はそう答えた。そして3人はトランプを再開することにした。その後テッペイがアキラにいう。

「ねえアキラ。今度さ、パレオエクスプレスに乗らない?」

秩父鉄道ちちてつの?」

「うん」

「まじか! 是非乗ろう!!」

 と、アキラが答えると、エリも嬉しそうな声でいった。「私も行きたい!」

 パレオエクスプレスは、秩父地方を走る私鉄である秩父鉄道のSL列車である。

 と、ここでアキラが疑問を口にする。

「てか、なんでパレオなんだ?」

「えー、それはね……」とテッペイが答えようとすると……。

「『パレオエクスプレス』だから!」とエリが先に答える。

「なんでやねん!」思わず関西弁でツッコむアキラ。

「いやー、なんかパレオって響き良くない?」

 確かにその列車名は何処か可愛らしい響きである。

「そろそろ続き言ってもいい?」と、テッペイがアキラに聞く。

「おう」

「話によると、ものすっごい昔にパレオパラドキシアっていう海獣がいたんだって」

「それって恐竜ぽいやつ?」

 と、テッペイの話にエリは興味津々に食いついてくる。「いや、ちょっと違う」とテッペイは答える。「海の恐竜というより、正確には海獣なんだってさ」

「へー、なんか面白いね!」とエリはテンションを上げながら話す。「あれ?てかその海獣ってどうなったの?」

「それはまだわかってないらしいんだよね……」とテッペイは答えた。そして話を続ける……。

「で、そのパレオパラドキシアっていう海獣は、もともとは南海に生息してたんだけど……」

「どっかに行っちゃったの?」

 と、エリがまた質問する。

「どうだろうね……」というテッペイ。するとアキラが話に参加する。

「それってさ、どっかで死んだとかじゃね?」と彼は言う。彼のその言葉にエリが反論する。「死んでたのならなんでわかるの?生きてるかもしれないし!」と言うとテッペイは説明する。

「え?だってさ、秩父の湖とかで見つかるかもしれないだろ」

「なるほど!!」とエリは納得する。そしてテッペイも更にいう。

「じゃあ、次回は秩父の湖で海獣探しだな!」

 そこにアキラは口を挟む。

「え~っ、もう勘弁してくれ! もう珍獣だの海獣だのはこりごりだ……」

「まあまあ、今度さ、一緒に秩父行こうよ」とアキラはエリとテッペイに説得され、行くことにした。

 これをもって次回の鉄道旅の予定は決定と相なったのである。


― 完 ー

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ある鉄ちゃんの生き方 ダイヤのT @adachinoryotsu

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