アウトサイダー

「間に合わないぞぉ」と貴方は道の向こうで手を振った。どうしてそんなに走れるのだろうと、私はへとへとの足を引きずって道を渡った。

「ちょっと休憩にしようよ」

「黄昏に間に合わないじゃないか」

 せっかくここまで来たのに、と貴方は頬を膨らませた。

 私たちは電車で、知らない町へ行った。「高くて見晴らしのいいところ」という曖昧な条件で目的地を決めて、携帯の地図を片手に町並みを歩いたり、走ったりした。

 目的地というのはその町にあった大きめの公園で、そこにはカヌレのような形をした展望台があった。

「もうちょっとだからさ。円墳」

 貴方はそれを「円墳」と表現した。

 私は息を切らしながら頷いて、重たい足を持ち上げた。

 展望台に着いたとき、気付けば辺りはだいぶ暗くなっていた。天辺にのぼるなり、貴方は感嘆の声を上げた。

「あの色が付いた雲がいい感じだね」

 そう言って笑った。

 しばらく二人で空を眺めた。

 夕日が沈む間際になって、貴方は不意にこんなことを言った。

「前までずっと、『群青色』っていうのはこんな空の色だと思ってたんだ」

「紺色のこと?」

「ううん、夕日のオレンジから夜の紺までの、グラデーション。それを全部ひっくるめて、群青なんだと思ってた」

「ぐんじょう」という音の響きがそのようなイメージをもたらしたのだと貴方は説明した。私は次第に夜に覆われていく「群青」色の空を見て、何だかそんな気もしてきた。

「また来ようね」

 そう言って笑う貴方に、私はうん、と答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空が暗くなるまで 道草 @michi-bun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ