第2話

初任給 (しょの②)





公園のトイレから出た俺は、そこから五分足らずの場所にある例のラーメン屋に入った。


自転車を脇に停め、赤いのれんをくぐる。

店内はまだ早い時間だからか、客は誰も居なかった。


いらっしゃい。と店のおばあちゃんが小さいビール用のコップにお冷やを持ってきてくれた。

間髪入れず俺はカツ丼を注文した。


店は四人掛けテーブルが三つあるだけの小さな店だ。

しかも、そのうちのひとつには水槽が置いてあり、実質二卓しかない。

これじゃ流行らないのも無理はないと思った。


待つこと五分。

すぐにカツ丼がやって来た。

カツはやや小振りだがそれなりに厚みがある。

玉子はやや固めに煮てあった。

一番上には数粒のグリーンピース…。

いかにもラーメン屋で出てくるカツ丼だった。


歯で割り箸を割り、カツを一口…。


「うんめぇー!」


甘辛の出汁が、衣にしみしみでまいうー。

カツもしっかり火が通っていてなかなかジューシー。


噛んでる途中肉と衣が分離する。

俺は箸で分離したカツを衣に挟み、一体化させて頬張った。

合間に白菜の糠漬けを食う。

きっとおばあちゃんの自家製なのだろう。


あっと言う間に箸が進み、俺は最後にひと切れ残しといたカツで、丼の内側についてる飯粒を集めた。

そしてそれをカツと一緒に掻っ込んだ。


ンマかった…。

ごちそうさま。

ばあちゃん、また来ます…。

恐らく、自分の金で食べたカツ丼だからだろう。

今まで食べたカツ丼で一番うまかった。


さて…。

ここからがメインイベント。

俺はラーメン屋の二軒隣にある小さな本屋へ向かった。

エロ本を買うために…。


しかし、ここで予期せぬ事が起こった。


「いらっしゃいませ」


店番に、若いおにゃの子がいた……………………。


いつもこの本屋は、七十に手が届きそうな老夫婦が店番をしてるのだが、その日は何故か若いおにゃの子が店番をしていた。


そもそも俺が何故その本屋を選んだかと言うと、店番が老夫婦だったからだ。

何故老夫婦の店を選んだかと言うと…。


ホラ、やっぱりエッチな本ってレジ出しにくいじゃん?

恥ずかしいし…。

んなモン、若いおにゃの子がいる店のレジになんか出せないじゃん?

その点老人なら、もうすっかり枯れちゃってるから(失礼!)あんま気にもしなそうじゃん?

だからこの店を選んだのに…。


俺はさりげなくレジのおにゃの子の顔を見た。


可愛かった………。





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いや、買えねぇーだろ!

こんな可愛いおにゃの子に、アンダーヘアー付きのエロ本レジに出せねぇーだろ!

その子は見た感じ俺と同世代と言った雰囲気だった。


俺はエロ本コーナーを通過し、漫画雑誌のコーナーに向かった。

そして、(お目当ての雑誌を探しに来たものの残念ながらこの店には置いていないのか。

なら仕方ない、帰るか…)みたいな設定の芝居を見事に演じ切り、店を後にした。




「クソッ! なんでやねん!」


いつもはじいさんばあさんが店番をしてるのに、よりにもよって何故こんな日に孫娘に店番なんかさせるのか!


ハッ! もしかしたら、あのじいさんばあさんは歳だから、きっと病院にお薬をもらいに行ってるに違いない。

優しい孫娘はきっと、そんなじいさんばあさんの代わりに店番をしてあげたのだ。

だったらもう、既に老夫婦は病院から帰宅して、再び店番をしてるかも知れない!



バカな俺は、一旦帰宅したにも関わらず、再び会社近くのその本屋までエロ本を買いに戻った。

だが…。


さすが老夫婦の店。

時間は夕方六時を過ぎたばかりだと言うのに、もうシャッターを降ろしていた。


仕方がない。明日改めて買いに来るか…。

俺は意気消沈して再び家路に向かった。

そして、そんな意気消沈野郎に更なる悲劇が!



翌日、本屋は定休日でシャッターは開いておらず、俺はそのまた翌日に本屋に行ったのだが…。






本は既に売り切れてた…。











































さらば青春の光

あの頃俺とお前は

傷つくのも恐れずに

ただ走り続けていた




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初任給 爽太郎 @soso-sotaro1207

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