第23話 不思議回廊エレデからの脱出

 ピピピピピピピ

 聞きなれたアラーム音。

 目をましたりおが、いつものように、手だけのばばしてボタンを止める。


「夢?」と、りおは起き上がった。

 デジタル時計をわしづかみにする。

 そこには、7時10分、そして、7月10日の文字がかんでいた。

「ああ、なんだ。やっぱり夢か」

 でもなんだか、とっても大切な夢を、見たような気がする。


 みーくんは、いつものとおりそこにいた。

「みーくん」

 もちろん、みーくんは、返事をしない。

 少しすり切れたタオル地の水色に生気はなく、物体として、みーくんはそこにいた。

 そうして当然、ゆたぽんはいない。

「さみし…」

 りおは、みーくんをきしめ、顔をうずめた。


「みーくん、たくさん、ありがとう」


 りおは、いつも通りの時間に家を出た。

 グレーの建物はどこにもない。

 夢なのだから当たり前なのだが、りおは、ないことの方を不思議ふしぎに思うのだ。



 夢とはちがい、りおは、遅刻ちこくすることもなく森駅に着いた。

 そこには、れんれんの姿もぼぼちゃんの姿もない。

 チリチリっとむねいたむ。

 ギリギリまで待って、りおは、ひとりで学校に向かった。


 辛くないわけがない。

 だけど、メロウが自分をみにくいと思い込んでいたように、自分がきらわれっ子だなんて、思い込まなくていいの。

 ひどいことをしたならあやまりたい。でも、分からないなら仕方しかたがない。だって、れんれんも事情じじょうかかえているかもしれないから。


 私は、れんれんが好きなんだよって伝わるように、おはようって挨拶あいさつだけはしよう。それ以外は、そっとしておくの。れんれんの事情が変わったら、また、元通もととおりにもどるかもしれないし、このままかもしれない。でも、それでもいい。


 大好きなレヴァンとはなれて行ったメロウ。

 それを見送ったレヴァン。

 まよってもいい。なやんでもいい。どうすることもできない時は、「助けて」って言う。だれも助けてくれなくても、言い続ける。


 世界は美しいの。でもいつか、ニュクスの星空も、金の粉が舞う夕日も、命のときとともに失う。そう、人との別れは、いやおうがないから。愛する家族と、突然の別れを迎える人もいるから。


 正しさなんてわからない。だったら、一生懸命生きるしかない。

 皆、何かを抱えて生きている。



 ◆◆◆


 学校に着くと、りおは靴箱に向かった。上靴にえると、ふと、れんれんの靴箱が目に入る。そこには、やけに目立つように、白い上履うわばきが入っているのだ。

「まだ来てないなんて事、ある?」

 りおは、気になって、れんれんの教室に向かった。

 入口近くにいた女の子に聞いてみる。

「あの、れんれんいますか?」

「レイン?」

 りおは、一瞬いっしゅんドキリとする。

 ほとんどの子は、れんれんをれんれんとぶ。

 だけど、れんれんの本名は、そう、レイン。

 りおの脳裏のうりに、クリスタルレインの姿がかんで、しずかに消えた。


「ねえ、レイン知ってる?」と、女の子が近くの男の子に聞いている。

挟上はさうえなら、今日は休みだぜ」

 女の子は、りおに向き直って「休んでるみたいよ」と、言った。


 なぜだか、りおは、頭が真っ白になるのだ。


挟上はさうえレインは休んでいる』


 レイン、レイン、レイン…。


 やけに静かだった。

 どこを通って自分の教室まで来たのか分からない。

 辺りを見回して、りおは、何とも言えない違和感いわかんを感じていた。

 始業のベルはまだっていないのに、廊下ろうかに誰も出ていないのだ。

「学校が、こんなに静かだなんて」


(ノッシッシ)


 りおは、後ろのドアから入って、一番奥の、一番後ろの自分の席に着く。

 全員が、もう着席していた。ひなのの席は、ぽっかりと空いている。


(ノッシッシ。ノッシッシ。)


 担任の岡林おかばやし先生は、すでに教壇きょうだんに立っていた。何か書類に目を通しながら、生徒名簿せいとめいぼらし合わせている。


(ノッシッシ。ノッシッシ。ノッシッシ。)


 本鈴ほんれいがなると、岡林先生は「はい!おはようございます。」とあらためてあいさつした。

 そして、出席を取り始める。順々に各自返事を返していた。いつもの、普通ふつう光景こうけい

 だが、何かが、不自然ふしぜんだ。


(ノッシッシ。ノッシッシ。ノッシッシ。ノッシッシ。)


「では、ホームルームを始めます。」

 そう言って岡林先生が黒板にり返った時、りおは、思わず声を上げそうになった。

 ペラペラなのだ。先生が、トランプみたいにあつみのない、ぺらぺらになっていたのだ。


 ノッシッシ――。


 呆然ぼうぜんとするりおの顔に、急にかげが差す。

りおは、ゆっくり窓に目をやった。

 窓の外に、ぞうの足のようなものがある。


 ドッシーン。


 なにかの衝撃しょうげきに体がれる。あっけにとられながら、りおは、窓の外のそれにくぎ付けになった。

 見覚えのあるグレーの建物が、教室の窓という窓いっぱいに広がっているのだ。


「エレデ?」


 ポケットから、お箸虫はしむしが顔を出す。

 りおは、思わず大声をあげた。


「うそでしょ!!!」


 同級生たちが一斉いっせいに振り返る。

 彼らは、上手にねじられたトランプのように、美しく重なり合っていた。

 マジシャンの手の中で、今まさに、高く飛びださんとするかのように、彼らはそのゆがみを深めるのだ。


 この後、何が起こるか、何気なにげ想像そうぞうがつく。

 一番後ろのりおには、あとがないことはわかっていた。

 だが、足が勝手に、後ろに向かって動く。


 トランプの彼らは顔を歪め、ギュイーンとばかりに、さらに弓なりになるのだ。


 一歩、また一歩。りおは、息をひそめて後ずさった。


 そして、まずいことに、その又一歩を、かべに向かってみ出してしまう。


 ダンッッ!!!!


「  ―――   ひっ!」



                                完




    ★―――――――――――――――――――――――――――★


 これが、映画だったら、エンディングは、四方八方に飛び出す同級生達や、逃げ惑うりおを、スローモーションで描いてですね。エンディング曲と共にテロップを流す、なんてことをやりたいわー、と思うのですが、如何せん、ただの妄想です(笑)


 本当にまあ文章力もなくて(涙)、意味が❓な部分も多かったはずなのに、読んでくださった方には、ただただ感謝しかありません。

 

 ※続きがあるようなラストにしてありますが、特にうけてないので、大丈夫です。続きはないです。

 本当なら中編を書けるような腕はないので、もう、やれやれですよ、終われて、とにかく、ほっとしています。


             めいっぱいの感謝を込めて、ありがとうございました。



  

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<完結>精霊と回廊の城エレデの魔法世界 桃福 もも @momochoba

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