はなさないで!

みこ

はなさないで!

「はなさないで!」


「!?」




 ルールイエダンジョン第16階層。

 第16階層なんて所は、特別な場所じゃない。

 未開の地でもなければ、特殊デバフ階層でもない。隠しダンジョンもない。


 俺達パーティーにとっては、特に何ということはない。

 そのはずだった。


 そんな奢りからだろうか。


 ダンジョン第16階層の最奥。

 巨大クラゲを倒した後に出てきた、巨大な宝箱に飛びついたのは、大きな失敗だった。


 3人パーティー。

 剣士はクラゲとの戦闘中に負傷で気を失った。

 なんとか勝ち、残ったのは、盗賊のこの俺と、魔術師だ。


 俺が宝箱に飛びついた時、辛うじて立っていた魔術師が、魔術書を手にしながらこう言った。

「大変だ!これ、罠だよ!」


 俺は既に、宝箱に手をかけていた。

 そしてその、古めかしい金属製の宝箱の蓋を。ここに海賊でも眠っているんじゃないかって思ってしまいそうなその箱の蓋を。

 丁度持ち上げようとしていたところだった。


 このタイプの宝箱に罠?

 一般的には、罠が張られていないタイプの宝箱だ。このタイプは、型が古すぎて、罠を張りづらい。

 これ自体が魔物の場合は別だが、数箇所のチェックの末、この箱自体が魔物である可能性は限りなく低い。


「やばい……!来たよ!」


 そして、魔術師はこう言ったのだ。


「はなさないで!」


「!?」


 話さないで!?

 それとも、離さないでか!?


 その瞬間、俺は宝箱から手を退けることも、言葉を発することも出来なくなってしまった。

 魔術師が発見した罠の正体がわからないからだ。


 一体どっちだ?

 どうするとヤバい?


 魔術師は、それ以上、何も言わなかった。


 どさり、と音がして、魔術師が倒れたと推測できた。


 考えろ、考えるんだ。


 魔術師は、『来た』と言った。

 何が?

 呪いが?

 それとも魔物か?


 魔物が音もなく侵入し、魔術師がそれに対応して倒されたという事も考えられる。

 けど待て。


 魔術師は、鞄やら杖やら硬いものをたくさん持っている。

 それに加えて、このダンジョンの床はほとんどが石だ。

 音もなく動かないなんて事、可能だろうか。

 後ろを見ようにも、大きな宝箱を両手で挟んでしまっている。


 なんとか後ろが見えればいいのだが。


 手を離さないように、俺はぐぐいっと首を後ろへ曲げた。


 あ、痛ってぇ!痛、痛、痛、痛!首!痛い!!捻った!捻ったぞ!?


 けど、努力の結果、魔術師が一人でうつ伏せに倒れているらしきのが、分かった。


 考えろ、考えるんだ。


 天井から、冷たい水が伝い落ち、水溜りが出来ているのが見えた。

 石の床の冷たさが身体に伝わる。

 余りここにいると、身体が冷えて風邪でも引いてしまいそうだ。


 魔術師は、何が起こって倒れた?


 よし、閃いた!


 これだああああああああ!!




 結果、俺の予想は的中した。


『来た』というのは、部屋にかけられた呪いの事だった。

 人間の話す声に反応して、呪いがかけられるのだ。

 魔術師は、「話さないで!」と発声した瞬間、呪いにやられ、倒れてしまったのだ。


 やはり、箱自体に仕掛けられた罠ではなかった。


 人の声に反応するとしても、間違って物音に反応しないとも限らない。

 俺はできるだけ音を出さないよう気をつけながら、辛うじて死んでいない仲間二人を引きずり、ダンジョンからの脱出を試みたのだった。

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はなさないで! みこ @mikoto_chan

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