第13話

きっと、僕は殺される。

恭子は僕との関係性をあくまでも兄弟という形で終わらせるために、僕を殺すのだろう。



恭子は布団に座る僕の所までゆらゆらと歩き

「お兄ちゃん…。ごめんね。

こうするしかなかったの。」と呟いた。


「分かってる。恭子のことはなんでも。」


そう返し、僕は恭子の手に持つ包丁を手に取り自分の胸に突き刺した。


恭子を殺人鬼にする訳にはいかない。

最後に兄として妹にできることを全うした。


強い痛みが僕を襲う。

でもそんなことはどうでもいい。

恭子に向けた僕のくだらない愛のせいで

こうして恭子がおかしくなってしまったのだから。痛いのは恭子の心のほうだ。


「苦しい思いさせてごめんね。」


何度か胸を刺した。呼吸が乱れてくる。

きっともう。

長くは

生きられない。



僕がぼくを刺す手を止めたのは

恭子の涙だった。


「お兄ちゃん、死んじゃやだ…。」

涙で顔がぐちゃぐちゃになっている。


「それは、約束できないかも」


「やだ…。だめだよ。」


「…。」


「ずっと…。」

「ずっと傍にいるって約束したじゃん」


誓った。

僕が遊園地で刺された、あの日。

薄暗い病院で、僕と恭子は誓いを交わした。

「ずっと恭子の傍にいる」と。

走馬灯のように過去の思い出が蘇る。



だが、残された時間はもう僅かだ。


「恭子今まで苦しい思いさせてごめんね。

独りよがりな気持ちで苦しめて。

きっと辛い思いをさせてしまったよな。」


「僕たちの関係性が兄弟じゃないと言う

直哉の言葉にきっと恭子は動揺したと思うんだ。」


「恭子が苦しんでいる間、僕は兄弟じゃなかったこと、僕が男で、恭子が女で、それぞれ血の繋がりのない人間だったということに、簡単に喜んではいけないことだと分かっていながらも、少し喜んでしまった自分がいるんだ。」


喉がやけに痛い。

どうやら吐血しているみたいで、

血の味が混じる。


僕は今にも消えてしまいそうな恭子の目を見ながら続ける。


「恭子が生まれた日から、今日の最後まで

兄妹として、恭子がいたいと選択したのなら、僕はそれを命を懸けて、証明する。」


僕は、震える恭子の体を引き寄せて

最後に唇を重ねた。

恭子の口から僕の吐血した血が流れる。



同じ血を交わして、兄弟となるなら──。



「やっと兄弟になれたね。恭子。」


僕は貴方であなたは私。

いかなる時も、僕は恭子の傍にいる。

恭子から流れる僕の血が

その証明であり、

揺るぎない兄弟の形なのだから。



恭子は、僕の体を抱き寄せ、

死んじゃやだと泣きじゃくった。


「私がお兄ちゃんを殺したんだ」


違うそうじゃない。僕が僕を殺したんだ。

恭子を殺人鬼にしないために。


だが、恭子には届かない。

既に使い物にならない体と、

声にならない言葉。

死を悟る。


死にゆく僕の最後には、

「やっと兄妹になれたね、お兄ちゃん。」

と笑う恭子の姿がうつっていた。


𝑒𝑛𝑑

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