第7話 部隊編成
「…報告は以上です」
白で統一された小綺麗な部屋―――大都市キースの中央に位置する警察署、プラターの中にある一つの部屋、副署長室では、ダンジョン封印及び監視の役を持つリドバーの警察官ニックが、プラター副署長のカエデに報告をしていた。
報告内容は、以前ダンジョンで起きた『ダンジョン
ニックは事件の当事者の一人として、事件の全容を離していた。
「なるほど…ハイウルヘンにゴーレム、ゴブリンロードが出現、それぞれ新人警察官が撃破」
「信じられない話かもしれませんが、全て事実です。現に私含めて多くの警察官等が確認しております」
ハイウルヘン、ゴーレム、ゴブリンロード。
これらは全て中層から出てくる魔物だ。
腕に覚えのある戦士達でさえ苦戦は免れないし、下手したら命を落とす。
そんな強者相手に新人警察官が勝利を収める。
長い歴史を持つキース警察の過去にも無い事例だ。
ニックが嘘は吐いていない、とばかりに食い気味に答える。
カエデはニックの勢いに驚くも、すぐに笑い返す。
「疑ってなどいませんよ。それに、倒した警察官はいずれも私が注目していた者達なので、なおさらです」
「注目していた?」
「えぇ、エルフの彼女は今回の首席ですし、獣人の彼は推薦枠でしたので」
「では…ツカサ君達は?」
「エルさんはあの歳で治属性の四階級魔法を習得、ニッシュさんは詳しいことは言えませんが、特別な力を持っていることは知っていましたし」
全て予想通りだとばかりに話すカエデに、ニックは感服した。
(全てカエデ副署長の思い通り…さすが副署長。あの数の警察官の中から有能な者達の目星は既につけていたのか)
ここまでにこやかな笑みを浮かべていたカエデだが、ふと顔つきが真剣な顔になった。
「最後に、ニックさん。もう一回確認させてください…ツカサさんがスキルを使った瞬間、剣に炎属性の三階級魔法を纏わせた…これは本当ですね?」
「は、はい」
いきなり変わった雰囲気に戸惑いながらも、ニックはカエデの問い掛けに肯定する。
「そうですか…これは、凄いことになりましたよ」
「凄いこと?どういうことでしょうか?」
「ツカサさんのスキル【
「他の剣?」
「【
「ま、まってください!それはつまりツカサ君は…っ!」
「えぇ、七属性を使うことができる」
「っ!!」
魔法の属性は、種族によって覚えやすい、覚えにくい属性がわかれている。
例えば、妖精族は治属性を覚えやすく、その代わりに毒属性を覚えにくい。
獣人族は風属性を覚えやすく、炎属性を覚えにくい。
「彼と私達の種族、ヒューマンはそもそも魔法を入手しにくい傾向があり、覚えることが出来たとしても、炎、水、風、土の四属性…しかし、ツカサさんは」
「スキルだけど、七つ全てを覚えている…?」
「スキル名とニックさんの見たことから、そのように推測できます」
ツカサのスキル名はいずれも、三階級魔法の魔法と同じ名前だ。
そしてニックが見た、【
「このキース警察に七属性全てを覚えているのは、ツカサさん以外にはただ一人…それほどまでに、彼の力は希少なのです。そんな彼を一般枠として使うのは非常に惜しい」
「では、どういった待遇を?」
「それはですね―――」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふわぁ…」
ベテラン警察官達から期待をされている当の本人は、そんなこと露知らずに呑気に欠伸をしていた。
「お兄、気抜きすぎ」
プラターの回廊を歩きながら目元を擦り涙を拭うツカサに、エルはジト目を送りながら注意した。
「いやでもよぉ、昨日あんなことがあったのにさぁ…」
あの後俺達はダンジョンから帰還して、リドバーに勤務している医師の診察と治療を受けた。
幸いなことに、みんな目立った怪我はなく、これと言って特別な手術は受けなかった。
カエデさんから解散の話を受け、魔石を燃料にしてつくられた魔導バスに乗りキースに戻された。
ニックさんにお礼を伝えようと思ったが、カエデさんと一緒に一足先に戻っていったため、会うことが出来なかった。
「いきなり呼び出しって…俺まだ眠ってたんだけど」
プラターの宿直棟で一晩眠った俺達は、早朝から呼び出しを受けていた。
文句を垂れる俺にエルは呆れた目で、話しかけてきた。
「いっとくけど、これから毎日このくらいには起きることになるからね、お兄」
「えっ?」
「その反応、やっぱり知らないみたい…もう私達警察官なんだから、これからずっとこの生活だよ」
「う、嘘だろ…っ!」
衝撃の事実…!
ただでさえ朝が弱い俺にとっては死活問題!
驚きのあまり固まってしまった俺に、エルは視線を逸らす。
「はぁ、なんでこんなに馬鹿なんだろう、うちのお兄は…昨日はあんなにかっこよかったのにさ」
「?エル、なんか言ったか?」
「な、なんでも!?」
ぼそぼそと何かを呟いているエルにどうしたのかと聞くも、もの凄い剣幕で否定された。
何をそんなに焦っているんだ…?
「そ、それより!目的地ってそろそろだよね?」
「あ、あぁ、その筈だ」
何故か顔を赤らめているエルの問い掛けに、頷き通路の右を曲がる。
「おっ、ここじゃないか?」
「『小会議室1』…そうみたいだね」
「さぁて、中には何が…」
妙にワクワクしながら扉の先を確認する。
「おい、何とか言えよ。クソエルフ」
「………」
「シカトしてんじゃねぇぞ、このアマ!」
「ひ、ひぃ!!」
金髪の
狼人の青年はその態度に余計腹を立てて、さらに文句をぶつける。
その罵倒に委縮してしまった黒髪のヒューマンが、情けない悲鳴を上げる。
「「いや、何この状況?」」
俺とエルは一言一句間違えずに同じ感想がでた。
…てか。
「あそこにいるの…ニッシュじゃない?」
「つ、ツカサ君…助けて……」
青い顔をして、こちらに助けを求めてくるニッシュの声で気付いたらしい狼人の青年が視線をこちらに向けてきた。
「あぁ?何だテメェら…あぁ、あのジジイが言っていた残りの二人か」
「じ、ジジイ?」
「老いぼれの副署長サマに決まってんだろ?」
その物言いに、少し頭にカチンときた。
個人的に尊敬できる警察官の一人、カエデさんを馬鹿にされて黙っていられるほど、俺は忍耐強くない。
「ちょっと、その言い方はないんじゃないか?」
「ハッ!こんな雑魚を首席扱いする奴を、老いぼれじゃなきゃ何て表現するんだよ?」
「首席?」
「あぁ?知らねえとは言わせねぇぞ?クソダリィ新人警察官の就任式とやらで、表彰されてだろ」
「あ、あぁ…そうだったな?」
ヤバい…思い出せない。
あの時は浮かれすぎていて、ほとんど覚えていない。
それと、後ろからのエルの眼差しが痛い…。
「あなたに文句を言われる筋合いはありません」
「へっ?」
凛とした鈴のような声色が、部屋に響き渡る。
声の出所はエルフの少女、狼人の青年は漸く話したかとばかりに詰め寄る。
「やっと喋ったか、クソエルフ」
「私はキースの試験で一番の成績を取ったから、首席の座を手にしただけです」
「一番の成績だぁ?実技部門は俺が一番だったはずだがなぁ」
「推薦枠でポイントが増加されたから取れただけでは?」
(めっちゃ煽り合うじゃん…)
どちらも譲らずに口論する二人の姿に、エルは心の中でツッコミをいれる。
(ニッシュなんて小鹿みたいに震えてるし…誰かこの二人の争いを止めて―――)
「はい、ストップ―!そこまでー!!」
(―――でもお兄はマズイかも!)
喧嘩の仲裁役を求めたエルだが、その役は最も担当してはいけない人物になったことに悲鳴を上げた。
二人の間に両手を入れ、割り込むツカサに狼人の青年は、鬼のような目をして睨む。
「なんだよテメェ、さっきからふざけてんのか?」
「あなた、邪魔です」
(もう既に駄目そうなんだけど…)
「喧嘩をしている君達には言われたくない!いいか、二人とも。よく聞け!」
「「……」」
勢いよく声を飛ばすツカサに、二人は渋々ながら話を聞こうとする。
「こうやっていざこざを起こした時は…お互いに謝るんだ!」
「なめんな」
「馬鹿にしてます?」
(やっぱり駄目だったー!!一瞬でも行けるかな思った私が馬鹿だった)
よりカオスになった部屋の中で、扉が突如開いた。
「皆さん、揃っていますね」
「あっ、カエデさん!」
待望の人物が漸く入って来たことで、エルフの少女は姿勢を正し、狼人の青年は突っかかっていった。
「オイ、ジジイ。こんなとこに呼び出しておいて何の用だ」
「ジジイではありませんよ、ガーディンさん」
「気安く名前を呼ぶな!」
狼人の青年―――ガーディンの無礼な物言いにもカエデは笑みを崩さずに、優しく注意したが、ガーディはより怒り狂った。
「カエデ副署長、そこの狼人ではありませんが説明を求めます。いきなりこのような者達に絡まれて、とても不快です」
「そんなこと言わないでください、グレイシャさん。これから共に業務に励む仲間ですので」
エルフの少女―――グレイシャは無表情でカエデに真意を問いただす。
…ってか。
「あの、今『これから共に業務に励む仲間』って…」
「言葉の通りですよ、エルさん。皆さんはこれから、特殊部隊『8010番隊』のメンバーとして活動してもらいます」
「えっ」
エルは部屋の中にいる四人を見渡す。
カエデの話を聞いた瞬間、『ふざけんな!』と再び突っかかる怒りっぽい狼人の青年のガーディン。
無表情だった顔を少し歪ませたエルフの少女のグレイシャ。
『何でさっき失敗したんだろう?』と、二人が怒こった理由が本気で分からないツカサ。
『こ、こわい…もう部屋に帰りたい…』と部屋の隅っこで縮こまるニッシュ。
「…いや、無理では?」
部隊を組む前から、メンバーの相性の悪さにエルはぼやかずにはいられなかった。
異世界警察 失われた人生を オク @oku0503
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