第11話 命をチップに賭けをしよう。単純に赤か黒か賭けるようなそんなギャンブルだ

 僕はリトの手を引いて司祭のいる部屋へ向かう。魔道具を回収して僕らの仕事は終わりだ。セルベリアさんには司祭を殺す為に一つ依頼をいている。僕の想像が正しければ司祭は信者とアルコスを失っても僕らへの勝算を持っているハズだ。

 

 ギィと開いた先……そこはガラス張りの床。部屋の中心に司祭が寿命を吸って偽りの奇跡を起こす杖型の魔道具。パラセルネ・シルバーを自分の力の象徴のようにこちらに向けて待っている。

 表情は余裕だ。それを見て、リトが飛び込んだ。手の中に隠し持っていたナイフを司祭に向けたが、司祭の目の前で止まる。

 

「ここ、神の間では殺生はできませんよ?」

「…………」

「リト、気をつけてこの床も魔道具だ」

「そうです。さすがはカンタービレ。魔道具協会の犬ですね」

「最初から僕らの事、知ってたんですね? 大神官って方はどこですか?」

 

 僕は大神官が持っていると思っていたパラセルネ・シルバーを司祭が持っている。どういう事だというのが僕の疑問。僕の心でも読んだのかその答えを司祭は語ってくれた。

 

「大神官。いいえ、この世に現臨ならされた女神。ユナ様の手を煩わせるわけには行きませんから、ユナ様の代わりに私があなた達背信者を葬って差し上げましょう! 我が転生教団の信徒達を良くもやってくれましたね?」

 

 この魔道具の中で殺生はできない。同じく司祭も僕らに危害を同じく加える事はできない筈だ。だとすれば、司祭が僕らに何かができるとすれば、それは魔道具の力だ。

 

ノルン・ジャッジ運命の判決を行いましょう」

「ノルン・ジャッジ?」

 

 僕がそう聞き返すと、司祭は嬉しそうにパラセルネ・シルバーを掲げて僕らに説明を始めた。

 

「この奇跡を起こす杖。これには選定者を選ぶ力が宿っています! お互いの命。寿命をかけて選定をしていただくのです。どうです? 貴方達がこの杖に選ばれた者であれば私をこの神の間でも天に返す事ができますが? やりますか?」

 

 ……これは十中八九罠だ。司祭は僕らは確実にここで殺す事ができる自信があるんだろう。だから僕は……この勝負を受ける事にした。

 

「条件がある。僕と、彼女の二人がかりだ!」

「良いでしょう。お若いお二人と私では……私に万に一つも勝ち目はありませんが、私は大神官に選ばれた者。きっと生き残ってみせます!」


(ふふっ、信者達から集めた寿命は総計250年はあるでしょう。あなた方二人の寿命を合わせても120年かそこらです。聖騎士団がくる前に片してしまいましょうか?)

 

「分かった。その勝負受ける。まずは彼女がお前の相手だ」

「嘆かわしい。いくらで買われたのか知りませんが、奴隷の少女を私にぶつけ、貴方は確実に勝つ算段ですか? そこの黒髪の少女? 私が貴女を助けてあげましょうか? 転生教団の信徒になるのであれば、願いをなんでも一つ叶えてあげましょう!」

「分かった。お前を殺す事を願う」

「よく分かりました。調教がよくできた事です。交渉決裂ですね。ではさっさとノルン・ジャッジを始めましょうか? この選定の杖にノルン・ジャッジと言って私と貴女の前に起きます。そして私の方に倒れれば私の寿命が、貴女の方に倒れれば貴女の寿命がなくなります。最初はそうですね。5年でどうですか?」

「分かった」

「では貴女から」

 

 リトはパラセルネ・シルバーを持つと、「ノルン・ジャッジ」と一言。そしてパラセルネ・シルバーは司祭の側に転がった。

 

「おぉおお、私の寿命が5年も奪われてしまいました。困りましたね。では私の番です。ノルン・ジャッジ」

 

 なんと、次も司祭の側に転がった。これにはイカサマができないという事なのか? 次にリトが持って、再びノルン・ジャッジ。

 

 次はリト側に、そして司祭の選定は司祭側にそんな繰り返しを六回くらい続けた。リトは十年、司祭は二十年の寿命を失った時、司祭は僕らにこう言った。

 

「どうです? 寿命のレートを上げませんか? もはや私は二十年も寿命を失いました。さすがにあとどのくらい時間が残っているのか分かりませんが、早く終わらせませんか?」

 

 本来であれば乗るべきではないこんなイかれたゲーム。それに僕は条件をつけた。

 

「僕らは負けていない。このままやれば勝てる自信すらあるよ。だからもし、司祭が寿命のレートを上げたいというのに僕らが乗る場合。僕らも僕らのタイミングでレートを上げさせてもらう」

「……っ! いぃでしょう! 受けます。レートは倍の10歳です」

 

(この奴隷の少女に一気に寿命を使わせるという事ですか……実に嘆かわしい。私に勝つなんて不可能なのに、すぐに同じところに送って差し上げましょう)


「ノルン・ジャッジ」

 

 リトの方に倒れるパラセルネ・シルバー。今までの貯金がプラマイゼロになった。そして司祭のノルンジャッジ。これもまたリトの方に倒れる。


「ノルン・ジャッジ」

 

 司祭側に倒れる。

 

「ではノルン・ジャッジ」

 

 再びリトの方に倒れる。40歳の寿命を失っても全く興味なさそうに再びパラセルネ・シルバーを拾って、「ノルン・ジャッジ」これは司祭の方に倒れた。ようやく司祭の寿命を十年奪ったわけだけど、司祭は何歳だ? 40歳? 行ってても50歳くらいだろう。本来であれば大往生と言ってもおかしくない年齢なのに余裕の表情だ。

 

「ノルン・ジャッジです! おぉ! 神はなんという試練をお与えになるのか!」

 

 再び司祭に倒れるパラセルネ・シルバー。司祭の寿命を五十年も削ったのに、司祭はいまだに健在。ここでリトがチラリと僕をみる。これは今仕掛けどころだというんだろう。

 僕は手を挙げた。

 

「カンタービレの少年。レートを上げるんですか?」

「えぇ、レートを上げます。50年!」

「ご、50年……そんな寿命の上げ方、下手すれば貴方も死んでしまいますよ?」

「逆に司祭はあと一回くらいで死ぬんじゃないですか? 安い話ですよ。こっちはリトが死んでも僕が一回は死なないで済む。三回中、一回でも司祭の50年を奪えればそれでいい」

「……なるほど。考えましたね」


(ははははは! 本当にまだまだ子供ですね。愚かの極みです。しかし20年、多くても30年で勝負を仕掛けてくると思ってましたが、50年ですか……相当今までに貯めた寿命を使う事になりますね)


「受けないとは言わせませんよ?」

「良いでしょう。私も神に仕える者。受けましょう。では貴女の番ですね?」

「うん、ノルン・ジャッジ!」

 

 パラセルネ・シルバーは司祭に向いた! 100歳の寿命を奪った。これはオーバーキルのハズだ……が、司祭は笑顔のまま僕らの前に立っていた。

 

「どうしました? 何か驚いた事でもありますか? では私の番です。ノルン・ジャッジ!」

 

 この時、司祭が嗤った。パラセルネ・シルバーは無常にもリトの方を向いているのだ。これでリトは50年の寿命を失った。リトは驚いたような顔をして動かない。リトの年齢と合わせて100年以上の寿命の消費。

 

「さぁ、次はカンタービレの少年の番ですか? 立ち往生とは素晴らしい。その少女は剥製にして飾って差し上げましょう。神に背いた少女として! ははははははは!」

「次はリトの番」

「!!!!!! なっ! 何故?」

 

 司祭が驚くのも無理はない。司祭はパラセルネ・シルバーの力を使って多くの寿命を自らに取り込んだんだろう。そんな事はハナから僕の方も気づいていたさ。ここは司祭の最強の狩り場だったんだろう。

 

「司祭、何か驚いた事でもあるんですか? リトの番ですよね? さぁ、リト」

「うん。ノルン・ジャッジ!」

 

 再びリトの側に転がるパラセルネ・シルバー。それをリトは拾って司祭に渡す。

 

「まさか、貴女は私と同じ?」

「司祭、早くしてください」

「くっ……ノルン・ジャッジ……あっ!!」

 

 司祭の側にパラセルネ・シルバーは倒れ、司祭は150年の寿命を失った。それでもまた司祭は余裕を持っている。僕はここで司祭に尋ねた。

 

「司祭、もう一度聞きます。ユナという人物は誰で、今どこにいるんですか?」

「ユナ様の行方は……わかりません。そ、それよりこの少女は何者なんですか……何故?」

「教える義理はありません。知りたければ、レートをさらに4倍にあげる事に承諾してください」

「よ、4倍! 200歳……ダメだ……そんなレートは乗れない……」

 

 司祭が慌て出したところで、リトが笑い出した。今まで僕はリトのこんな顔を見たことがない。

 

「ふふっ、ふふふふふ! あっはっはっは! もういい。アルケー。これで分かった。この男の寿命はもう200年ない。こんな茶番はどうでもいい。もう変身を解くとしよう」

 

 そう、リトに思えた彼女は変身魔法でリトの姿に変わっていたエルフのセルベリアさん。エルフには寿命は存在しない。殺されれば死ぬらしいけど、老衰のような概念はないらしい。故に、パラセルネ・シルバーの魔道具がなんの効果もない種族なんだ。

 要するに、司祭は一人で寿命を使い続けていた。セルベリアさんはパラセルネ・シルバーを司祭に手渡しする。

 

「振れよ。司祭。私に何度でも向ければいい。百回の内一回でもお前に向けばそれでいい」

「い、インチキだ! こんなのはインチキだ! 神に仇なす悪魔達め! このノルン・ジャッジはノーカンだ」

「司祭、僕らはそれでも良いんですけど、魔道具の事、あまり舐めない方がいいですよ。それも特級魔道具だ。パラセルネ・シルバーはノルン・ジャッジ。寿命集めはどちらかが果てるまで終わりません。もし司祭が振らないというのであれば必然的にセルベリアさんが振るだけです。セルベリアさん、どうぞ!」

「あぁ、私の仲間達を弄んでくれたお礼、そしてこのくだらない転生教団に引導を渡してやる。お前には地獄すら生ぬるい。ノルン・ジャッジ!」

 

 パラセルネ・シルバーはセルベリアさんに向く。そしてセルベリアさんは再びパラセルネ・シルバーを拾うと「ノルン・ジャッジ!」と投げ、それは司祭の方に向いた。

 司祭の残りの寿命が200歳奪われる。分かりきった事だけど、司祭は自分の寿命を使い切った。

 

「騙して入信させた信者達の命を、そしてセルベリアさんの仲間のエルフ達の命を軽んじた貴方の番が来たんだ。寿命を全て吸い取られる間。せめて神に仕える者とまだ言うなら祈りの時間にするんだ! その魔道具、パラセルネ・シルバーはカンタービレ、ゴールドランクの僕。アルケー・ダニエルが回収させてもらいます」

 

 司祭は声なき声をあげ、最後まで謝罪の意を示す事なく、朽ち果てた。リトが殺害した人たち、魔道具で大量虐殺に追い込んだ信者達。それら全ては魔道具協会がもみ消すんだろう。

 だけど、とりあえず僕らの二回目の闇クエストはこれで終わりを告げた。

 

「終わったの?」

 

 ひょこっと顔を出したリト、死体が大量に転がっている部屋から出てきたとは思えない無邪気な表情で「お腹がすいた」と僕らに空腹を訴えた。

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