第12話 第二の闇クエストが終わり、宴が始まる

「お疲れ様二人とも、そしてエルフと友人になるとは持ってるね!」

「成り行きだ」

 

 僕は今回の闇クエスト達成報告、そしてその後のお疲れ様会にセルベリアさんを呼んだ。今回、司祭の魔道具を完全に封じるにあたってセルベリアさん無くして攻略は不可能に近かった。

 

「アルケー、本当に君の成功報酬、このエルフくんにあげていいのかい?」

「えぇ、構いません」

「まさかあの時、金貨700枚で雇うと言われた時は驚いたがな」

「命はお金では買えませんから」

 

 魔道具。パラセルネ・シルバーの特性を知っているアルケーだからこそ、リトの姿に化けたセルベリアを司祭にぶつけるという事を考えた。寿命という概念のないセルベリアからすれば何のリスクも負わない事だから普通に従っても構わなかったが、アルケーは成功報酬の金貨700枚を支払うと言われた。そのかわり完璧にリトを演じてほしい事。

 

「司祭が始める前にエルフだと気づかれたらそもそも勝負に持ち込めませんでした。寿命のレートアップも僕が指示した通りでしたし、どうぞお受け取りください」

「あぁ、私としてもこんな破格の金額を手に入れる事は今後の為にも助かるしありがたく頂くが、今後もアルケーとリトはあんな仕事をするのか?」

 

 あんな仕事、平気で多くの人の命を奪った一連の話をしているのだろう。それに僕が頷くよりも前に、

 

「そうだね。魔道具は悪用されては困るから、私たち魔道具教会が管理しなくてはならないんだ。その為には二人は頑張ってもらわなくちゃね!」

 

 ずらりと並んだご馳走。リトは既にバクバクと食べ始めている。セルベリアさんは振る舞われたワインを片手にこの異様な光景に少し引き気味だ。

 

「魔道具協会ってのはえらく儲かるんだな?」

「なんせパトロンが多いからね。今回の転生教団を潰せた事は実に実入が大きいよ。各種信心深い教会から報酬をいただいたからね。ぱっと出の新興宗教が力を持つとどうなるか、見せしめにもできただろうし」

 

 フォークで果物を突き刺すとサリエル先輩はそれを上品にパクリと食べた。後ろには封印を施してあるパラセルネ・シルバー。サリエル先輩を見ながらセルベリアさんは口を開いた。

 

「その為にまだ子供の二人を使うのが気に入らん」

「二人とも条件と契約は飲んだんだよ」

「契約するしか方法がなかったろう?」

 

 見た目は幼く見えてもセルベリアさんは一体何年、何十年、何百年生きているか分からない叡智の種族・エルフだ。そんな彼女はサリエル先輩に真っ向から喧嘩を打ってる。

 

「そうだね。二人には選択肢はそれしかなかった。その時はね」

「その時は?」

「あの時、二人が選択しなければアルケー君は資格剥奪、リトは処分されただろう。だけど、今は一部から強烈な支持を受け始めている。リトの戦闘能力、アルケーの魔道具知識。そして運もある。支持をされパトロンが増えれば、二人には局所的とはいえ、様々な権利を得れるだろね。そして、いつか支配されている側から……アヴェンジ復讐も可能じゃないかい? 命というチップをかけて倍々ベットし、成功し続ければ二人はいずれそれぞれの願い以上の物に手が届くじゃないか?」

 

 サリエル先輩はそう言う。それはいくらなんでも無茶だ。そんな命の使い方、普通じゃない。普通じゃないけど、そうしないと確かに僕の願いは手が届かないかもしれない。僕を見てセルベリアさんがグラスの中身のワインを飲み干す。

 

「それが答えか、狂ってるな。いつか二人の刃がお前の首を刎ねる事を期待している」

「そういう未来が来るなら仕方がない。受け入れるよ」

「私はこれっきりで失礼させてもらう。できればもう二度と会わない事を祈る」

「二人のお友達がお帰りだよ。見送って差し上げて」

 

 そう言われたので僕はセルベリアさんをジュデッカの入り口まで案内する。そこで謝罪をした。

 

「すみません。サリエル先輩、あーいう話し方なもんで魔道具協会でも異端扱いされてるんです。根はいい人なんですけど……」

「根はいい人か……私はあの男程、嫌な目をする奴を見たことがないけどな。あんな風な別れ方をして言うのを忘れていたが、お前達から伝えておけ、転生教団の黒幕はまだ捕まっていないとな」

 

 そうだった。

 転生教団には司祭が大神官と呼んだ“ユナ様“という存在がいる。あの司祭が陶酔する程の……恐らくは女性。女神と呼んでいたんだ。何を目的としているのかわからないけど、危険な魔道具を司祭に与えて転生教団をあそこまで大きくした危険人物だ。当然まともな奴じゃない。もしかしたらサリエラ先輩なら何か知っているかもしれないけど……

 

「セルベリアさん、今回はありがとうございました」

「あぁ、あの女。サリエラには気をつけろよ? まぁなんだ。生きてればまた会うこともあるだろう。その時もできれば敵でない事を祈るよ」

「わわっ!」

 

 チュッとセルベリアさんは僕の頬に軽くキスをした。一体何事かと僕が思ったらセルベリアさんが僕の驚きがよほど愉快だったのか笑った。

 

「エルフ式の別れの挨拶だ。嫌いな奴にはしないよ」

「そ、それは光栄です」

 

 くるりと振り返るとセルベリアさんは金貨700枚が入った袋を持って腕を高く上げて去って行った。叡智の民、寿命という概念から解き放たれた種族・エルフ。その容姿の美しさから今回のように違法に取引される事もある亞人種。いろんな理由で数を減らしているらしい。

 寿命がなくても死なないわけじゃない。僕もセルベリアさんとはまた味方同士でありたいなと思う。

 

「戻るか」


 僕はサリエラ先輩とリトの元に戻ると、サリエラ先輩が片目を閉じながら、「引き留めは難しかったか……うーん、エルフの味方がいれば心強かったんだけどな。連中魔法の知識も深いしね」

 

 が、実際サリエラ先輩は引き留めに失敗した事はどうでもいいんだろう。彼女はいつも数パターン考えを持っているみたいだし、僕では計り知れない。

 だから、僕はセルベリアさんに言われたを素直にサリエラ先輩に報告する事にした。

 

「サリエラ先輩、あのさっきセルベリアさんを見送った時に言われて思い出したんですけど、転生教団の黒幕はまだ生きてます」

 

 質のいいワインをこれまた質のいい銀の杯でゆっくりと飲んでいたサリエラ先輩の手が止まる。これが演技なのか僕には分からないけど、サリエラ先輩は、

 

「それは本当かい? アルケー君、それにリト」

 

 リトはチーズとハムのパイをパクパクと食べながら「知らない」と答える。リトはあの時、あの場にいなかった。それを踏まえた上でサリエラ先輩に報告。サリエラ先輩は「ふむ」と一言。

 

「アルケー、本当にその対象・ユナは存在しているのか? 君たちが粛清した司祭の妄言だったという事はないのかい? 年齢は? 本当に女なのかい? 姿は? 好きな事、嫌いな事は?」

「全く……わかりません」

「ふむ、アルケー君。君を責めるつもりはないけど、君はカンタービレなんだろう? 君がどういう目的でここにいるか私も知っているつもりだよ。だけど、魔道具の回収と管理がそもそも私達の仕事で、それら魔道具の出所を調べるのは基本中の基本じゃないかな? 先のアリエルを殺してのけたのはアリエルにリトの情報が行き渡っていなかった事、リトを拘束している魔道具の特性をうまく使っての結果さ、そして今回の司祭殺しとパラセルネ・シルバーの回収はエルフが偶然いたとはいえ、決着に導いたのは普段の君の弛まぬ魔道具理解という努力の賜物、いずれも情報戦を制したわけだ。もし、そのユナという者が我々の情報を仕入れ、我々の殲滅にきた場合。次に粛清されるのは我々という事になるんだ」

 

 空になった銀の杯をトンと置いてサリエラ先輩は静かに、そして厳しい口調で僕に言った。数多くいる魔道具研究者の中で彼女がジュデッカ最高責任者である理由、それは彼女の言う情報戦に勝って、邪魔な者を蹴落としてきた結果なのかもしれない。

 僕は言い訳をしようとも思えない程に論破されていた。弟を救うという僕の目的はもちろんブレない。だけど、僕はこんな危険なクエストに派遣されているとはいえ、カンタービレなんだ。それもゴールドランクという大きな責任が伴う役職。

 静かにサリエラ先輩の僕への罰を待っていると、サリエラ先輩は……

 

「と、普通のカンタービレには真面目な私は言うんだろうね」

「えっ?」

「まぁ、少しはアルケー、君も自分の身を守る為に情報収集は必要だと思うよ? でもまぁ、君たちはできる限り自然体で動かしたい。規律に遵守したカンタービレなんて貴族からでた連中にやらしておけばいいさ。作法云々なら私よりもお上手に彼らが担ってくれるだろうしね。魔道具の保管管理にはどうしても貴族の資金力が必要だから貴族からカンタービレになる者を毎度選出しているけど、魔道具を保存管理する事ができる技術や魔道具が手に入りさえすればそれらの制度も私が一新してみせるよ。その為にパトロン作り、基盤作りまぁ見ていたまえ、アルケー君。君の欲する魔道具についてもきっといずれ情報を掴んでみせる。これから活躍する君を勧誘する様々な勢力もいるだろう。だが、それでも私についてこい。絶対に後悔させない」

 

 リトが食べる手をぴたりと止めた。多分、リトは僕と同じ事を感じたんだろう。アリエルが言っていた魔道具先進思想についてアリエルの言っていた事もやはり間違っていない部分もあったのかもしれない。

 再び血のような真っ赤なワインを杯に注ぐ。それをゆっくりと飲んで、サリエル先輩はいつも通りの優しい表情、だけど一緒にいるから分かる事があるんだ。サリエラ先輩は誰から見てもそれなりにいい人に見える。リトと一緒にいるから僕も気づけた。リトは違和感に対してすごく鼻がきく、そしてそれはサリエラ先輩もまた同じだ。僕らに違和感を感じた時、サリエラ先輩は僕らの思考を変えさせるんだ。

 

「さて、ところで次の闇クエストについて話があるんだけど、いいかい? 今回は通常の冒険者ギルドにも依頼が回っているんだよね。冒険者から掠め取ってくれても構わない。お茶でも淹れるから、ゆっくりと話をしようか?」

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