第10話 剣豪の殺し方を少年兵は知っている
「くっ……なんて悲惨な光景だ……」
一方的に殺害された信者達、当然転生教団に入っているのは若者が多く、彼らが皆死に絶えている。それはセルベリアさんが望んだ光景のハズなのに、彼女も驚愕している。あの屋敷でリトが三十人以上を一人で殺害してケロッとした顔をしていた時と変わらず。満足しているわけでもなく、リトはいつも通り無表情でキョロキョロと辺りを見渡す。
「ナイフを持っている人がいない」
闇の魔人剣を渡した信者。外に出たのか? あれも上級ランクの魔道具。危険な物である事には変わらない。あんな物を野放しにしてはいけないと、さらに被害が広まる事を危惧していた僕らだったけど、
ドゴォオオオオオン!
司祭の部屋に続く扉が破壊され、人が吹き飛んでくる。それに僕もセルベリアさんも驚いていたのに、リトは「いた」と吹き飛ばされた人物。それこそがリトが闇の魔人剣を渡した適当な人物。どこにでもいそうなそばかすの残った少女。胸に大穴が空いている事からもう絶命している。
これをやったのは……
カツカツカツ、カツンと質の良いブーツの音が響き渡った。そこには長剣を手にした青年。聖騎士団の人? と思ったが……違う。首から転生教団の紋章が刻印されたネックレスをぶら下げている。
「アルケー、リト。あれはかなりの剛の者だ!」
セルベリアさんは細い剣を構え、リトはゆっくりと少女の亡骸を前にゴソゴソと漁る。そして「あった」と少女の血で汚れる事も気にせずに闇の魔人剣をポケットにしまった。
「一体これはどういう事だい? 司祭様がお嘆きになられている」
「そう思うなら、司祭の力で全員を生き返らせればいいだろう?」
セルベリアさんが戦う気満々でそう言ったのに、リトは「仕事を終えて帰ってきた」と至極当然にそう言った。ブラフでもなんでもない。確かに僕らは貴族の館に箱を届けた。その後に屋敷にいた人をリトが一人残らず殺害してきたわけだけど、受け取りの証明もリトは青年に見せる。
「……どういうつもりだい? 君達はこの惨事に関係ないというのかい?」
「関係ない」
平然と嘘をついたリト。それに青年は眉間に皺を寄せると大剣を構えた。
「俺は、転生教団。司祭様の剣。守護騎士アルコス。かつて剣聖イリアステル様の元で剣を学び高めた者。この状況で顔色一つ変えずによく言う。この剣から逃げられると思うな!」
スッ!
速い。凄い速度で距離を詰めてきた。リトは僕を突き飛ばして、アルコスに合わせる。
リトなら!
「……っ、痛い」
「紙一重でかわしたか……信じられない身のこなしだが、今の一撃でよく分かった。娘。お前、剣の手解きを受けた事がないな。まともに剣の道を歩んでいればいい勝負にはなったかもしれないが……高められた技と鍛錬の時間が分けたな」
ギィイイイイイイン!
リトに向けられた剣はセルベリアさんの剣で止められる。多分、セルベリアさんは余裕がないんだろうが強がった。
でも、今のセルベリアさんが止めなければリトがやられていたかもしれない。リトが大きく口を開けて距離をとった。
「私もいるんだ。仲間にいれろよ!」
「魔法剣士か……その腕で俺に立ち向かうとは愚か者め、ただ死体が一つ増えるだけだ」
ブルブルブルとリトが震えている。リトが怖がっている。じっと遠くの扉を見ているので逃げる事を考えているんだろう。
「リト……」
僕をチラりと見て、リトは「セルベリア。マホーであいつ殺せない?」と聞いた。リトでもお手上げだと言っているようなものだ。剣聖の弟子が出てくるなんて聞いてない。魔術師と違って剣士は人にもよるが傲慢な人が少ない。野鼠相手でも本気で狩にくると聞いた事がある。
「リト、魔法でコイツを倒す事は難しいだろう。奴の持つ剣も魔法剣の類だ。私の魔法程度じゃ突破は難しいだろう」
「いがいと使えない。マホーって何ができるの?」
「簡単な攻撃の魔法と見た目を変化させる魔法、そして迷宮抜けの魔法だ」
「あいつを殺すのには使えない」
リトは逆手に闇の魔人剣を握ると、アルコスを見つめる。アルコスが動くよりも前にリトは動いた。リトがいた場所がえぐられる。リトはスーハースーハーと空気を取り込んでる。
疲れてるんだ。
「剣士の呼吸法、そして足使いもできるのか、だが攻める方は全然ダメだ。お前、強い剣士と戦った事がないだろう? 並の剣士程度ならお前の身体能力で殺せるだろうさ。が、俺に弱点はない。必殺戦技」
「…………っ!」
リトはアルコスが構えた瞬間背を向けて逃げた。リトがいた場所を真っ直ぐに貫かれた。リトはそれを読んで逃げたらしい。
アルコスは僕と目が合った。
「先に動いてない奴を殺すまで」
ヤバいヤバいヤバい! アルコスが一気に距離を詰めてくる。逃げる事が精一杯のリトじゃどうしょうもない。
殺される。
「アルケー! 壁に向かって逃げろぉおおお! お前の相手は私だぁああ!」
セルベリアさんが針のような剣を振りながらアルコスの注意を逸らしてくれるけど、軽くあしらわれてる。
無理だ。
僕らにはアルコスには勝てない。
「そこそこ使えるようだがそこそこだ。基本に忠実な剣、そんな物では俺には勝てない……なっ!」
ビュン!
リトが、闇の魔人剣をアルコスに投げつけた。セルベリアさんの後ろから、下手すればセルベリアさんに当たったかもしれない。
だけど、だからこそアルコスに一矢報いた。肩に浅く刺さったそれをアルコスは抜いて、
「魔道具か、いい武器だが手を離すなんてやはり素人だなお前」
「よそ見をするな!」
「あー、ウルセェな! 死んどけよエルフ!」
「うぅうう! なんて剣撃だ……受けきれない……」
僕はこのすぐ後にセルベリアさんが殺される未来を見た。受けきれなかったセルベリアさんがバッサリと、斬られる。
と思っていたけど、剣が止まった?
「リトは、交戦した事ある……剣を上手く使うやつ」
「!!!!!!」
どうやって距離を詰めたのか、リトはセルベリアさんの後ろから飛び出すと、格闘術でアルコスの傷口にガーデニング用の鋏を突き刺した。
「セルベリア、離れる……コイツの殺し方はこうやって同じところを狙う」
「リト……」
グイッと引っ張って、リトは再び距離をとった。僕に視線を送るので僕はアルコスからもっと距離をとって離れる。
「交戦した事がある……強い剣士と戦った事があるという事か?」
「うん」
コクンと頷くリト、リトは強い剣士を殺した事、経験がある。これなら僕らは生き残れる……そう思ったけど、アルコスは違った。
暗い顔をして……
「盗賊みたいな卑怯な戦い方だ……剣士として立ち会っていたがやめた。圧倒的な力でねじ伏せ殺してやる。毒でも塗ってるんじゃないだろうな?」
「塗ってる」
「……ちっ」
何処で毒を……いや、毒なんて持ってない。リトはブラフを立てた。毒に蝕まれていると思わせて隙を狙うんだ。
「毒は……嘘だな。俺は状態異常耐性の加護があるんだ。残念だったな」
「うん毒は嘘。でもお前は殺せる」
リトはポケットに手を入れると十個くらい食事用のナイフや釘、色んな物を取り出した。それでアルコスと……
「そんな物で俺を殺せるのか?」
「うん。殺せる」
リトがゆっくりと前に進む。アルコスは構え、二人が激突した。リトは適当に集めた刃物や金属片でアルコスの剣を止めては離れる。次々にそれらは壊れていき……いやあたりまえだ。伝説の武器みたいな剣だろう。唯一対抗できたであろう闇の魔神剣は遠くに転がっている。
「隙ありぃ!!」
リトの腕が斬れた。切断はされていないから浅いんだろう。だけど、リトは転んでこのままアルコスの剣に……
「やめろぉおおお!」
エルフのセルベリアさんが剣を捨てて両手を上げてリトを守った。セルベリアさんは斬られ、リトが殺される時間が少し伸びただけだ……
リトがこう言った。
「セルベリアが役にやった」
「っ……リト?」
「あっ……あっ……なんで」
信じられない。
多分、僕もセルベリアさんも、アルコスもこんな未来、想像しなかっただろう。リトはセルベリアさんの剣を拾って、至極当然、セルベリアさんごとアルコスの心臓を貫いた。
「なんてやつだ。お前……人間じゃないのか……仲間ごとガフっ……身体回復に」
リトはアルコスを蹴り飛ばした一緒に貫かれているセルベリアさんも苦しんでるのに、リトはアルコスの剣を拾うと両手で持って。
「やめ……」
リトはアルコスの剣を頭に突き刺して絶命させた。首を落とすんじゃないんだ。こんな死に方は嫌だというランキングがあるとすれば上位に位置しそうだ。
僕はうぅと呻いているセルベリアさんの声を聞いて、
「セルベリアさん!」
「よぉ、アルケー……怪我はないか……」
「すぐに手当を」
「私ももう助からん。回復魔法も覚えていればよかった……リト、お前の判断は悪くない……代わりにこの転生教団の……」
「アルケー、テープレコーダー」
「テープレコーダー……あっ! アリエルの魔道具。セルベリアさん、すぐに怪我を治しますね!」
「えっ?」
僕はセルベリアさんに魔道具を向けて五つ目のスイッチをポチッと押した。
すると、僕らが殺したアリエルの声で……
“オール・ヒーリング“
みるみるうちにセルベリアさんの傷が治っていく。セルベリアさんは死にかけている大怪我が治った事できょとんとしている。
「お、おぉ! さすがはカンタービレか……助かった。なんか……あれだな、先に言っておいてくれ……」
「セルベリアさん、ちょっと相談があります」
僕はセルベリアさんに耳打ちをする。これより、僕らの闇クエストの開始。
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