闇クエスト2 カルト教団から魔道具を奪取せよ
第7話 少年兵と一緒にカルト教団に入信した最初の仕事が人身売買の運び屋だった
はぐはぐとリトがギルドの酒場でサリエラ先輩が適当に頼んだ食べ物を次から次に食べている。有名なカンタービレのサリエラ先輩と、ゴールドランクバッチをつけている僕、そしてリトの三人はゴロつきの多いギルドという場所では浮いている。冷やかしの一つくらいあってもおかしくないのだが、リトがレストランで殺害したグッガー一味の件はかなり有名らしく、下手な事をすれば粛清されると思っているんだろう。普段より静かなそこは普段よりひりついていた。
「サリエラ先輩、次の仕事なんですけど、これ……」
「聞いた事くらいあるだろう? 転生教団。最近若者達を唆している宗教団体さ、なんでも現世でぱっとしなくとも別世界で転生すれば、容姿端麗、強力な才能・技能を持った状態で人生をやり直せる。男の子なら可愛い女の子にモテモテ、女の子ならありえないくらいの美形男性に愛でられるんだってさ! なんとも興味深い話しだろう? 実に馬鹿らしいのだが、願いを叶える事ができる魔道具が絡んでるんだよね」
僕も聞いた事がある……どころじゃない、弟の手がかりを探す為に、この宗教団体に話を聞きに行った事がある。僕の弟はもう現世に戻ることはできない。弟にもう一度会いたければ僕も転生の儀を受ける必要があると、ふざけた内容だった。確か、金貨で30枚の支払いが必要だったハズだ。払えない場合は入信して転生教団の仕事を行いそれらの支払いもできるとか言われた。そうした口車に乗せられた人が多く入信しているのかと思ったけど、魔道具が関わっていたのか……
「ここで僕らは何をすればいいんですか?」
「そうだね。入信して、詐欺の片棒を担いで貰おうかな?」
「えぇ! それは」
「ふふ、冗談だよ。この転生教団の教祖。偽りの奇跡を宿した魔道具、パラセレネ・シルバーを持っていると思うんだよね。知っているかい?」
書物で読んだ事がある。自らの寿命と引き換えに、願いを叶える魔道具だ。でも、その願いは……真実じゃない。
「その回収ですね?」
「そういう事だよ。連中、若い子に結構色々やらせてるみたいだからさ。女の子なら売春、男の子なら窃盗、強盗、危険物の運び屋、その見返りに願いを叶えてあげているという体だけど、末端信者の子等は自分の寿命が使われているという事を知らない。君たちは教団の末端に入り、仕事を行ってもらう。今回は聖騎士団とも協力体制だから身の安全は安心したまえ。あと、リトに何か武器を持たせてあげようと思うんだけど、リトは何がいい?」
「銃」
じゆう? 自由? いや、ジュウと言ったのかな? 僕がサリエラ先輩を見ると、サリエラ先輩も分からないという表情を見せるので、サリエラ先輩は紙と、柔らかい炭の塊をリトの前に置く。鉛筆だとリトが凶器として使うかもしれないと思っているんだろうか?
「リト、これでそのジュウという物を描いてもらえるかい?」
「分かった」
僕とサリエラ先輩はリトが描いた恐らくはそのジュウの設計図を見て、驚いた。驚く程精巧に描かれたそれは二つ、金属の弾を放つ道具らしい。パチンコとは違って、火薬を爆発させて金属の弾丸を放ち、相手に致命傷を与える道具。これは魔道具なんじゃないのか?
「これは面白いな。この角ばった方は再現が難しそうだけど、この真ん中にレンコンみたいな物が回る仕様になっている方は案外作れるかもしれない。預かっておくよ。二人には転生教団に入団するように動いてくれ、銃とやらは用意できないが代わりにこれを渡しておくね。ここぞの時に使っておくれ」
「これって……」
僕の手に乗せられたのは上級魔道具。ルナエクリプス。通称闇の魔人剣。使用者に殺人衝動を起こし、さらに一般人でも熟練のソードマンクラスの力を与える悪魔の短剣。かつて小さな村でこのルナエクリプスを抜いた十歳の少女が村人全員を殺害する悲惨な事件が起こった事があった。
「アルケー君、決して君が抜いちゃいけないよ? この魔道具は強靭な精神を持つ者にしか扱えない。ただしアリエルを殺して退けたリトなら多分使いこなせかなって思ってね。それにリトなら面白い使い方をしそうだし、プププ」
嫌な予感しかしないけど、前回リトが丸ごしだった事でリトに大怪我を負わせてしまった。そういう意味では武装は大事だよな。僕が保管して必要な時にリトに渡そう。
リトはサリエラ先輩が注文した食べ物を食べ尽くして、木のコップで水を飲んでいる。リトは僕らの話を聞いているのか聞いていないのか分からないけど決して頭が悪いわけじゃない。そしてお腹がいっぱいの時のリトは機嫌がいいという事も無表情だけど僕は分かるようになってきた。
「リト、何か甘い物でも食べる?」
「食べる」
僕はリトの為に、木苺のパイを注文した。するとサリエラ先輩が「私も同じ物を貰おうかな。あとお茶を人数分」と、殺伐としたギルドの酒場で和やかなティータイムという似つかわしくない事も冒険者達は何も言わない。
サリエラ先輩と別れ僕らはその足で乗り合い馬車を待ち転生教団の本拠地に向かう事になった。
そんな同じ馬車に揺られている夫妻は神妙な顔付きだ。今から転生教団に入団するつもりなのか、あるいは……僕の予想が正しければ……
教団本拠地前で馬車を降りると、夫妻は真っ白な建物の門番に叫んだ。
「ウチの子を返してちょうだい!」
「ジェシカは無事なんだろうな? この野郎!」
「冷やかしならお帰りください」
白い服を着た門番は無機質にそう言った。掴みかかる恐らくジェシカさんの父親を殴り飛ばし、「これ以上迷惑をかけるなら、容赦しませんよ」と腰に刺している剣をちらつかせる。僕らは離れたところから状況を観察。リトはぼーっとその様子を見ているので僕は聞いてみた。
「リトのご両親の事を聞いてもいい?」
「リトにはそういうのはいない。サリエラにもそう言った」
「そっか、ごめん」
「別にどうでもいい。アルケー、あの人たちを助けたいの?」
「…………!」
「あのね? アルケー」
リトはあの両親を見ながらゆっくりとある話をしてくれた。
僕がリトの事を少し分かったように、リトも僕の事を理解している。そしてリトは僕に手を出した。ここでそれはと僕は思ったけど僕を見つめるリトのその瞳を信じて僕は闇の魔人剣を渡した。それを抜くとリトは静かに僕を見た。すぐにでも腕の魔道具を封印しようと思ったけど、リトはその刃を腕輪型魔道具、ノワールガーベラで挟み、こう呟いた。
「言うことを聞かないと、折る」
リトの緋色の瞳が闇の魔人剣を睨むわけでもなくしばらく見つめ、そしてリトは鞘に刃を収めると懐の中にしまった。リトは再び僕に手を出した。手を繋ぐという意味なんだろう。僕らは手を繋ぎながら揉めている門番のところへ向かって、サリエラ先輩に言われた通りの言葉を述べた。
「本日より、二週間の就業に来ました。アルケーと妹のリトです」
「なんだお前達?」
僕はアリエル・サーチェの紹介でここに来たと、サリエラ先輩が偽造した紹介状を見せる。リトの見た目は少女でも通る。男女で入信した方が仕事の幅も増える。教団幹部に近づく確率が上がるという事らしい。そしてアリエルは実験の助手や実験に使う人間をここの教団から提供を受けていたと言う情報をサリエラ先輩はどこかから仕入れていた。そのアリエルはもう死んだわけだけど、多大な寄付をしたであろうアリエルの名前はいまだに健在だった。
「アリエル様か、森の火事でお亡くなりになられたんだったな? あのアリエル様の紹介であれば入るといい」
「ちょっとまだ話は終わっていない!」
「わわっ!」
僕は突進してきた娘を返せと叫んでいる父親にぶつかりこける。そして奥さんの方に倒れると奥さんが僕に手を差し伸べてくれる。
「貴方、大丈夫?」
「えぇ、このくらい、ほら」
僕は奥さんの手に紙を掴ませる。先ほど簡単に書いたメモ、“娘さんは僕らが探します。一旦引いてください“それを読んだ奥さんはいまだに暴れようとしている旦那さんに、
「貴方、出直しましょう」
「何言ってるんだお前!」
「いいから!」
リトが言っていた。多分、あのまま暴れ続けていたら二人は間違いなく殺害されただろうと、リトはこういう組織について僕よりも詳しいのかもしれない。先ほど僕が渡した手紙は嘘なんだ。僕らは彼らは娘を探す気はない。なんせ顔も知らない。今回の仕事で運よく彼らの娘が見つかり帰る事ができれば何もしていないのにあの両親に貸を作れるし、見つからなかったとしてもいくらでもいいわけはできる。はっきり言って最低の一手だけどあの両親の命はとりあえず救えた。平然とこんな事を考えたリトに驚きながら門番に案内され、教団の内部に入った。そこには皆同じ白い服をきた人ばかり、歳のころは10代から30代前半くらいだろうか? 私服の僕らは浮いた。特にリトは髪の毛も珍しい黒だし、服もそれらの色で統一されている。
一際豪華な純白の法衣を着た男の元へ連れて行かれた。
「司祭様、アリエル様のご紹介だとこの二人が」
「ふむ、これは確かにアリエル様の書簡。惜しい人を亡くした。この前までアリエル様のところから戻った信者もいたのだが、後を追う様に亡くなってしまってね。お二人に法衣を、穢れを取り除きもう一度ここに来てもらいなさい」
「わかりました」
今回、リトの魔道具を僕はマスクとネックレスだけにしている。首輪と腕輪はあまりにも目立つから、僕は短いパンツタイプの法衣。リトは質素なワンピースタイプの法衣。それらに着替えると、もう一度司祭の元へ、
中年の男だ。こいつが魔道具を持っているんだろうか?
「ふむ、歳の頃は16歳と14歳か、髪の色と目の色が違うが、本当に兄妹なのか?」
「父が冒険者でした。どこか遠い異国の地でリトを見つけ自分の娘、そして僕の妹にしたんです」
「全くもってその通り」
うんうんとリトが頷きそう言った。
「まぁいい。仕事を請け負いたいと聞いているが、この教団に入信する必要がある。それは構わないか?」
やっぱりそうなるよね。仕方がない、僕は「もちろんです。アリエル様がご紹介された転生教団であれば信じましょう」
リトもうんうんと頷いた。
「二人とも入信したばかりだが、徳を積めば大神官様に謁見ができる。そうすればなんでも願いを叶えてもらえるぞ!」
大神官とやらが魔道具の所有者か? その為には僕らはまず徳とやらを積む必要があるらしい。僕とリトがこの転生教団で始める最初の仕事、大きな箱に入った何かを田舎の貴族に届ける事。
教団が用意した馬車を僕が操縦し、リトが大きな箱を見つめながらお弁当にと渡された質の悪いパンを齧り、教団本部が見えなくなったところで僕はリトに話しかけた。
「一体何を運ばされてるんだろうね?」
「この箱の中身は女の子」
中身を見ずにリトはそう答えた。田舎の貴族に少女を運ぶ。まともじゃない。のっけから僕らはヤバい所に来てしまったらしい。
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