第5話 少年兵は大魔術を危険と語る。ただ、殺せない程じゃないがとも
「リフレクターだ……」
あらゆる直接攻撃、物理攻撃を無効化にする習得難易度の極めて高い魔法。アリエルの力はやはり、噂通りなんだ。
リトは不思議そうな表情を浮かべるものの、アリエルからの反撃を予測して逆方向から再び攻撃に転じる。
「無駄だよリト、もし私を殺すつもりなんだったら、もっとチャンスはあったろう? アルケー君を拘束していた時とかね。当然もう私に弱点も隙もないよ。なぜなら物理が効かない魔術師は最強の狩人なんだからね」
僕はまだあの時、アリエルの事を殺す決意が持てなかった。僕のせいだ。リトはアリエルの魔法を避けながら僕のところまで戻ってくると僕の手を引いた。
「アルケー、アリエルを殺せる。手伝って」
えっ……リトは何を言ってるんだ。あの伝説の魔術師アリエル・サーチェをこの時点で殺せるとそう言ってるのか……
「どこに逃げるというんだい? この屋敷には私の大結界が張ってある。それを発動した時点でもうこの地からは誰も逃げられないよ」
ゆっくりと勝ち誇ったようにアリエルは僕達を追う。僕は恐怖でどうにかなりそうだったけど、リトが手を引っ張ってくれてる事で僕は心が折れずにいた。
「リト、どうやってアリエルを?」
「リトのこの腕輪、アリエルの不思議な力を通すから、これで殺せる。アルケーは……こっち向いて」
「んんっ!」
いきなり僕はリトに口づけされた。最初意味が分からなかったけど、すぐにこの意味を理解した。
カモフラージュだ。
「ははーん、二人はそういう関係だったのかい? アルケー君、身動きを奪っている男の子をそういう風に扱うのは趣味としては褒められたものじゃないね。だけどそれだけの戦闘能力をもつリトを惚れさせるのは大したものだよ」
そう話しながらもアリエルは炎の魔法を詠唱、そしてそれを牽制として放ってくる。あとアリエルはどのくらい魔法を使えるんだ……
「アルケー、外」
屋敷の扉が開いた。
外に逃げられる? いや、結界は屋敷の外にまで及んでいるんだ。アリエルは走って追いかけてくるような事をしないのがそれを物語っている。
リトに手を引かれて走る。
「リト、このまま逃げても行き止まりになる! そういう魔法をアリエルは使っているんだ」
「言ってる事が殆ど分からないけど、別に大丈夫。逃げるんじゃない。アリエルを外に誘い込みたい」
結界の範囲内はおそらくアリエルの庭みたいなものだ。
誘い込まれているのは僕らに他ならない。今回ばかりはリトの戦闘能力もアリエルに届かないのであれば勝ち目がない。
しかしリトは……森の中をスイスイと進む。
「こんな夜なのにリトは周囲が見えるの?」
「見える。それに、アリエルはさっきから火を使っているから居場所もすぐに分かる。あれはストレスって言う。リト達を追っている風に見えて、アリエルは焦ってる。この森の中ならアリエルを殺せる。アルケー、この木に登って」
そう言って僕らは周囲を見渡しやすい木によじ登る。木登りなんていつ以来だろう。ある程度まで登るとボキりとリトは木の枝を折る。それを先ほど持ち出した包丁で研いでる。武器を即席で作り始めるリト。
「アリエルはリトからしたら弱い?」
「ううん、できれば逃げた方がいい。かなり危険、アリエルは危険……でもリトを今まで襲ってきた連中からすれば殺せない程度じゃない」
一体リトは今までどんな連中に襲われたんだよ。
そんな中、アリエルの声が響く。魔法で拡声しているんだろう。
“アルケー君にリト、出ておいでよ! 私が本気を出せばこの結界内くらい炎の魔法で満たす事だって可能なんだよ。大人しくすればできる限り痛い事はしないよ“
最悪だ。アリエルはその切り札があるから僕らを軽々と逃したんだ。こんな広い空間内を燃やせるなんて……勝ち目がない。
「リトを昔襲った、グンジンは空から、街一つを焼け野原にした。それに比べれば全然問題ない」
どんな魔法使いだよそれ!
リトはそう言うと真顔で親指を立てた。これはリトなりのジョークなんだろうか? リトは何本も木の枝で凶器を作りそれらを木々の中に仕掛けていく。
トラップか!
一体リトは何者なんだろう? アリエル様以上の魔法使いと戦った事があるような口ぶりだけど、リトは魔法の事を知らない。
「アルケー、アリエルが視界に入ったら、この蔓引っ張って、これでアリエルを殺る」
リトは腕輪型の魔道具、ノワール・ガーベラと手首の間に包丁を忍ばせている。
そうか、ノワール・ガーベラは魔法を封じる。アリエルのリフレクターを貫通するからその中なら物理が通る!
リトは少し、眉を顰めて僕の耳元で囁いた。
「!」
「じゃあ、アリエルを殺してくる」
ざっとリトは木から飛び降りた。いや、木を何回か蹴って落下の威力を殺してる。そして着地するとボウボウと炎の魔法を使うアリエルの元に走る。
リトの足音に気づいたアリエルは魔法を放ってくる。
「ファイヤー!」
炎で闇夜が照らされる。そして木々が燃やされ、リトの姿を探すアリエル。両手には炎の魔法。
「アルケー君、私があとどのくらい魔法を使えるかとか考えているようだけど、こんな魔法、十日間打ちっぱなしでも私はへばらない。これでも一応大魔術師と言われているんだよ? こんな小手先の魔法に残弾があると思わない事だ!」
見えた!
僕はリトに言われた通り視界にアリエルが見えたので、蔓を引っ張った。グンとリトが作った木の矢が一斉に放たれる。
あんな短時間でこんなトラップを作れるリトは一体。山なりに、まっすぐにアリエルを襲う木の矢。
だけど、アリエルはそれを恐れない。
物理攻撃を無効化しているリフレクターの魔法を張っているからだ。
「面白い仕掛けだけど、流石に頭が悪くないか……あー。そういう事か」
アリエルの頭に包丁が突き刺さった!
僕も瞬きをした瞬間に闇の中からリトが現れてアリエルのリフレクターにノワール・ガーベラをぶつけて間に仕込んでいた包丁でなんの躊躇もなく突き刺した。
リトが大魔術師を……殺した。リトはアリエルの足に触れる。死んだかの確認なんだろう。流石に頭を包丁で貫かれて死なない人は多分存在しない。
あっけなく、大魔術師アリエル・サーチェは死んだ。
「いやぁ、危なかった……」
嘘だろ!
アリエルは包丁を頭から抜き取ると「キュア」と頭に回復魔法をかける。リトはその様子を無表情で見つめて、森の中に潜むように逃げた。
何故だ? 何故、アリエルは死ななかった。
「驚いたかい? アルケー君! 私も驚いたよ! だが、助かった。私の研究し、評価された蘇生の魔法のおかげで、三割の勝負に私は勝ったんだ!」
完全蘇生魔法リザレクション。
もやは失われた魔法研究の第一人者、彼女が生み出したリザレクは三割程の成功率で死者を蘇生させる。リトに刺された瞬間にアリエルは使ったのだろう。
魔法の天才だ……
そして、僕らと違って、アリエルは運命力を持っている。世界は、運命はどちらを生かすかを選択したんだ。
「流石にここまでされて私も黙ってはいられない! まだ、頭はしっかりしてこないけど、特大の魔法の一つくらいは可能だ。この結界内全てを焼き尽くす。私の最大の火炎魔法。ブラストルファイアーを放って精算としよう」
アリエルは、両手をあげて呪文詠唱を始めた。そんな中リトの姿が僕の視界に入る。そしてリトはその瞳を光らせる。
なんて美しい紅い瞳なんだろう。僕と目が合っても僕を見ているんじゃないような、リトは頷く。
口をパクパクと動かしているのは……
あ・り・え・る・を・こ・ろ・す
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