エピローグ
三月一日。日記を付け始めてもう一年近く経つのか。早いような長いような。ちょっとよく分からないかもしれない。
まぁ、それはいいとして、一年前の僕に向けて一応報告しておこうか。高校生活エンジョイの目標、現在進行形で達成してるぞ。
クラスの皆とも良好な関係を築けていて、妹の苺がいて、愁斗や葵木のような大切な友達がいて、何より、隣には六花がいる。お世辞でも何でもなく、今はただ、毎日が最高に楽しいよ。
そこまで書いたところで、削りかけた鉛筆を机に置く。日記帳として平日休日に関係なく当時の僕が思いを綴ったノートは筆圧からかかなりの厚さになっていた。
変わったな。ふと、気になってノートのページをパラパラとめくる。
僕の視界に真っ先に入ってきたその日は十二月一日だった。入学直後の意気込みと比べて現状を嘆く当時の僕の内心。この時は変わりたいって必死だったけ。何も知らなくて、無知で何もないことに危機感を抱いていた。
ちなみに、そろそろ春休みを迎えようとしている僕の周りは六花と付き合う以前と同じく愁斗と、葵木がいる。
愁斗は相変わらずの調子で、葵木も今まで通り友達として僕とも六花とも打ち解けている。
最近は苺も六花や葵木、愁斗と関わるようになって、なぜか若干愁斗の部活に興味があるらしく、休日ハイキングに行ったりしているようだ。
ちなみに、六花は僕と付き合い始めてから体温の異常がなくなって、今まで以上に僕を求めてきている。ポジティブに捉えれば、色々と積極的になったと思う。
ほんと変わったな。僕たち。
六花がやって来て、葵木と僕と愁斗と四人で過ごし始めて、クラスメイトと衝突することもあったし、六花が先輩に告白されたこともあったけ。本当にいろんなことがあって、誰かが、誰かに抱く想いも時として変わって、そして今があるんだろうな。
だから、変わってもいいんだと思う。変わりゆく日常があるから、変わらない日常が時に輝いて見えて、変わらない日常があるから、僕たちは変化を求めるんだ。
変わることも、変わらないことも僕たちは求めることが出来る。求めていいんだ。欲していいんだ。一歩を踏み出して、選べばいい、何回も、何回も。
って、何を柄にもなく自己啓発みたいなことを言っているのだろう僕は。過去の自分にマウントなんて取っても仕方ないのに。
「ん? 何やってるの灯君」
日記を仕舞おうとしたところでドアが開き寝間着姿の六花が入ってくる。まぁ、入ってくるというか、ここは六花の部屋だからそれは当たり前なんだけどな。
「あれ? これ日記?」
「うん、一年前から毎日書いてるんだ」
「そうなの?! 私、気になるなぁ、読んでもいい?」
「ちょっ、流石にそれは駄目だって! 恥ずかしいから」
「私に見せられない内容でも書いてあるのかな?」
「それは……………………」
「まっ、いっか。今度勝手に見ちゃうんだから」
六花は潔く? 諦めると、そのまま寝間着姿でベッドにダイブする。
「灯君、一緒に寝よ?」
「えっ、もう、そんな時間だっけ?」
「そんな時間だよ、夜更かしは体調不良の元なんだから、早く寝ないと駄目」
と、いいながらもまだ全く眠気を感じない六花の声。寝ている間にいたずらをされるかもしれないと思いつつも、僕は抵抗なく六花の隣へその身を委ねる。
囁かれる愛情と抱く安心感のまま僕は六花の頭を優しく撫でた。
「大好きだよ、灯君」
「大好きだよ、六花」
一日の終わり、僕も、六花も互いへの愛情を囁いて、二人で眠りの世界へ入る。
朝が来て、目が覚めたら真っ先に六花がいてニコリと笑ってくれる。
そんな毎日が嬉しくて楽しい。
眠りへと誘われる寸前に一つ、僕は願望を抱く。
六花と、そして大切な人達とこれからも楽しい時間を過ごせますように。
僕と彼女と冬と春 ヨキリリのソラ @yokiririno-sora
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