マチルダさん事件

爽太郎

第1話

あれはそう、忘れたくても忘れられない中学一年の五月の事。

俺の通学コースに、あるレンタル会社があった。


その会社の敷地には、十数台のトラックが置かれていて、そのうちの一台は平ボディー(荷台に幌や箱が着いてないもの。ちり紙交換車みたいな感じの車)だった。


その平ボディーのトラックの上に一体のマネキンが、ナイロンの紐で縛られて載せてあった。


マネキンは一応女性で、(性別なんてあるのか?) 髪は茶色のショートカット。

服は半袖半ズボンの、アーミーカラーの戦闘服姿だった。


まるでガンダムに出てくるマチルダさんソックリだったので、俺はマチルダさんと名付けた。(まんま)



マチルダさんは、艶っぽかった…。










(抱きたい…、マチルダさんを!)






中学生のアタマの中なんて四六時中エロい事しか考えてない。

俺は日頃から


(女の人とエッチするのって、どんな感覚なのかなぁ…)


と考えていた。

一体、女体とはどんな感じなんだろうか…。エッチって、どんな感覚だろう…。



一度こう思ってしまうと、もう俺のアタマの中はエロい事しか浮かばなかった。

そして遂にはこんな事を思ってしまった。



(マチルダさんで女体を体験したい!)



体験したいも何もマチルダさんはマネキンであるからして、いかがわしい事は何一つ出来ないのだが(そーゆー人形じゃねーから…)


それでも俺は何となく、女の体と言うのはどんなものなのかを体験したかった。



かくして計画は実行された。

時間は既に夜の十時を回っていたと思う。

俺はポケットにハサミを忍ばせ、マチルダさんの待つレンタル会社へ向かった。


現場に着くと、既にレンタル会社の灯りは消えていたが、会社の前は結構人通りが多かった。


俺は何となくマチルダさんの周辺の通りっぱたにいて、人気がなくなるのを待った。

すると、俺の態度を不審に思ったヤツが自転車で近づいてきてこう言った。


「お前さっきからここで何やってんだよ…」


ソイツは見た感じ、俺より一個二個年上の雰囲気だった。

あまりにもマチルダさんの周辺をウロウロしてたのが怪しかったのだろう。

しかし俺はすぐさま


「いや、ちょっと財布落としちゃって…」


と言うクサい芝居をした。

ソイツは、ホントかなぁ? と言う表情をしつつも走り去っていった。


(ふぅ…。邪魔者は居なくなった…)



俺は改めて周囲を窺った。

通りには誰も居なかった。


ただ一つだけ懸念があるとすれば、マチルダさんが載っているトラックの真ん前は団地なのである。


団地は五階建てで一つの階に八世帯が入居している。

つまり一棟当たり40世帯だ。

しかもマチルダさんの前には二棟の建物があるので、都合80世帯もあるのだ!


これだけ世帯数があれば何軒かの世帯が俺の事を目撃するだろう…。


だが、躊躇っていてはせっかくの好機を逸してしまう。




いつやるの?

今でしょ!



俺は素早くトラックの荷台に飛び乗るや、ポケットからハサミを取り出して、マチルダさんを拘束するナイロンの紐を切った。


全ての紐を切断すると、俺は辺りを見渡した。


誰も見ていない!


俺はマチルダさんを脇に抱えると、まるでラガーマンのように疾駆した。

レンタル会社の真裏にある広大な畑目指して一直線に走った。


そしてその広大な畑の中央にマチルダさんを…



トライ!



押し倒した。


俺はマチルダさんの着ていたアーミーカラーのシャツを引き裂いた。

瞬間、マチルダさんの胸があらわになった。(ただの変態)


俺はマチルダさんの凹凸のない胸をまさぐった。

そしてその厚い胸板を、まるで赤子が母乳を飲むかのように頬張った。

(この間五秒足らず)


そして俺は、この変態行為が見つからないうちに、後ろを振り返ることなく全力で走り去った。




──────────────────────────────────────────────────────




そして翌日。


俺は上機嫌だった。


(今日学校に行ったら話してやるんだ。 嶋田のバカに…。俺は女の体を知ってるんだぞって…)


こんな事を考えていた。

登校途中で、八百屋のしみ夫と会った。

俺はしみ夫と喋りながら登校した。


すると、前方にパトカーが停まってる。

パトカーから二人の警官が降りてきた。 事件だろうか、事故だろうか…。


警官は一人の老人のもとへ歩いて行った。


老人は警官を手招きしながら背後を指差した。



「あそこで女の人が◯んでます!」



見ると、畑の真ん中で、無惨にも服をビリビリに引き裂かれた女性が仰向けになって身動ぎ一つしない。

見るからに、レ◯プされた後、口封じに殺されたのだろう…。

何て事だ…。こんな長閑な町に…。



しかし、よく見るとそれは見覚えのある女性だった。



(マ、マ、マチルダさん!)



そうだ! 夕べ俺はマチルダさんを押し倒した後、後ろを振り向きもせずその場を去った。

当然畑の中央には素っ裸のマチルダさんの姿が!



何も知らない畑の主が遠目から見たら、そりゃ女性がレ◯プされて殺されたと思うわな。まさか、マネキンが犯されるなんて思いもしないから…。



警官は苦笑いで、マネキンだよと言っていたが、俺は素知らぬ顔で学校に向かった。



しみ夫は事件の様子を面白可笑しく話していたが、俺は同じクラスの嶋田と西田に、「俺、女知ってんだよー」と偉そうに自慢していた。



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マチルダさん事件 爽太郎 @soso-sotaro1207

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