はなさないで

蔵樹紗和

第1話

「ごめん、俺……お前とは付き合えない」


私が付き合ってくださいと伝えた途端、私の想いはあっさりと切り捨てられた。


初めて人を好きになった。だから告白をした。ただそれだけだったのに、振られてしまった。


それがショックだったのか。私は自分でも驚くような行動に出てしまった。


「なんで、ですか?」


理由を聞くつもりはなかった。だが、体と口が勝手に動いてしまう。頭で考えたことは全く行動に反映されていないようだ。


「理由、か」


あぁ、もうそれ以上話さないで。私が勝手にしでかしたことに、真剣に答えなくていいから。


ここから先の話を聞いてしまっては、余計に嫌な思いをしてしまいそうだ。だから目を瞑った。


しかし、その仕草に気が付かない彼はそのまま話を続ける。


「俺ではお前を幸せにしてやることなんて出来るわけがない。これが理由だ」


……え? 今、なんて言った??


私が驚きの色を浮かべていると、彼は少しだけ顔を赤らめる。


「どういうことですか?」


思わず意味を問うてしまった。


「べ、別に、お前が嫌いなわけじゃ無いぞ。ただ、自信が無いんだ」

「……!!」


嫌いじゃ無いという彼の言葉に、いくらか救われた気がする。私の体はまたしても思わぬ行動を起こしてしまった。


「自信があれば私と付き合ってくれるってことですか?」


正直、おかしなことを聞いたと思う。しかし、真面目な彼は真剣な瞳で答えてくれた。


「あぁ。……自信があれば、な」


口に出したら恥ずかしくなったのか、顔が真っ赤になっている。それが伝染してきて、私も顔が熱くなってくるのが感じられた。


「ねぇ、それでさぁ」


そのうち、遠くから人が近づいてくる声が聞こえる。そんなに長時間話していたのだろうか。


その声を聞いて彼は焦ったのか、彼も驚きの行動を起こした。


「……!?」


気づいたら私は彼の腕に引き寄せられ、壁際で相手から隠れるように立っていた。


離さないで、この腕を。私はこの時が長く続くことを願ったのだった。

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はなさないで 蔵樹紗和 @kuraki_sawa

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