第32話 ラストフェーズ

「アイーダ。レディー・オスカーに二度の敗北は許されませんよ」

「安心するしクイン。私はイブみたいに死なないし」

 クインは大きな一撃を食らったアイーダを窘める。

「当たり前です。必勝し、総理の国造りを推し進めてこそ我らレディー・オスカーなのです」

「次は私の番だし。死ねし、アリス」

 アイーダは白い怪物で作られた鎧状の外骨格をまとい、アリスに突撃してくる。

「真正面からなんて馬鹿みたいね」

 アリスはステラの方を見た。


 ステラは手に持っている指揮棒を振り、アイーダを重力場で圧し潰す。彼女はパワーアップした彼女らの圧力に耐え切れず、屈してしまう。


「アイーダ。こんな雑魚共の攻撃に膝を屈するな。我々は総理大臣の懐刀なんですよ」

「クイン。後ろからごちゃごちゃ言わず、バフを掛けるし」

 クインはこくりと頷く。

「神拳Q。セルヴァッジョ」

 クインはオーラで笛を具現化させ、演奏する。

 その演奏を聞いたアイーダはステラの重力に一瞬逆らい、空間穴を生み出す。穴に入ったアイーダはアリスの後ろに繋いだ穴から飛び出して不意打ちする。



 後ろの気配に気付いたアリスは素早く対応し、その不意打ちを凌ぐ。

「ちっ。あのバフのせいでアイーダがセカンダリーを発動したくらいのレベルまで強化されてる」

「更に私はセカンダリーを残してるし。つまりお前に勝ち目はないってことだし」

 それに対してアリスは水の球体を作り、自分ごと入った。

 アイーダは腕だけ出して、アッパーカットを決めようとする。

 それを見たアリスは彼女の腕を掴み、強引に引っ張り出し、上空にぶん投げた。

「神拳F。水龍連弾」

 アリスは龍を象った巨大な水の塊を十個一気に放った。

 アイーダは急いで空間穴を作った。

 アリスは繋がっている穴を見つけて、水龍をそちらに向ける。

 アイーダが出てくる瞬間に水龍の顎が彼女の上半身を捕えた。

「水球に変われ」

 アリスは水龍の形を人一人分程度の大きさの水球に変化させて、アイーダを閉じ込めた。

「水龍共。アイーダを食い破れ」

 残りの水龍が閉じ込められたアイーダに向かっていく。九つの龍がアイーダにぶつかり、彼女の外骨格と肉体に損傷を与えていく。

「この程度で死ぬたまじゃないでしょ。あんたは」

 アリスはアイーダの本気を見越して言う。


 次の瞬間、アイーダは水球をぶち破る。全身に外骨格が形成され、更にそれを守るように白い防護鎧を身に着けている。

「これがあんたの本気か」

「クイン。こいつ、甘くないし。セカンダリーでバフ掛けるし」

「ええ。もちろんそのつもりよ」

 クインはアイーダの言葉に応じて即座にセカンダリーを発動させる。身の丈よりも大きい笛を巧みに演奏し、アイーダを強化する。


「これ倒せたらあんたの勝ちだし」

「あんたらも二人で掛かればいいんじゃない?」

「クインはサポートタイプだし。私一人で十分だし」

「ステラ。こいつの動きを抑えて」

「とっくにやってる。なんでこんな平然としてるのか分からないよ」

「じゃあやるし」

「ええ」

 先に動いたのはアリスだ。大嵐波涛の構えを発動させる。秒間五百発、以前と比較して性能が十倍にアップしている超音速のラッシュを叩き込む。

 しかし彼女には一切響いていない。


「なら私もいっちょ真似てみるし」

 アイーダは大嵐波涛の構えを真似て、秒間五百発のラッシュを反対にやり返した。

 アリスも大嵐波涛の構えを取り、アイーダのラッシュに対応する。

(拳が馬鹿みてぇにかてぇ。同じことしてたら私の拳が壊される)


「ああ~。拳がボロボロだし。本気出したらすぐ死ぬとかマジで萎えるし」

「私はまだ折れてねぇよ。むしろ期待外れって感じ」

「弱いくせに。粉々にしてやるし」

 キレたアイーダは後ろを取り、貫手でアリスの心臓を突いてくる。

 しかしアリスは溶けてその場から消えた。

「なに?」

「神拳F。人型蜃気楼」

「躱せたからってどうしたし」

「私には勝利が見えている」

「それこそ蜃気楼だし」

「後ろ見ろよ」

「あん?」

 アイーダが振り返った瞬間、顔面にストレートが炸裂する。そしてその直後に姿を消す。

「蜃気楼と姿を被せてぶん殴ってやがるってことだし?」

「後ろ。上。左右」

 アリスは四体の人型蜃気楼を一気に出し、アイーダが混乱するように誘導する。

「舐めるな」

 アイーダは四方向ほぼ同時に攻撃を仕掛けて一気に対処した。

「ならこれは」

 アリスは人型蜃気楼を上下左右を囲むように何十体も作り出す。

 本物とそっくりで、動きもある蜃気楼の対処に神経を削がれる。

「なんとなく原理分かってきたし」

 アイーダはアリスの人型蜃気楼の術利を理解し、自分なりに再現しようと試みた。鎧と外骨格の融合率を落とし、その分余ったリソースを白い怪物を生み出すのに使う。

 白い怪物がそれぞれ独立して動き出すことで、アイーダは何十体もの分身に気を割かなくても良くなったのであった。



「何十体も出すとか聞いてないって」

「お前の人型蜃気楼はやぶれたな」

 それを聞いたアリスは思い通りに言ったと言わんばかりに笑った。


「なんでそんな顔してるわけ。頭変だし」

「ステラ。出力を最大にして」

 アリスはステラに指示を出し、彼女はそれに応じた。


 アイーダは先程まで平気そうにしていたが、苦悶の表情を浮かべながら押しつぶされないように必死に堪える。


「まさか。人型蜃気楼は私にこれを使わせるためにわざと使ったものだし?」

「ええ。あんたは白い怪物と合体して強くなるってのは分かってたからね。合体を解除させるためにはどうすればいいって考えてたのよ」

(まぁ。そんな言い訳は後から思いついたわけだけど)

 という本音をおくびにも出さないようにしていた。



 アリスは沢山出した人型蜃気楼を隠れ蓑にしながら、アイーダの下に近づく。懐まで潜り込んだアリスは彼女の腹に必殺の一撃を放つ。

「神拳F。血鯱遊泳」

 赤色の水で象られた巨大な鯱の顎がアイーダを食いちぎった。



 アイーダは鎧の一部を融合解除し、胴体を繋ぐのに使った。

 更に鎧が脆くなったのを知ったアリスは、血鯱遊泳を心臓目掛けて放つ。

 血鯱は融合解除が繰り返されたことによって脆くなっていた鎧と、その中にある外骨格を簡単に破り鎧と外骨格の中に秘めている本体も簡単に噛みちぎった。



「アイーダ。Rayperの生産工場の場所を教えなさい」

「言わねぇし。ばーか」

 とだけ言ってアイーダは息絶えた。


「れっ、レディ・オスカーが私以外全滅だと。そんな馬鹿なことがあってはいけない……」

 クインはアイーダの敗北と死亡に動揺しているようだ。


「かくなる上は態勢を立て直し……」

 とクインがアリス達から撤退しようと考えていた時、彼女の背後から一人の女性が姿を現わす。


「高城総理……」

「クイン。今の状況で敵前逃亡は許されません。私と共に戦闘に参加しなさい」

「はっ! 分かりました高城総理閣下」

 とクインは敬礼し、命令を了承する。



 アリス達は高城と呼ばれる女性の姿を見て動揺している。


「ベル。なんであんたがクインの味方してるのよ」

 アリスはベルの見た目をしている謎の女性の存在に動揺していた。

 ベルのオーラと別人のオーラが融合しているかのように見えたからだ。

(融合っていうか、身体を奪われたって感じ?)


「私はお前の愛した女に非ず、ということだな」

 高城は困惑しているアリスをあざ笑うように酷薄な笑みを浮かべた。

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