第25話 三すくみ

 家々は焼け、あるいは破壊され、叩き割られている。道路は裂け、裂け目の中に人の死体が詰まっている。生きている者も命がけの闘争の中にいて、死体の仲間となっていく。

 フェミニストとアンチフェミニストの小競り合いが各地で発生しているのだ。

「ぶっ殺して犯してやるぜフェミ公共が」

「ぶら下げているブツを勃たないようにしてやるわ。変質者共」

 フェミニスト側はジェンダーを発動し、息巻く。それに対してフトゥーロボーイズ側は銃火器を構える。

 互いに戦力が摩耗していく。





「博士。チルドレンの調整はどうなっている」

「依然通りであります」

 オスカーニウムに耐性を持ち、能力を獲得したドナーの体細胞から核を取り出して核を除いた卵細胞に移植して胚を育てるという方法を取るが、通常の人間の寿命の十分の一である。更に健康寿命であるという条件を加えると二十分の一にまで減少するのだ。


「一つも進展がないのか?」

「はい。ヒトクローンを誕生させることには世界で例を見ることがありませんので実現が難しく……」

「あれだけの金を割いている私に対してよくも言い訳ができたものだな」

 と高城は冷静さを失い、学者の胸倉を掴む。


「もっ、申し訳ございません」

 怯える学者の顔を見て冷静さを取り戻した高城は、

「そうか。ヒトクローンは非現実的だということだな」

 と高城は目で学者を射貫いた。

 彼は彼女の目つきに慄いた後、意識を失い絶命した。


 高城は不快な気持ちで研究室を出た。



 ネオ東京西側。

 状況はフトゥーロボーイズの優勢であった。

 フトゥーロボーイズのスローガンである

「男性に人権を」

「男性に平等を」

「男性に自由を」

「男性に平穏を」

 と書かれた旗を持った男達が吠える。


 劣勢を強いられているフェミニズム警察も負けじと立ち向かっていく。

 お互いに衝突し、血で血を塗る戦いが繰り広げられていた。

「アンチフェミニスト神拳。烈火革命」

「神拳F。水面八岐大蛇」

 その時、彼女らを裂くように一筋の光線と、龍を象った大量の水が叩きつけられる。


 彼らは自分達の戦いを妨害してくる敵に目を向けた。

「あっ、あれが超A級フェミニストとアンチフェミニストか」

「ベル・ウララはともかく。アリス・F・ミラーまでアンチフェミニストになるなんて」

 両軍共に、ベルとアリスの存在に動揺しているようだった。


「これ以上殺し合うなんて下らないことは止めなさい。止めないっていうなら私達が相手になるわよ」

 アリスは両軍を威嚇する。


「ぐっ。あの二人になんて勝てる奴なんて誰もいないぞ」

「「いるわよ」」

 と言ってフトゥーロボーイズの軍団の中から現れたのはニセス・フェイスとカルメン・T・ヴィオラだった。


「お前達は」

「久しぶりね~。ベル・ウララ」

 ニセス・フェイスはベルに対して不敵な笑みを浮かべる。


「ベル。こんな簡単な話はないわ。こいつらを速攻ぶっ殺せば戦争は終了よ」

「よし。皆。私達はカルメンとニセスを倒す。君達は雑魚を抑えていろ」

 ベルは隠れていた隊員達に姿を現わすように指示を出した。



「かっ、囲まれた? あれだけの人数、どこに隠れていたというんだ」

「あんた達。動揺しちゃ駄目よ。私達がこの二人をぶっ飛ばすまで抑えてなさい」

 カルメンが冷静さを失いかけている隊員に指示を出す。


「怯むな。我々はアンチフェミニスト共を逮捕するんだ」

 思わぬ乱入に怯んでいたものの、大きな獲物が来たということもあってかモチベーションが大きく上がったようである。



「それじゃあベル。私が先陣を切るわ。大嵐波涛の構え」

 構えたアリスは狙いをカルメンに定め、高速で飛び出して同じ目に遭わせてやろうと考えていた。


「アリス。私が同じ手をくらうと思う?」

「なにっ?」

 アリスが驚いて動きを止めた理由は、彼女の強気な言葉に驚いたわけではない。動こうとした瞬間、実体のない縄に縛られたような感覚が生じたからである。



「神拳T。悪夢現世」

「そのオーラの量。しょっぱなからセカンダリーを使ってきたってわけ」

「この悪夢を実行した場合、あんたは超硬くてでかいロープに圧迫されて死ぬことになる」

「やってみろよ。私はあんたに負けないからよ」

「悪夢実行」

 カルメンが叫ぶと同時に、アリスの周りに巨大なロープが現れた。それは彼女の身体を縛り、絞めつける。


「アリス……」

「心配そうな声を出すんじゃないわよ。ベル。こんなのすぐに脱出するんだからさ」


 アリスはベルを安心させるように笑った。そしてセカンダリーを発動させて速攻でロープを解いた。

「私のセカンダリーをパワーで突破してくるなんてイカれてるじゃない」

 カルメンは苛立ち半分、その他の感情半分の顔でアリスのことを見つめていた。



「ベル・ウララ。次は私の番よ~。アンチルッキズム神拳。アタクシドリルネクストステージ」

 ニセスはクラウチングスタートの姿勢を取り、勢いよく走り出した。そして加速のピーク時に前のめりにジャンプし、彼女は投げられた槍のような姿勢になる。そこからオーラでその姿勢を保ち、激しく回転した。


「私も容赦せん。アンチフェミニスト神拳。烈火革命」

 ニセスに向かって必殺技を放つ。

 彼はそれに対して一切の躊躇をすることなく、突っ込んでいく。

 (烈火革命を突破する手立てがあるのか?)

 一瞬緊張するベルであったが、彼は彼女に辿り着く前に倒れた。



「ちょっとあんた。躱すなりなんなりしなさいよ」

 とカルメンが突っ込むが、それはもっともだとベルは思った。


「私はね。わわわざと当たってやったのよ~。こっ、これからなんだから~」

 相当堪えているのだろう。ガクブル震えながら拳を構えている。


「ニセス。馬鹿なことは止めるんだ。私はなにも君を虐めたいわけではない」

「舐めるんじゃねぇ。男ニセス。心は生きてるんじゃ~」

「君の強い心はこんなところで消耗するべきではない」

 とベルは強く言い返した。

 ニセスは今度、ベルにインファイトの距離まで接近して接近戦を仕掛けてくる。

 ベルはそれに対してあえて応じた。

 最初は打ち合う二人であったが、徐々にベルが優勢になった。結果はというと十秒でベルが圧勝し、ニセスを沈めたのであった。


「カルメン。形勢逆転よ。二人でセカンダリーを使えばあんたなんて瞬殺なんだから」

「ちっ。分が悪いか……皆、引き上げるわよ」

 カルメンが引き上げる指示をしていた時、空間に大穴が生じた。そこから一人の少女が現れる。

「神拳A。敵を滅ぼせ」

 大穴から真っ白な怪物が大量に飛び出して、地上に着地する。怪物達は敵味方区別せずに殺していくのだった。


「アイーダ様。我々もおります。我々も……」

 というフェミニズム警察官の声も届かず、怪物の腕の一撃によって潰されてしまう。

 人間の断末魔が響くワンサイドゲームが開始され、残るのはわずか四人となった。



「ねぇベル。これ、超やばくない」

「だが……こいつを放っておいて無辜の民が傷つく」

「そうは言っても……」

「言っておくけど私達は協力しないわ」

「そうよ~。あんな化け物、私達の手に負えないわよ~」

「情けないぞ。貴様も組織を率いる者なら、無残にも殺された隊員達に報いようと思わないのか」

 ベルはカルメンとニセスを叱責した。




「そんなこと言ったってね~。カルメン」

「す・て・き。ヒーローみたい」

「ちょっとカルメン。現実に戻りなさ~い。戻りなさいってば~」

 ニセスはカルメンを説得しようと色々考えたが諦めた。



「ちょっとカルメン。ベルは私のなんだから。勘違いしないで」

「なら奪い取ってやるわよ。私の骨みたいにあんたのプライドを粉々にしてやるんだから」


「二人共。今は目の前の敵に集中しよう」

 とベルが声を掛けると、カルメンとアリスは争うことを止めて敵に向かい合った。


「泥船に乗ったのが運の尽きってところかしらね」

 ニセスも腹を括って、白い怪物と戦うことに決めた。



「私に勝つとか超愚かだし」

 白い怪物を操る少女は腹をくくった四人をあざけるように見つめていた。

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