ネオ東京最終決戦編
第22話 ギフト
睨みつけるベルの前に雷を纏い、金色に輝いている虎原がいきなり現れる。ベルの認識を超える程の拳を叩き込んでくる。ベルはそれを腕で受け止めた。
オーラで咄嗟に保護したから比較的軽微なものの、無防備な状態で喰らったら骨が折れて、千切れてしまうというのは予想に容易い。
そのような重い一撃の連打を繰り返されたベルは、反撃に出ることなどできなかった。更に攻撃のパターンが変化する。ガードしている腕ばかり狙い、意識的にオーラを削ぐ戦術を止めたのだろう。彼は上下に対する動きをスイッチするのと同時にフェイントを仕掛ける。
フェイントが入り混じる亜光速のコンビネーションを防御するという対応はベルにとって過酷であった。
故に見切って防御するのではなく、全身からオーラを放出して身を固めるという戦術を取ることを強いられたのだ。
そのような防御をして、ベルの体内にあるオーラが持つはずがない。セカンダリーによって作られた外装が光子となって消えかかる。
虎原は彼女の顔を掴み、
「アンチフェミニスト神拳。瞬昇雷」
で素早く上へとすっ飛び、天井に叩きつける。天井をぶち貫いた。
意識が消えそうな中で、虎原を睨みつける。
次の瞬間、虎原は真下へと視点を変えた。
「アンチフェミニスト神拳。瞬降雷」
地面に向かって亜光速で落下し、ベルを地面に叩きつける。
地面で動かなくなっているベルを見下ろしながら虎原は問いかける。
「お前には選択肢が二つある。一つ目は革命を諦めて短い余生を楽しむこと。二つ目は革命に命を燃やして、革命に死ぬことだ」
ベルは数秒後に意識を取り戻し、彼に言葉を返す。
「あっ、わっ、私はこのクソったれた国を見過ごして死ぬつもりはないぞ。龍」
立ち上がった彼女の目の色は元に戻り、破れた外装は修復される。
「そうか……」
虎原はベルの答えから、並々ならぬ覚悟を感じ取ったようで、拳を構え直した。
「ふっ……ぐっ……がはっ」
虎原はいきなり吐血し始めた。
「龍!」
「お前も俺もオスカーニウムに蝕まれている。あのマウスさ。覚えてるか?」
「私達がフェミニストでもないのにジェンダーを使えるようになったのはそのせいなのか?」
「そうだ。実験ラットを盗んだんだ。そしてあのネズミはお前にオスカーニウムを感染させた」
「それは私達の身体にとってよくないものだというのか?」
虎原はベルの言葉を肯定する。
「これは……力を与える。そして人生を破壊……する……」
虎原は肩で息をしている。
それだけではない。目は血走っていて、下腹部は膨張している。
「人生を破壊する……」
「べる……お前がメスであることを憎らしく思う。お前の甘い匂いが俺を人間からオスの獣にしようとしている」
「それが代償なのか?」
「うがあぁぁ」
吠えた虎原は飛び掛かり、ベルを抑えつける。ベルの身体を舐め回すように見た後、服に手を掛けて切り裂こうとしている。
「それでお前の気分が落ち着くならやれよ」
虎原は歪な笑みを浮かべてベルの肢体を犯そうとする。
その時、虎原の力が一瞬緩む。彼女はマウントポジションから抜け出した後、素早く上体を起こして虎原の顔面を掴む。それと同時に掌は赤く光り、青色の一条の炎が両手の掌から放たれる。
虎原は攻撃に気付き、顔をオーラで守る。しかしその威力を完全に殺すのに莫大な量のオーラを消耗した。
「はぁ……はぁ……お陰で目が覚めた」
「お互い誇り高く死のう」
「ああ」
ベルと虎原はお互いに構え直した。
「アンチフェミニスト神拳。真雷鎧」
虎原の鎧は金色からメタリックレッドに変色した。外見はカラーチェンジと細かな装飾が変わったという程度の変化だ。しかし、本質は圧倒的に変化している。
「これが君の本当の本気か」
「こんな無茶をするのは一度だけだ」
虎原はベルに言葉を返した直後。一秒にも満たない時間で雷を纏い、ベルの間合いに入り込んで体当たりを仕掛けてきた。
ベルは吹き飛ばされず、踏ん張る。
そんな彼女に対して彼は右ジャブを打つ。ベルはそれをパンチングして撃ち落とす。それと同時に左ハイキックが炸裂するが、左腕での防御を行い威力を減衰させる。
両腕を使わせたことにより、がら空きになった喉を目掛けて突きを出す。
しかしベルはエビぞりになって突きを回避した。
躱した瞬間、虎原は亜光速で足下に体当たりを仕掛ける。
マウントを取られまいと踏ん張るベルであったが、虎原は
「アンチフェミニスト神拳。飛雷」
で水平に飛び、ベルの足下を刈り取り独房の壁をぶち抜き、刑務所の壁を破壊する。
マウントを取る虎原。彼はベルの額に拳を当てて呟く。
「アンチフェミニスト神拳。ギフト」
と。
彼の拳から濃密なオーラの塊が発せられ、それはベルの肉体に浸透していく。
「龍……」
ベルは彼のしたことについてなんとなく感づいて、制止しようと試みる。
しかしそれは一瞬で終わった。
「ベル。春雷になれ」
それだけ言うと、虎原は満足げな表情を浮かべながら目を閉じた。
「……」
峻厳な峡谷から落ちる滝のような怒涛の拳に圧倒され、数秒間感情が消失していた。
肺に息を取り込む。すると徐々に身体の感覚が現実に馴染んでいく。アドレナリンで消えていた痛みで苦悶しながらも、立ち上がる。
「あなたに助けられました。最期の最後まで」
ベルは虎原の遺体に向けて手を合わせた。
彼女の身体を纏っていた外装は消えた。限界がやってきた彼女は倒れる最中、春雷を見た。白昼夢か、現実かは彼女のみ知る。
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