第16話 最強のフェミニスト戦士
「なんであんたがここに?」
「お前とベル・ウララとの戦いの結果が気になってな。まさか相打ちとはな」
「私はベル・ウララの大健闘に超びっくりっすよ」
オーブリーはわざとらしく驚く仕草をしてみせた。
「アリス。よくぞベル・ウララを追い詰めた。後は私が処理しておいてやろう」
「エルル。事情が変わったの。見逃してくれないかしら」
「絆されたか」
「まぁ。そんなところね。それとステラのことも解放してくれるともっと嬉しいけど」
「私は敵には情けをかけぬ主義だ。貴様がベル・ウララの軍門に下ったということは、貴様もステラと同じように私の敵になるということだ」
エルルが一歩動くと、浮遊していたステラ、プリンセス、フィアンセの三人はぼとりと落ちた。それと同時に山がじりじりと動くような圧力がこちらへと向かってくる。
「早く立て。さもなければプリンセスに寄生するクソオスとステラを一刀両断してしまうぞ」
エルルに急かされたベルは、ボロボロの体に鞭を打ち、立ち上がる。それを見たアリスも体に力を振り絞って立ち上がる。
「やはりお前は選ぶ道を間違えていたようだな。あの時、お前の愛のままにこの女についていけばよかったのだ。そうすればお前は少なくとも私と臆せず戦えたというのに」
「怖くない。だって今私はベルの隣にいるんだから」
「打ち込んで来い」
エルルは両手を広げて、二人の攻撃を受け入れる仕草をしてみせた。
最初に打ち込んだのはベルだった。ベルの正拳突きはエルルの身体に届く前に捻じ曲げられてしまい、目的を大幅に外す。
「そんな馬鹿な。一体どうやって?」
「オーラをお前の拳に打ち当てただけだ」
「姉さんのオーラ量は超A級と比較して十倍は優に超えるっすから。つまり姉さんをぶん殴るにはこの物量を乗り越えなきゃいけないってことっす」
「くっ」
「逃げるのか。ベル・ウララ」
「アリス」
「ええ。分かってる。神拳F。水流八岐大蛇」
水によって作られた八首の蛇をエルルにけしかける。しかしエルルは八首の蛇を一瞬で破壊する。
「オーラで作られたものにはオーラをぶつければいい。おまえの技はただの水鉄砲に過ぎない」
「こんな一方的じゃあ勝負にもならない。どうすればいいの?」
「一瞬でもいい。二人でセカンダリーを使ってみるか?」
「それしかないわね」
ベルとアリスは示し合わせて、セカンダリーを発動させた。
「二人ともセカンダリーを使えるのか」
エルルは二人に対して少なからず、感心を示した。
「姉さんが他人に感心するなんて珍しいっす」
「オーブリー、余計なことは言うな。お前は念のためにこの三人をフェミニズム警察に引き渡す準備をしろ」
「分かりましたっす。姉さんが負けるなんてありえないっすけど、私がこの島を飛び立つまでの間の時間稼ぎはよろしくっす」
オーブリーがそう言って三人を連れて行こうとするのを、ベルは止めようとする。
しかしエルルはそれを阻止するために、更にオーラを出力して威嚇する。
セカンダリーで基礎戦闘力が爆発的に向上したベルですら、立ち直るのに一瞬掛かる程であった。
(なんという威圧。これ一つでなにかの能力を使っているようなものではないか)
「貴様達の装いが変わったというのに、無手で突っ立っているというのは面白味がないな。そう思わんか?」
「何が言いたい?」
「私も武器を一つ持とうと思ってな」
「武器?」
「そう。このオーラを圧縮して剣にするんだ」
それを聞いた時、ベルは愕然とした。あの山のようなオーラが圧縮され、全て攻撃力に変換されるのだ。ベルは悪夢だと思った。
エルルは絶望するベルの心理など露も知らずに、ショートソードサイズのオーラブレードを作り上げる。
「さて試し切りと行こう」
エルルはオーラブレードを虚空に向けて振るう。
突風のような衝撃が駆け抜けて、振るった先数百メートルの樹木を全て切り裂いてしまった。
「あんな軽い一振りで……」
「なまくらだな。これは」
「ベル。びびんな。気持ちで負けたらこいつには勝てない」
「あっ、ああ……」
「経験者としてナイスな助言だと思うぞ。アリス」
エルルはアリスに一瞬で接近し、彼女の胴を分断した。
その直後、アリスはドロドロに溶けてその場から姿を消す。
「なるほど。偽物か。私が向かってくると思ってたわけだな」
「そう。そしてあんたは所詮人間。たらふく水を飲ませて息させなければ殺せる」
アリスはエルルの後ろを取り、首を極める。更に自分の掌をエルルの口に当てて、そこから水を一気に生成する。
エルルを窒息させるという魂胆らしい。
「疑問に思わんか? お前の初歩的な奇襲に私が気付かなかったのはなぜかと」
「どういう意味?」
「お前の関節技も、水をぶち込むという奇策も圧倒的なオーラの前には無意味だ」
ベルはアリスの方を見ると、彼女がオーラに圧されて力を緩めていることに気付いた。そして掌
と口の距離も微妙に離れていることに。
(これではアリスの奇襲攻撃が意味を成さない)
「この私があんたのオーラにビビってたってわけ」
「やはりあの時の敗北が、染みついているのだ」
「うるさい。もう三年も経っているんだ」
「アリス。こいつと戦ったことがあるのか?」
「お前がフリージェンダー学園を脱出した時のことだ。アリスは私が追跡するのを止めるために単身挑みかかってきたんだ。もちろん結果は惨敗。しかし私はC級フェミニストでありながら、私に怯まずに戦いを挑んできた彼女を評価して許してやったのだ」
「アリス。君は私を間接的に助けてくれていたんだね」
「それも昔の話。私はもうあんたに、負けない」
「アリスよ。私にとってフェミニズム全盛の時代は生きやすい。旧時代では惚れた女と生きることを差別する輩すらいたというじゃないか。しかし今の時代は惚れた女と生きることが普通とされる時代だ。私はこの時代を守る。そのために反乱分子は殺しておかなければならんのだ」
エルルが止めを刺そうとした瞬間、雷のような瞬きがエルルの頭上で生じた。
彼女は咄嗟に防御姿勢を取り、異物であるアリスを弾き飛ばした。
「お前は確か元アンチフェミーのリーダー。虎原龍。貴様がなぜこんなところにいる?」
「そうだ。虎原。なぜ今まで姿を現わさなかったんだ」
「俺も追われる身だったからさ。アリスが死亡したと始末してくれると言ってくれなければこんなこと、協力しなかったさ」
「私は本当に助けられてばかりのようだ」
「ベル。ここは一旦引きましょう」
「いや。三人で協力すれば」
「いや。アリスの言うことが正解だ。俺ができることは時間稼ぎだけだ。君達二人を抱えて戦うのは邪魔になる。早く行け」
虎原が逃げるように促す。
ベルとアリスは虎原に心の中で感謝してその場を逃げ出したのだった。
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