燃える名言チョコレート

第10話 バレンタインとフェミニスト

 アンチフェミー地下拠点アナグラにて。

「ベル様。ムーンC社からユアハモママとコラボレーションしたチョコレートを販売するため、販売店舗となっているストロベリー幸房を守って欲しいという依頼が来ました」

 リー・フェイロンがムーンC社からの依頼状を持って、ベルの所へとやってくる。

 ムーンC社とは、女性・女児向けのメディア・グッズ展開をするエンターテインメント会社である。女性・女児はムーンC社の商品が大好きだ。故に”水曜日のボイン”のようにやり玉に挙げられることはなかった。しかしユアハモママの発言が現在のフェミニズム的風潮に合わず、激しい批判を浴びせられることとなった。

 それだけですめばまだよかったが、ユアハモママの発言の一部がムーンC社を代表した発言だと誤解され、株価は大暴落し倒産の危機にまで追い詰められた。

 彼女達は、自分達の企画した商品が日の目に見ないことだけは避けなければならないという熱い思いから今回の依頼に踏み切ったのであった。




「無論引き受けるつもりだ」

「ベル様。事前に仕入れた情報によりますとフェミニスト達が異端思想啓蒙罪でストロベリー幸房を取り締まるという話を聞き及んでおります。それでも引き受けるつもりですか?」

「当たり前だ。私は今回のユアハモママの台詞は異端思想啓蒙罪だとは思わない。このくらいの皮肉も許容できないとなると、平等以前に表現の自由がなくなってしまう」

 とベルが言った。


「ええ。それは本当に感じます。ムーンC社が放映権を持っているユアハモは二十年も前に放送された作品であり、ユアハモママとチョコレート店のターゲット層はユアハモを懐かしむ女性がターゲット層ですから今の時代に合わなくてもいいんですよ」

「リー。今回は随分熱く語るじゃないか」

「ユアハモママは日本で暮らしていた時に見ていました。今でも大好きなアニメです。私も実はコラボチョコレートを購入したいと思っていた所なんですよ」

「いつも私を諫めようとする君が、自分からこの手の話を持ってくるとは珍しいなと思っていたが、納得したよ。君も好きな作品を守るために戦って欲しいということだな」

「ええ。ベル様。今回はより一層手厚いサポートをしていきたいと考えています」

 とリーは射抜くような視線をベルに送った。

 

 ベルはその中にある熱い闘志を受け取り、おうと頷いた。



 

 ベルはストロベリー幸房を訪れた。

 しかしストロベリー幸房をフェミニズム警察が取り囲んでいた。そんな彼女達に対抗するのは身長百八十センチ、筋骨隆々のコックコートを着た大男であった。黒髪に前髪だけ紫色のエクステをしているのと、堀の深い顔が特徴であった。


「おう。こらフェミ公共。俺の魂のチョコレートは貴様らには奪えんぜぇ」

 男は生地のガス抜き棒を持って吠えている。


「おろかな。他の職人は逃げ出しているというのに、お前一人でなにができるというのだ」

「俺一人でもチョコレートとかケーキとか作れらい。舐めんな」

 フェミニズム警察を前にしても一切怯むことはなかった。

「私の技で敗れるがいいぃ」

 フェミニズム警察官はフェミニストの基本であるオーラを纏った打撃を、大男にぶつけようとする。シンプルな攻撃であるが、一般人に当たれば即死するレベルの火力を誇る。

 

 それを見たベルは素早く間に割って入り、打撃を受け止める。

「市民を守る警察が、市民を殺そうとするなんておかしな話だな」

「こいつはクソオスだ。しかも異端思想啓蒙罪まで犯している」

「私はベル・ウララ。ストロベリー幸房の依頼を受けて参上した」

「おめぇがベル・ウララ? 細っこいべっぴんさんじゃねぇか」

「見た目で決めつけんことだな。少なくともあなたを瞬殺できるパワーは持っている」

 とベルが言う。


「直感で分かったよ。今のパンチを食らうとおっちんじまうってことがよぉ。でも……あんたに任せてもいいのかい?」

「私としては一人の方がやりやすい」

「だが。逃げたいのはやまやまだが、逃げ道がねぇ。どうすればいい」

「アンチフェミニスト神拳。烈火散弾」

 ベルは虚空に向けて拳を素早く突き出す。残像が見える程に繰り返された突きは、けたたましい音をたてるだけではなく、突き出した先から炎の弾が噴き出すくらいだった。

 フェミニズム警察の警察官達はこれを食らえば自分達程度では一撃で倒されてしまうということを悟った。

 フェミニズム警察官が回避行動を取ったことで、人一人が抜けられるだけの隙間が出来た。大男はその隙間に向かって逃げるように走り出したのだった。



「さて。君達の相手は私がしよう。掛かってこい」

「ひっ、怯むな。ベル・ウララはたった一人だ。私にフェミニズムパワーを分けてくれぇぇ」

「フェミニズムパワー?」

 初めて出てきた単語にベルは戸惑っていた。

 

「うひょ~。きた。きたぞフェミニズムパワーが。必殺フェミ玉」

 フェミニズム警察官は掌に集めたフェミ玉をベルに向けて放つ。

「火力は超A級に匹敵する。我々のパワーに敗れるがいいぃ」

 超A級に匹敵するフェミ玉であったが、ベルは手刀で弾き飛ばした。フェミ玉は天高く飛んでいき、赤色の花火のように爆ぜたのだった。


「わっ、我々のフェミ玉が通じない?」

「ばっ、化け物だ。奴は人間じゃない」

「おおおお、恐ろしいぃ」


「お前達のエゴに塗れたフェミ玉なんぞに負けるわけがない。次はこちらのお仕置きターンだ」

 ベルは背中に炎の翼を生やして、空高く飛翔した。

「アンチフェミニスト神拳。烈火散弾」

 ベルは素早く拳を何度も突き出した。拳の速度は加速度的に増し、やがて残像が見える程になった。それと同時に拳を突き出す度に炎の弾が生み出され、フェミニズム警察官に向けて放たれていった。


「フェミバリアー」

 フェミニストなら基本誰でも使える基本技であったが、ベルの烈火散弾はそれを簡単に打ち砕き、倒してしまった。


「成程。C級なんて君にとっては数にならないわけだ」

 褐色の肌の少女はストロベリー幸房の屋根の上から飛び降り、ベルに向き合った。

「お前は?」

「僕はステラ・G・スミス。超A級フェミニストさ」

「お前を倒せばフェミニスト討伐にも一層近づくというわけか」

「僕を倒す? 星を支配する僕を?」

 ステラは不機嫌な声で答えた。

 それと同時にベルの周りが一気に重くなる。

 ベルは気付いていた。彼女の能力が、重力を操る能力であると。


「ふふん。流石に立ち上がれないようだね。僕の重力にかかれば君は一歩も動けなくなる。そして今度は骨ごとすりつぶされて死んじゃうのさ」

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