第8話 P検
フェミニズム警察ポルノ検閲課。通称P検。女性を性的に搾取している著作物を取り締まっている。
水曜日のボインの作者の山田久志と自称弁護士の尾宗好雄を取り逃がしたことでフェミニズム警察の評価が下落していた。
下落した評価を取り返すために、ポルノ検閲活動を積極化していくことにしたのであった。
今回はP検の二十四時間に迫る。
P検は検閲を行うために元日本下ネタ協会の会員と司法取引を行い、ネオ東京にある支部の場所を特定した。
「お前は下ネタ協会の会員か?」
禿頭でだらしない身体をした見張りが検閲員に問う。
「はい。勿論です」
P検の検閲員は下ネタ協会内部に侵入して決定的な証拠を見つけて検挙しようと考えていたのだった。
「合言葉を言え」
「4545(シコシコ)」
「1919(イクイク)」
「11929292(イイクニク〇ニク〇ニ)」
「オーケーだ。恥ずかしそうにしているのがグッドポイントだぜ~」
下ネタ協会会員の陰部は盛り上がっていた。
下ネタを言わせて、女性を性的搾取していると切り捨て逮捕に踏み切りたい所ではあるが、焦るべきではない。
協会の内装はショッキングピンクの壁紙に耐水性と耐汚染性を兼ね備えたタイル床であった。本棚にはエロ本、収納棚には様々な性癖に対応した道具が揃えられていた。
「ではお邪魔いたします」
「そう。ここはエロスの楽園だ。ファッ〇ンフェミニズム。ハローオーガズム。生きる喜び逝きる喜び~。ここでは男はセン〇リ、女はマン〇リをすることができる。最高だろぉ~」
「えっ、ええ」
男がスラスラ下ネタを言うことに検閲員は引いていたが、平静を装った。
「で、お嬢ちゃんはどういう性癖をお持ちで?」
男はスケベな顔をしながら検閲員に問いかける。
「そういう質問はご遠慮してください」
「俺は見張り兼ドスケベコンシェルジュの仕事をしている。会員のどんな性癖に応える自信があるぜ。お嬢ちゃんがサディストなら虐められてやるし、その反対も然りだ」
「いえ。初めてですので見学しただけです」
「そうかい。ちなみにそこら辺の野郎や嬢ちゃんをナンパして致したくなったらプレイルームに行きな」
プレイルームの方を見ると、男と女の雄たけびのような声が聞こえてくる。
「おお……盛り上がっているようだな」
「概要は分かりました。ではお聞きしたいことが一つあります」
「なんだい?」
「本部はどこにありますか?」
「お嬢ちゃん。本部はVIPしか行けないよ。一見さんはお断りだよ」
「そうですか。それなら用済みです」
検閲員が言うと、谷間に隠していた笛を取り出して、鳴らした。
「貴様ら。まさかP検!」
「そうです。今投降すれば良い沙汰にしてあげます。更生施設で十五年の労働です」
「こいつらは男をペットにする変態フェミニスト共の手先だぞ。半殺しにしてやっちまえぇ」
下ネタ協会の会員と、P検の検閲員の死闘が今始まった。
「速報です。P検が下ネタ協会の東京支部の会員を逮捕しました。性欲に狂わされたイカレ反社クソオスである下ネタ協会。下ネタ協会の北海道支部、九州支部の襲撃以来成果を上げることはできませんでした。これはP検の大金星と言っても差支えないでしょう。一刻も早く下ネタ協会が壊滅して、女性にとって住み良い世の中になることを思っております」
アンチフェミニスト勢力の一つである下ネタ協会の東京支部が壊滅させられたことを聞いたベルはショックを受けていた。
傍にいた側近のリーは、
「明日は我が身です。目立つ真似はなさらないように」
「分かっている。私だって無謀な訳ではない」
「それだといいのですが……」
「それよりリー。組織の活動資金の方はどうなっている?」
「あまり芳しくありませんね」
「我々も警備の依頼を引き受けなければならんな」
「それはそうだと思いますが……」
「なにかいいところはないか? フェミニズム警察と対抗するような所とか」
「きょうび、フェミニズムやポリコレに正面衝突するビジネスをなさることはないでしょう。水曜日のボインのようなかわいらしい女性を売りにする作品なんてのは絶滅危惧種ですよ」
「それは確かにそうだ」
とベルは納得していた。
二人が当てがないかと考えていた時、隊員の一人が二人の下へと駆けつけてきた。
「リーさん。ベルさん。カートゥーン設立会から依頼が来ました」
「カートゥーン設立会からだって?」
ベルが驚くのは無理はなかった。
カートゥーン設立会とはカートゥンマーケットを運営する非営利団体である。
カートゥーンマーケットはフェミニズム時代より前は世界で最大の同人誌即売会であった。
商業規模を数字で現わすと一般参加者は百万人、個人ブース数は約四万、企業ブースは二百と日本のサブカルチャーイベントの中で最も規模が大きいイベントである。
しかしポルノによる女性の性的搾取禁止法、俗称エロ本禁止法の発令を契機にブースがドンドン縮小していった。
その結果、カートゥーンマーケットの規模は縮小し、この数年は開催すらされなくなっていたのだった。
「何故急にカトケをやろうとしているんだ?」
「ベル様がこの間山田久志氏を救ったことに触発されたそうです。アンチフェミニズムの啓蒙というより、表現の自由を取り戻そうという方が目的だとか」
依頼を持ってきた部下が意図を説明する。
「その設立会からどういう依頼が来たんだ?」
「下ネタ協会とドエロ研究所と共同で警備してほしいと」
「全員アンチフェミニスト組織じゃないか」
とベルは驚いていた。
「きな臭いですね」
リーはこの依頼を怪しんだ。
「カトケ主催者側がフェミニズム警察と協力している可能性があるということか」
「ええ」
リーは頷く。
「依頼を破棄しますか?」
と部下は問う。
「いや。仮に罠だったとしてもなんとか切り抜けるさ。それより活動資金が尽きる方がまずい」
「ベル様。今回は流石に無茶かと」
「フェミニストとの戦いは私に任せろ。リーは部隊を編成して私をサポートしろ」
「引き受けるつもりなのですね」
「ああ」
とベルは答えた。
カートゥーンマーケット会場。
会場をP検の検閲をパスするために健全なコスプレをしている参加者達が楽し気に歩いている。今期のアニメは? この推しキャラがいい。などだ。
非常に朗らかな雰囲気で、それを見ていたベルはかつてのカトケの盛況ぶりを空想していた。
(表現の自由があれば人々はもっと楽しむことが出来ただろうに)
ベルはカトケの参加者達に対して同情的だった。
メインストリートを抜けて外れのエリアに行くと、雰囲気ががらりと変わる。ビキニアーマーを見た女性と、それを取り囲むカメラマンの姿があった。また、販売している本も少々過激なものになってきている。
フェミニズム時代の価値観で言えば違法エリアとも言えるであろう。
「ほら。私を撮影して、汚らしいものを絞り出しなさ~い」
撮影されている女性は悦に入っている。カメラマン達もそれに呼応して興奮し始める。
口々に「女神だ」「最高だ」などと褒め立てる。
女性はそれを聞くとうっとりしている様子であった。
(お互いに合意ならいいんだが)
変態チックな戯れに少々引いていたベルであったが、それはそれでと受け入れたのであった。
「思想警察女性侮辱思想物検定部ポルノ検閲隊です。そこのビキニアーマーの女性、フェミニズム指導です」
彼らの戯れに割って入っていったのはP検の検閲隊であった。
「違う。私達はこの変態たちに脅されてこんな恰好をさせられていたの」
「ちっ、違う。同意した上で行われているんだ」
「嘘よ。この変態」
女性はカメラマン達を切り捨てた。
「超・調教。超・教育。超・死刑。私は真実を見通す。この阿部貞子はクソオスに媚びるド変態クソメスの姿を目撃している。素直に自白すれば許してやったものを……貴様を信心深いフェミニストにしてやろう」
「たっ、隊長が直々にですか?」
隊員達は阿部貞子の行動に驚いているようだった。
「待て」
ベルはP検と女性達の間に割って入る。
しかし、
「調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教調教!!!!!!!!!!!!!!!!」
阿部貞子が吠えながら鞭を振るう。それがビキニアーマーの女性と、カメラマン達の臀部だけを打つ。
阿部貞子の鞭は打つ者に快感をもたらし、彼らをお仕置きを求めるド変態人間に調教してしまうのだった。
「私の調教は極上!!!! ベル・ウララ。私がお仕置きする前にこの変態共が相手だ!!!!」
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