第5話



「まあ、私が選ぶの?まあ、私の護衛ですものね。なかなか決まらないのであれば、私が決めるべきよね。」


 パメラの言葉にフラン姫は最初驚いたような表情をしたが、納得したようだ。

 それに、このまま利きプリンの勝敗で決めるよりも、自分で決めた方が早いと思ったのだろう。

 

「私の護衛になりたい騎士たちよ手を上げなさいっ!」


「「「「「はいっっっっっ!!!」」」」」


 フラン姫はやる気のある騎士についてきてもらいたいのか、騎士たちに向かって手を上げるように言った。これには騎士たちも驚いたのか半数以上が目を丸くしてフラン姫を見ていた。残りの半数は、フラン姫の言葉に条件反射で従うように片手を真上にピシっと上げていた。

 傍で見ていたフランは「……フラン様は騎士たちに嫌われていたのでは?」と首を傾げ、騎士たちがフラン姫の護衛に付きたくないために利きプリンをおこなったと知っている騎士隊長も同様に「……なんでこんなにやる気に溢れているんだ。」と不思議そうに首を傾げていた。


「あら、結構いるわね。みんな威勢が良くて結構よ。でも、こんなに多くの護衛は連れて歩けないわ。お父様に叱られてしまうもの。申し訳ないけれど5人くらいに絞らせてもらうわね。」


「「「「「ちょっと待ってくださいっっっ」」」」」


 フラン姫が手を上げた騎士たちの中から誰にしようかと思案していると驚いて手を上げなかった騎士たちが慌てた様子でフラン姫に待ったをかけた。

 

「あら?なにかしら?」


 フラン姫たちは慌てふためく騎士たちに向かってにっこりと笑みを浮かべる。

 

「驚いて手を上げそびれてしまったのです。今一度機会をいただけませんでしょうか?」


「私にももう一度機会をいただけませんでしょうか。」


「私にも。」


「私にも。」


「私にも。」


 意外なことに手を上げなかった騎士たちは皆同じように護衛騎士として選んでほしいとフラン姫に対してアピールをし始めた。

 フラン姫はそんな騎士たちに向かって微笑みかける。そして、

 

「ごめんなさい。私は手を上げてくださった騎士たちから選ぶことにいたしましたの。……それに、驚いて手を上げそびれてしまったですって?言い訳にしてももっと良い言い訳はありませんの?敵襲があったときに驚いて身動きとれませんでした。って言い訳通じると思う?死んでいるわよ、あなたたち。即断即決。それが出来ないようなら騎士なんてやめてしまえばいいのよ。あなたたちの命が危険だわ。」


 フラン姫は出遅れた騎士たちを一刀両断した。

 

「ですがっ!フラン姫っ!」


「お願いしますっ!なにとぞもう一度私に機会を……。」


 なおも縋りつく騎士たち。

 いったいこの騎士たちの心境はどんなものなのだろうかとパメラは不思議に思った。


(フラン様に選ばれたくないはずなのに、なぜこうも食らいつくのか。理解ができないわ。)


「いいえ。あなたたちはお留守番ですっ!ただでさえ候補者は多く選別に苦慮しておりますの。これ以上候補者は増やしませんわ。まあ、利きプリンで全問正解できるというのならば考え直しましょうか?」


 フラン姫はそう言ってにっこりと笑った。

 その笑みはどこか黒いものが混じっていた。

 この時になってパメラはフラン姫が実は騎士たちがフラン姫の護衛になりたくなくて利きプリンの回答を出せずにいたということを知っていることに気が付いた。

 

(フラン様……。なんて健気で美しいのでしょう。)


 パメラはフラン姫に感動して目にうっすらと涙を浮かべる。


「「「「「全問わかりますっ!!!!!」」」」」


 騎士たちは声をそろえてそう答えた。

 この答えに騎士隊長は、冷や汗を浮かべた。そして、固唾を飲んで見守っていた既に手を上げた騎士たちも苦笑いだ。

 自らわざと利きプリンで答えなかったと言っているようなものなのだから。

 

「あら。そうなの?全問正解できるのね?」


 フラン姫は確認するように騎士たちに尋ねる。

 

「はいっ!もちろんでありますっ!」


「我々はプリンに対しては厳しいですからね。この程度の利きプリンに正解できないような軟弱ものではありませんっ!」


 堂々と宣言する騎士たち。

 フラン姫は笑みを深くした。


「そう?では、なぜ先ほどはあれほどまでに皆様正解を出せずにいたのでしょうか?」


 ピシっ。

 

 フラン姫の問いかけに騎士たちは一斉に静まり返った。


「……ふぅ。私は先ほど手を上げた騎士たちの中から護衛の騎士を選びます。あなたたちもそれでよろしいですわよね?」


 黙ったままでいる騎士たちにフラン姫はピシャリと言い放った。

 誰もなにも言えるわけもなく、騎士たちは黙って頷くしかなかった。


「さて、正直に答えなさい。手を上げた騎士たちよ。あなたたちは本当に私の護衛につきたいのかしら?」


「「「「「もちろんでありますっ!」」」」」


 騎士の中の5人だけがフラン姫の問いに即答した。

 

「わかったわ。今声をあげたあなた方5人を私の護衛騎士といたしますわ。」


 フラン姫は不敵に笑いながらそう宣言をした。

 これに困ったと頬を掻いたのは騎士隊長だ。

 今、フラン姫が選んだ5名こそが騎士たちの中でのトップ5だったからだ。

 有望な騎士全員をフラン姫の護衛にしてしまえば、城の護衛が少々手薄くなってしまう。

 

「あの……フラン様。せめて、その中の一人は残していただきたいのですが……。」


「あら?なぜですの?この方々が騎士の中でもっとも有能だからでしょうか?」


「……おっしゃる通りです。」


 騎士隊長はフラン姫の前で嘘をつくことができずに正直に答える。

 フラン姫はそんな騎士隊長に向かってにっこりと微笑んだ。

 

「なら、有能な騎士は私が借り受けますわ。もっちもちのプリンを探す旅が終わりましたらちゃんとにお返しいたしますのでご心配なく。5人だけ騎士をお借りするだけですもの。有能な騎士が5人だけなんて言いませんわよね?5人しか有能な騎士がいないだなんて、あなたのように素晴らしい騎士隊長にはあり得ないわ。そうでしょう?」


「……はい。」


 まさかまともな騎士がその5人しかいないなどと騎士隊長はフラン姫に言うこともできずに、騎士隊長はフラン姫のその言葉にその場で涙を流したのだった。


(……この国、大丈夫だろうか。)


 パメラがフラン姫と騎士隊長のやり取りを聞いていて不安に思ったのは言うまでもない。






「さて、私に同行してくださる騎士様たちの選定も終わりましたし、すぐにでも出発いたしましょうか。準備は出来ていますか?」


 フラン姫はそう言って5人の騎士たちに尋ねた。

 今、フラン姫に選定されたばかりのため普通に考えれば出立の準備は整っていないはずだ。

 

「……フラン姫様の準備は整っております。今すぐにでも出発は可能でございます。」


 パメラはそう付け足した。

 

「……すぐに用意いたします。」


 騎士の一人が代表してフラン姫に答える。異を唱える者はいないので、全員同じようだ。

 フラン姫はスッと眉を引き上げる。


「……あなたたちは優秀な騎士だと先ほど騎士隊長に聞いたわ。どのくらいで準備ができるのかしら?」


 暗に優秀なら支度もすぐに出来るのだろうとフラン姫は尋ねる。

 

「……一時間ほどいただければ準備できるかと。」


「わかったわ。一時間ね。では出発は一時間後に。」


 フラン姫は出発時間を騎士たちに告げる。騎士たちは神妙な面持ちでフラン姫の命に諾と答えた。

 フラン姫に敬礼すると騎士たちはその場を速やかに離れる。旅立つための準備を整えるためだろう。

 フラン姫は彼らの後ろ姿を見ながら、

 

「……優秀な騎士、ねぇ。まるでなめらかでつつけばすぐに崩れてしまいそうな我が国のプリンのようね。」


 目を細めながら誰に言うでもなく呟くのであった。







☆☆☆☆☆





「あら、意外ね。約束の時間にはまだ5分早いわよ。」


 フラン姫はやってきた騎士たちの姿を確認して微笑みかける。

 騎士たちは馬を引きながらフラン姫の元にやってきた。

 

「「「「「はっ。」」」」」


 騎士たちはフラン姫が先に来て待っていたことに気づいて顔を引き締める。


「あら、あなた襟がよじれているわよ。あなたはボタンをかけ間違えているわ。……あなたは、歯磨き粉かしら?口の端に白いものがついているわ。」


 フラン姫は一人一人の姿を目に止めると眉間に皺を寄せながら一つずつ指摘していく。

 騎士たちは時間がない中、慌てて用意をしたのだろう。

 フラン姫の指摘を受け、騎士たちは今一度自分の身なりを確認していく。

 フラン姫はその様子を冷めた目で見つめて呟いたいた。


「……平和ね。あまったるいプリンのようだわ。」





 騎士たちの身なりが整ったところで、フラン姫はそう言えばと、騎士たちに尋ねる。

 

「あなた達の名前を教えてくださるかしら?所属は皆様、第一近衛騎士団でよろしいのですよね?」


「はっ。第一近衛騎士団のアレン・ウェーイでございますっ!」


 声高らかに金髪の女性受けするような甘い顔をした青年が答えた。年の頃は20代半ばという頃だろうか。

 

「同じく、第一近衛騎士団のプリン・ア・ラモードでございますっ!」


 プリンのような髪色をした長髪の青年が答える。日に当たって訓練をしているとは思えないほど肌が白く輝いている。フラン姫よりも白いようだ。

 

「あなた、プリンって言うのね。」


 フラン姫はふっと目を細めた。

 

「同じく、第一近衛騎士団のプリン・ヤッポーでございます。」


 このスムースプディング国には珍しく黒髪の青年が答える。こちらは20代前半という頃だろうか。どこかあどけなさが残る。

 

「あなたもプリンって言うのね。」


「同じく、第一近衛騎士団のアウェイ・ナンクルナーイでございます。」


 飴色にカールした髪が特徴の青年だ。くるくるしたカールがまるで綿あめのようだ。


「あら、あなたはプリンではないのね?」


「同じく、第一近衛騎士団のユーコット・キッカーンでございます。」


 茶髪の青年が答える。青年と言ってももうすぐ壮年といってもおかしくない年頃だろうか。この中では一番年上のように見える。


「まあ、あなたもプリンではないのね。驚いたわ。」


 フラン姫は名前がプリンではない人物が3人もいることに驚いているようだった。

 このスムースプディング国では、名前にプリンとつける人が多い。国民の半数以上は名前がプリンだったりする。ややこしいことこの上ない。

 それほどスムースプディング国では「プリン」というものが崇拝されており、皆がつけたい名前第一位となっていた。


「あなたたちの名前は覚えたわ。全員がプリンという名前で安心したわ。呼ぶのに困らなそうね。」


 フラン姫がそう言うと、アレンと、アウェイと、ユーコットが顔を顰めた。

 

「では、さっそく参りましょう。もっちもちのプリンを求める旅に!!」


 フラン姫は声高らかに宣言すると、用意された馬車にパメラの手を借りながら乗り込んだのだった。


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姫様は「もちもちのプリン」が食べたいため旅にでることにしました 葉柚 @hayu_uduki

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